インターネットにも本腰を入れ店舗連動での体制強化に取り組む

(株)三越

2006年2月から、(株)三越ではeコマースのさらなる強化を目指して、営業企画本部にあったeビジネス推進部を通信販売事業部に移管した。そして、インターネットサービスの充実を図ることで、百貨店をあまり利用しない若年層の自社ブランドに対する認知度を高め、店頭への誘導を図ると同時に、パソコンやケータイを通じたネット購買に慣れている世代の顧客化を推進している。

eビジネス推進部を営業企画本部から通信販売事業部に移管

 1673年の創業以来、330年以上にわたってお客様の支持を得てきた(株)三越。同社では、カタログ通販事業が順調に推移していることから、通販事業の成長性や可能性に注目。インターネットにも本腰を入れ、店舗連動での体制強化に取り組みつつある。
 そもそも同社のホームページの開設は、1996年6月にさかのぼる。当初は企業広報が主体であり、企業情報と一部店舗情報が掲載されている程度だった。その後、1999年5月にオンラインショッピングサイト「ONLY-YOU」をオープン。2000年11月にはトップページを大幅にリニューアルし、店舗情報も含めた情報発信力の高いサイト構築に取り組んできた。
 そして2006年2月から、同社ではeコマースのさらなる強化を目指して、営業企画本部にあったeビジネス推進部を通信販売事業部に移管。eコマースを急伸させるには、在庫の引き当てやインフラ、物流などの面から通販部門が最適と判断したためだ。また、この秋には、eビジネス推進部が担当していた店舗情報と企業情報の発信のほか、Webサイト全体のCI(コーポレート・アイデンティティ)やビジュアルなどを本社経営企画部ブランドCI推進室に移した。これにより、同推進部はeコマースの強化に注力することになったのである。

ネットもリアルと同じ接客レベルを目指しインターネットサービスの充実を図る

 同社では、インターネットもリアル(店舗)と同等の接客レベルを実現することを目指しており、eコマースのみならず、インターネットサービスの充実を図っている。eビジネス推進部が手掛けるネットサービスには大きく分けて、①インターネット会員(ONLY-YOU会員)向けサービス、②メールマガジンサービス、③モバイルサービス、④ブログサービスの4つがある。
 ①は、ONLY-YOU会員(入会金・年会費は無料)組織向けのサービスのこと。会員登録すると、共通のID・パスワードで「三越オンラインショッピング」「三越モバイル」が利用できるほか、同社の最新情報が満載のメルマガ「ADDFUN」が送信される。また、ギフトなどの届け先を一度入力すれば何度でも利用できるアドレス帳機能や、「三越オンラインショッピング」での購入履歴を過去2年分閲覧できる機能なども用意している。現在、ONLY-YOU会員は約27万人を数える。主な年齢層は30~50代で、既存店舗の顧客層の年齢よりも低いという。
 ②は、パソコンとモバイルの両方を用意。パソコンの場合は「ADDFUN」のほか、「銀座三越STYLE」「沖縄三越メルマガ」といった個店ごとのメールマガジン(以下、メルマガ)もある。いずれも配信頻度は週1回で、化粧品やファッション、最新ニュースやイベント情報といったさまざまな情報を配信し、既存店舗への誘引につなげている。ちなみに、「銀座三越STYLE」では、銀座三越周辺に勤めているOLを意識したファッションや化粧品の情報を提供している。「ADDFUN」会員数は約20万人。モバイルでは、同社のケータイ公式サイト「三越モバイル」の最新情報をいち早く配信する「ADDFUNエッセンス」というメルマガを毎月1~2回配信。モバイルメルマガ会員数は約2万人を数える。
 ③は、2003年から、NTTドコモ、au、ボーダフォン(現ソフトバンクモバイル)の3キャリアで公式サイト「三越モバイル」をオープン。店舗のイベントやショッピング情報を配信して来店促進につなげるほか、カタログ掲載商品の注文も受け付けており、モバイル経由の売り上げも徐々に増えているという。
 ④は、2004年にスタート。特定の趣味や関心事を持った顧客を対象に、Web上に情報交換の場を開設すると同時に、Web上でのやり取りをキッカケに誕生したサークルの交流の場として本店新館7階のコミュニティサロンを提供している。つまり、ブログサービスにより、お客様がやりたい「コト」に関連するサービスや情報を充実させることで、ロイヤル顧客との関係を深めるだけでなく、新規顧客の獲得を推進しているわけだ。また、同サイト上に、売り場に立つ販売スタッフのブログを集約した「感動百貨店日記」というコンテンツを用意。販売スタッフ発の店舗や商品に関する情報を掲載することで一般の広告と差異化している。
 このように、インターネットサービスの充実を図ることで、百貨店をあまり利用しない若年層の自社ブランドに対する認知度を高め、店頭に誘導すると同時に、パソコンやケータイを通じた購買に慣れている世代の顧客化を推進することを狙っているのだ。
 そのほか、ネット上でもリアルと同じ接客レベルを心掛けている同社は、ネットにもバリアフリーの考えを取り入れ、2004年からは、視力の弱い人や目が疲れやすい人でもホームページを快適に閲覧できるようにさまざまな工夫が施された、「らくらくウェブ散策」というソフトウエアを導入した。これは、ホームページ上の読みたいところにマウスを持っていくだけで、自動的にテキスト情報を音声で読み上げ、読み上げ速度や音量も簡単に調整できるというもの。また、背景色・文字の色を変える機能も付いていて、色覚異常の方も閲覧できるようになっている。

2010年にはネット売上高200億円を目指す

 一方、eコマースにおいては、①ギフト商材の充実、②全通販商材のネット上での取り扱いに取り組んでいる。ちなみに、ネットでの売上高30億円のうち約7割をギフトで占めている。①では、2006年6月末に、「三越のご出産祝い」のコンテンツを立ち上げたところ、かなりの反響を得ている。②は、ファッションから生活雑貨、食品まで、同社が発行するカタログに掲載されている商品をすべてネット上にも掲載していく。また、ネット独自の商品開発も行っていく意向だ。とりあえず2万点を掲載して、検索エンジン経由で自社サイトに誘導する計画。2010年にはネットの売上高200億円を目指す。
 また、受注チャネルとしてもインターネットを重視し、2005年5月には(株)テレビ東京の情報番組「レディス4」で紹介する全商品をネット経由で購入できるようにした。
 さらに、30~40代の女性をターゲットにしたファッションアイテムを扱う専門サイト「sage net」では、コーディネートなどソリューション提案を強化。カタログでは載せきれない情報を提供することで、女性からの支持も高く、数ある専門サイトの中でも最も商品が売れているという。
 同社では、eコマースの販売を促進するため、従来よりeDMを活用してきたが、今後は配信先のセグメンテーションを従来以上に精緻化していく。これまでにも、出産内祝いギフトを購入した顧客データを抽出し、3月、5月の初節句に向けてeDMを配信したところ、レスポンス率が高く、予想を上まわる購買につながった。また、ワインの購買履歴を基にeDMを配信したところ、かなりの反響を得たという。
 今後、店頭より優れたサービスをオンライン上で行っていくため、エンターテインメント性を持たせたり、クオリティの高いコンテンツを用意するなど、これまで以上に工夫を凝らしていく意向だ。

三越

三越のオンラインショッピングは、ネット上でもリアルと同じ接客レベルを目指しており、商品ひとつひとつに詳細な説明が付いているのが特徴だ


月刊『アイ・エム・プレス』2006年11月号の記事