2度の不祥事を乗り越え“お客様第一主義”経営を推進

雪印乳業(株)

2000年~2001年にかけて起きた「大阪工場食中毒事件」と「雪印食品牛肉偽装事件」という2度の事件により企業存亡の危機に陥った雪印乳業(株)。創業の精神に立ち返り、“健土健民”の精神のもと、企業理念や企業ビジョンを再構築。お客様の生の声を活かす体制など、CS経営への変革によってお客様との信頼を回復し、お客様第一主義の企業体質の実現を推進している。

食中毒事件を契機に社内の情報伝達不足が露呈

 1950年の設立以来、国内乳業業界のリーディングカンパニーとして揺るぎない地位を築いてきた雪印乳業(株)。しかし、2000年6月27日に、同社の乳製品(主に低脂肪乳)を原因に発生し、有症者数1万3,420名という規模に達した「大阪工場食中毒事件」は、同社を大きなピンチに陥れた。
 食品メーカーとして、食中毒事件を引き起こしたこと自体が、大きなダメージとなったのは言うまでもないが、事件に関連したお客様とのコミュニケーションが不十分・不正確だったことも、同社のピンチをさらに拡大した。その原因は社内における情報伝達の不足にある。例えば、当時、お客様相談室でお客様からの問い合わせの電話を受けていたが、ある商品について「その商品は問題ありません」と回答した後に、マスコミにおいて当該商品が対象商品として報道されるようなことがあった。マスコミに情報を提供する広報部門と、お客様対応を担当するお客様相談室との間で十分な情報共有ができていなかったのだ。その結果、「信頼していたのに、裏切られた」「もう二度と、雪印製品は買わない」といった怒りの声も数多く寄せられるようになり、苦情総数は3万1,000件を超えた。

“消費者対応窓口”としての「お客様センター」設立へ

 このような状況の下、同社が着手したのが、「お客様センター」の設立である。
 同社では「お客様センター」の設立に当たり、従来のお客様対応組織の問題点を以下のように整理した。
 まず、従来のお客様相談室は全国6本部に分散配置しており、一元管理をしていなかった。また、社内的な位置付けが不明確であり、他部署との連携性が確保されていなかった。そして、そもそも“消費者対応窓口”として十分な研修が行われておらず、“苦情処理”という意識で業務を遂行していた。
 上記のような問題点に対応し、センターは社長直轄部門として、6本部のお客様相談室を本社(東京)に集約し、設置場所も決定権のある役員室に近い場所とした。また、“消費者対応窓口”としての機能を強化するためCTI(Computer Telephony Integration)を導入すると同時に、社内から商品情報、周辺情報を収集・整理した。さらにセンタースタッフは電話応対品質向上のための研修を受けるとともに、商品への理解を深めるため、工場見学なども実施した。
 「お客様センター」の設立準備は、まさに会社存亡の危機とも言える状況の中、急ピッチで進められ、事件発生から約4カ月後の2000年12月25日には、何とか業務開始にこぎ着けた。

“お客様第一主義”経営への転換の途上で新たな事件が発生

 同社では事件を契機に、「お客様センター」を管轄するCS推進室(現・コミュニケーション室)のほか、商品安全監査室(現・商品安全保証室)、企業倫理室(現・CSR推進部)、大阪ケアセンター(現・大阪工場食中毒事件お客様ケアセンター室、被害者ケアを担当)、食品衛生研究所といった組織を新設。全社を挙げて、“お客様第一主義”経営へのかじを切った。その中で、「お客様センター」には、①お問い合わせに対して正確・迅速・親切に答える、②お客様の苦情に的確に対応する、③重大化予測苦情のアラーム発信元となる、④お客様の生の声を収集・分析し、新商品の開発・改良に役立てる、⑤お客様とのネットワークを構築し、関係強化を図る、という5つの使命が与えられ、まさに経営の根幹をなす役割を担うことになった。そして、同センターは、ゼロからのスタートの中で苦しみながらも、徐々にノウハウを蓄積。その役割を果たしていった。
 「お客様センター」の活動をはじめとする同社の経営刷新の動きは、多少の紆余曲折はあったものの、生活者、 マスコミなどには、 総じて好意的に受け止められ、同社に対する信頼も徐々に回復。1年ほどで業績も上向きになりつつあった。その矢先、2002年1月23日に発覚したのが「雪印食品牛肉偽装事件」である。国のBSE(狂牛病)対策に乗じたこの詐欺事件は、同社の子会社である雪印食品(株)が引き起こしたものだったが、生活者にとっては同じ「雪印」が起こした事件としてとらえられ、同社はさらに大きなピンチに陥った。

企業倫理の徹底を図るとともに事件を風化させない取り組みを継続

 未曾有の危機の中、社員が立ち上がった。
 まず社員有志により 「雪印体質を変革する会」を結成。2002年3月24日には、社員一同による新聞広告を掲載し、事件を謝罪するとともに、体質の変革を約束した。
 そして、消費者団体からの社外取締役招聘、社内外の委員による企業倫理委員会の設置、「お客様モニター」制度のスタートなど、矢継ぎ早に外部の目の活用による企業倫理徹底強化のための施策を実施。さらに、2002年10月には、社員“一人ひとりの意識と行動の改革” を目指した行動基準づくりのため、企業倫理室を事務局としたプロジェクトチームを結成し、社員を対象にヒアリングやアンケートなどを実施。翌2003年1月に「雪印乳業行動基準」を策定した(その後、2007年6月に改訂)。
 この「雪印乳業行動基準」の中で注目されるのは、第7章(改訂後は第8章)の「私たちの宣誓」だ。これは役員・従業員全員が、「大阪工場食中毒事件」が発生した6月27日に、毎年「雪印乳業行動基準」に沿った行動をすることを宣誓し、役員、従業員は社長、社長は企業倫理担当役員に提出するというもの。企業倫理の徹底を図るとともに、事件を風化させない取り組みを継続していくという同社の姿勢が現れている。

雪印

第6期(2007年)となるお客様モニター会の模様

お客様の声を集約し本社部長会・役員ミーティングに提出

 「お客様センター」に寄せられるお客様の声も、より一層経営に反映されるようになった。
 基本的には、1週間分のお客様の声を集約し、毎週月曜日の朝に行われる本社部長会・役員ミーティングに提出。同様の内容をイントラネットにも掲載し、全社員が閲覧できるようにした。なお、“ナマの声”を感じられるよう、イントラネットでは個人情報を除いた実際のお客様の声が音声で聴取できるようになっている。
 そのほか、重大なトピックスについては、日々、関係部署の部長に連絡し、さらに同日中に社長にも報告される仕組みを設けた。また、「下痢・嘔吐」や「危険異物混入」といった緊急性の高い苦情が寄せられたり、「同一商品」「同一日付」「同一製造工場」「同一苦情分類」の苦情が2件以上となった場合には、システムにより自動検出され、商品安全保証室への連絡がなされて、必要に応じて緊急品質委員会を設置し、迅速な対応を行う体制が構築された。
 お客様対応品質の向上にも余念がない。年1回、一定期間について、「お客様センター」の対応の満足度を確認するアンケートを実施し、その結果に基づき、対応マニュアルの改善などを図っているほか、「お客様センター」以外の部署に対するミステリーコールなども実施。全社的な対応レベルの向上にも取り組んでいる。
 今後も同社は、お客様の生の声を活かす体制など、CS経営への変革によってお客様との信頼を回復し、お客様第一主義の企業体質の実現に向けて、これまで以上にまい進していく意向だ。


月刊『アイ・エム・プレス』2007年12月号の記事