既存チャネルとの均衡を保ちながら法人・個人顧客向けにオンラインストアを展開

日本ヒューレット・パッカード(株)

日本ヒューレット・パッカード(株)は、1999年にオンラインストア「HP Directplus」を立ち上げ、直販ビジネスに参入した。従来の販売チャネルが“パッケージ商品”を扱っているのに対し、直販ではカスタマイズ性の高い製品を短納期で提供。開始以来、プラス成長を続けている。

開始以来、堅調な伸びを続ける直販ビジネス

 2006年第3四半期の世界のパソコン出荷台数において、シェア1位を獲得したヒューレット・パッカード(以下、HP)。インクジェットプリンタ市場では10年連続で世界シェア1位を堅守している。日本ヒューレット・パッカード(株)はこの世界的シェアを誇るHPの日本法人であり、コンシューマ、中堅・中小企業、大企業、官公庁に至るすべてのお客様に対して、ITインフラストラクチャ、コンサルティング&インテグレーションサービスからPC、プリンタまで、幅広い製品やサービスを提供している。
 同社は1999年にオンラインストア「HP Directplus」を立ち上げ、直販ビジネスに参入した。当時、従来からの流通チャネルである量販店ルートでは国産メーカーが圧倒的な強さを見せていたため、業績を伸ばしていくためには先を見越した流通モデルを構築する必要があった。そうした中、外資系を中心としたメーカーが直販を開始。市場への浸透状況を注視した上で、同社も直販ビジネスの参入に踏み切った。そして開始以来常にプラス成長を続け、2006年度についても2桁成長を達成する見通しだ。

直販商品の特長は、カスタマイズ性の高さと短納期の実現、豊富なラインナップ

 直販での取扱商品は、パソコン、ワークステーション、PDA、サーバ、プリンタ、サプライ品など多岐にわたる。大判プリンタやIAサーバ(インテル社のチップ搭載機)など、小規模事業者向け商品まで幅広くラインナップしているが、これは他社と大きく異なる点だ。
 また、パートナー(販売代理店など)を介した従来の販売チャネルが“パッケージ商品”を扱っているのに対し、直販では“カスタマイズ性の高い商品”を扱い棲み分けている。パソコンを例に挙げると、直販ではプロセッサ、メモリ、ハードディスクなどの構成をニーズに合わせて自在に選ぶことができるのだ。さらに国内で組み立てを行うデスクトップパソコンやワークステーション、一部サーバは基本的に5営業日で納品。短納期を実現するプロセスが確立されているため、注文時に決定した納期がほぼ100%守られているという。組み立ては東京都昭島市の工場で一括して行われているが、大量消費地域に隣接しているという利点に加え、配送に空輸を使わなくて済むことから商品へのダメージも少ない。
 プリンタはカスタマイズ製品ではないことからより短納期を実現。エクスプレスサービスを利用すると支払方法は代引かクレジットカード払いに限定されるが、注文の翌日に納品されるという速さだ。
 パートナーを介さない直販営業は、法人と個人向けに分かれている。それぞれの取り組みに触れてみよう。

