TVCMからネット、教室へと誘導し体験・入会促進を狙う

ヤマハ(株)

ヤマハ音楽教室では、主に2歳から小学生までの子どもを対象としたコースにおいて“適期教育”を謳い、年齢に合わせてコースを設けている。5月開講の春の募集キャンペーンには、対象児とその親の関心喚起を図るTVCMと親が情報収集するWebサイトに、イメージキャラクター「ぷっぷる」を起用。統一感ある展開と的確な情報提供に努めている。

春の開講に向け親子を対象に広告展開

 音楽の普及啓蒙を狙って、50年以上の歴史を持つ「ヤマハ音楽教室」。大人向けの音楽教室を開講して20年経つなど、年齢を問わず音楽に興味を持つ人に広くコースを用意している。主に2歳児~小学生の子どもを対象とした教室においては、2歳児は「音楽とふれあう」、3歳児は「音楽を楽しむ」、4・5歳児は「聴いた音をドレミで歌う、弾く」というように、年齢に合わせてコースを設けている。「きく」「うたう」「ひく」「よむ」の4つの指導内容を、子どもの耳の発達や理解力に合わせた最適なカリキュラムで展開する“適期教育”を謳い、父兄同伴のグループレッスンの方針を採っている。
 生徒募集については、マス広告に関しては音楽普及部と広報部が、地域ごとのキャンペーン展開については音楽普及部や各教室会場が担当している。
 近年の傾向として、子どもの習いごとに高い関心を寄せる親が増えるにつれ、多様化と開始時期の低年齢化が加速しており、競合環境は激化していると言える。
 同社では、5月の開講に向けたプロモーション展開を、近年では毎年1月からTVCMとWebサイトを中心に行っている。TVCMにより生徒募集キャンペーンの認知を高め、Webサイトへ誘導して教室情報を収集できる流れを設計。Webサイトでは、キャラクター「ぷっぷる」をアイコンに使いながら、親しみやすくわかりやすい構成とし、スムーズに教室検索・体験教室の申し込みを行うことのできる導線を整備している。

映像と音の表現を重視したTVCMで子どもの興味を喚起

 プロモーション展開に当たって難しいのは、自身が通う大人向けの教室と違って、親が自分の子どもを通わせる教室であること。つまり、ターゲットが意思決定者の親でもあり、受講者本人の子どもでもある、ということである。親に対する教室の質感訴求と、子どもに対する直接的な訴求がそれぞれ重要で、最終的に子ども自身に教室に通いたいと感じてもらえるような工夫が必要である。そのため、まず子どもと親の双方にリーチするメディアとして、TVCMを中心に活用。効果を最大化させる表現に工夫を重ねている。
 2006年春に同社が実施した調査では、ターゲットとなる親子の9割がTVCMを認知しており、印象でも高スコアを獲得していたという結果を得て、2007年春には前年よりさらに予算を増やし、TVCMを中心にメディア展開している。
 TVCM表現では、2003年から2歳児のための「赤りんご」コースのキャラクターであるりんごをモチーフにした「ぷっぷる」を起用したところ、非常に好評だったことから、2004年以降のTVCMにも「ぷっぷる」を起用。今ではヤマハ音楽教室全体を象徴するようなキャラクターにまで成長している。またTVCM使用曲は、2004年以来使用し、認知も高まっている曲を、教室で子どもが実際に歌っているシーンを中心に構成。子どもの肩や胸ポケットなどに、合成した「ぷっぷる」を妖精のように登場させ、CMを見ている子どもにとっても「ぷっぷるだ!」と印象に残るよう工夫している。
 音楽教室のWebサイト立ち上げ当初はURLをCMの最後に表示し、CMを見た人にWebサイトの存在を認知してもらうことを狙ってきた。最近では、問い合わせの手段としてのWebサイトの重要性はますます高まっており、TVCMからWebサイトへの誘導を効果的に図るため、今春のTVCMでは表現をさらに一歩進め、URLではなく、「ドレミファソ」という検索キーワードのアイコンを最後に表示している。
 TVCM展開については、 全国のTVスポットを中心に、1月から4月の間に全国的に出稿。キャンペーン初期にボリュームを持たせ、一気に認知を獲得することを狙った。Webサイトのアクセス数は、投下量とほぼ相関しており、1月から3月で徐々にアクセス数が増えている(下図表参照)。

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①同社コーポレートサイトのトップページ。右上の「生徒・会員入会受付中」にカーソルを当てると、トップの画像がすっと変わる。 ②ヤマハ音楽教室のトップページ。右枠に、「日曜・夜間の開講枠はこちら」のバナーを設けている。 ③教室検索ページ

教室での動向を踏まえネットでの紹介内容を更新

 キーワード「ドレミファソ」の検索数は、3月下旬時点で7,000件以上に上る。
 アクセス経路については、音楽教室のWebサイト(www.yamaha-ongaku.com)のほかにも、「ヤマハ」などで検索してコーポレート・サイトに飛んでくる見込客も多いことから、そうした顧客を正しくスムーズに誘導するよう、ナビゲーションには十分に配慮している。またWebサイト内には、教室のコース別内容を説明するページや、全国の教室を市町村、駅名、郵便番号、住所とさまざまな角度から検索できるページのほか、子どもも遊んで楽しめるコンテンツなどを用意している。
 Webサイトの運営については、キャンペーン情報全体のハブとして十分に機能するよう、コンテンツや構成は日々改善を図り、使い勝手の向上に注力している。例えば、保護者同伴が必須であるグループレッスンの際に、父親が付き添うケースが増えてきていることや、母親が働いているため通いたくても通えないことなどが入会の阻害要因にもなっている可能性もあると考え、今春には、日曜・夜間に開講している教室一覧を掲載している。

メディア接触、ブランドの蓄積を見据えた展開プランの設計が重要

 開講前の体験教室や地域のプロモーションを含め、さまざまな場所・機会を通じてキャンペーンを並行して行っていることもあり、クロスメディア展開の相乗効果を正確に測定するのは難しい。ただし、ここ数年はWebサイトでの検索や体験教室の申し込みは年々増え、前年比で約1.5倍ペースで推移している。
 一度限りの体験教室とはいえ、Webでの情報収集だけで体験教室の申し込みまでするのでなく、実際に自分で会場へ問い合わせたり、訪問してから申し込みをする、というケースもまだあると見ている。これについてはWebサイトの情報をさらに充実させ、体験教室申し込み前に知りたいことや不安なことを極力解決できるようにすることで、ネット経由の申し込みはまだまだ伸びる余地があると考えている。
 今後同社では、入会の阻害要因や、入会に至るまでの各プロセスにおけるターゲット訴求をひとつひとつ分析し、TVCM、Webサイト、教室会場を通じて、どのようにそれらの相乗効果を最大化していくかが課題であると感じているようだ。


月刊『アイ・エム・プレス』2007年5月号の記事