法人顧客は事業規模別に対応方法を差別化 通販の対象はSOHOと中小・中堅企業

 法人顧客は①従業員500人未満のSOHO、中小・中堅企業、②従業員500人以上の大企業、③公共機関(官公庁・医療機関・教育/研究機関・各種団体)の3つに大別されており、Web上にはそれぞれ別の入り口が設けられている。そして、①はWebとコールセンター、②③は担当の営業スタッフが顧客の対応を行う。①はコールセンターで営業を行うため、電話での受注が圧倒的に多い。
 Webサイトへの集客には新聞や雑誌広告、バナーなどのオンライン広告を活用しているが、最も効果が高いという日経新聞への広告出稿頻度が高い。また、広告は直販だけではなくパートナー支援の側面も持つ。例えば、新聞広告の問い合わせ先に直販とパートナーの連絡先を併記することで、すべての販売チャネルに通じるように配慮している。
 顧客へのアプローチは、Webで登録のあった見込客と既存顧客に分けて、eDM、FAX、紙DMを活用している。eDMとFAXは定期的に月2回発信するほか、販売戦略に合わせたアプローチを行う。
 紙DMについては、購入後に周辺商品の販促目的で送られる「ウェルカムキット」と優良顧客を醸成してロイヤルティを高めることを目的とした「バリューブック」の2種類がある。後者はHPの良さを知ってもらうために、製品の良さや会社の案内などを前面に押し出した読み物的な作りで、ターゲットを絞り込んだ上で年2~4回ほど送っている。そのほかに、オンラインストアではほかの販促活動と連動しながら、適時、プロモーションを実施している。
 そして、これらの施策の検証方法としては、レスポンスや集客数などのマーケティング活動に対する評価と、商品の売り上げなどの販売チャネルに対する評価を定期的に行い、日々の活動にフィードバックしている。

ターゲットを抽出しWebサイトへの集客を図る

 プロモーションの核となるターゲットの抽出は、①顧客のポテンシャル、②案件の内容の2つの側面から行っており、今後は双方のバランスを取っていきたいとしている。戦略の骨子になるため詳細は未公開であったが、①については一般に行われているRFM分析やシェア・オブ・ウォレット(投資予算に占める自社の割合)の観点に加え、これまでマーケティング部門で積み上げた独自の手法を使用しているとのことだ。
 ターゲットとなる法人が126万~130万社ある中で、接触できている顧客はごく一部である。そこで今後の課題を「新規開拓」ととらえ、これまでの広告とは別の方法でWebサイトへの集客を図っていきたいとしている。また、今後はパートナー営業と直販が提供するサービスの垣根がますます低くなることが予測されることから、顧客をカテゴライズし、各々に適した新しいサービスを生み出していく構えだ。

個人顧客へのアプローチは媒体効率を重視

 日本HPでは、2006年6月に個人向けノートパソコン「パビリオン」を発売。最近はビジネス用に注力していたため、個人用商品の発売は実に4年ぶりとなる。この商品の発売に当たり、新聞広告をはじめさまざまなオンライン広告を使用し、メディアミックスによるプロモーションを展開した。
 プロモーションは、①売り上げに結び付けるためにWebへの誘導を図ること、②見込客リスト数の最大化、の2つの観点から行われている。①については新聞・雑誌広告とバナー広告を活用し、Web誘導後の購入率を高めるために自社サイトやオンラインストアの訴求に注力している。実際に、個人顧客についてはWebを受注チャネルとして活用しているケースが圧倒的に多い。②についてはリスティング広告、キーワード広告、アフィリエイトを活用し、懸賞を絡めるなどして広く見込客を集めている。そして、これらの媒体効果をCPC(Cost Per Click/1クリック当たりの広告コスト)やCPA(Cost Per Acquisition/顧客や会員1件当たりの獲得コスト)で評価し、効率性を追求しているのだ。
 顧客との関係構築にはeDMを使用し、週1回発信している。法人顧客と同様にWebで登録のあった見込客と既存顧客に分けてアプローチを行い、見込客については開封を促進するとともに育成に力を入れている。
 効果測定には「AIDMAモデル」を活用して顧客の購買行動を分析。さらに細かい指標を使った緻密な分析により、媒体の投資効率を高めている。
 このようにさまざまな施策に取り組む同社の現在の課題は、個人向けに商品展開していることが市場にあまり認知されていないことだ。そこで顧客にHPをもっと知ってもらうために、新宿駅構内にパビリオンカフェを設置するなど、HPの良さやお手頃感を認知してもらう対策を講じている。同社では、今後も新しい手法を取り入れながら、オンラインストアの利用を促進していきたいとしている。


月刊『アイ・エム・プレス』2007年1月号の記事