首都圏を中心に総合食料品小売業(スーパーマーケット)を9店舗運営する(株)紀ノ国屋。既存店舗の核となる顧客層の変化に伴い、ネットビジネスへの進出を決断。インターネットを通じた商品販売の強化と販路拡大に向けて、全国向けの「e-shop」と地域限定の「ネットスーパー」を開設した。20~40代の顧客獲得につなげている。
全国に「KINOKUNIYA」を販売する“バーチャル店舗”「e-shop」
(株)紀ノ国屋の「KINOKUNIYA」ブランドは、「高級食料品専門スーパー」の代名詞的存在として、今やお膝元の首都圏ばかりか、全国にその名を知られている。ただし、同社は「老舗」からイメージする「保守的」な企業とは異なり、インターネットを駆使した物販に積極的に取り組んでいる。
そもそも同社がインターネットを活用するようになった背景には、顧客の高齢化が挙げられる。ある意味「老舗」企業に共通する悩みで、同社の場合も、長年愛用し続けてくれた顧客のうち、核となる顧客層が、すでに50代に達するという深刻な事態に直面している。単純にこのまま顧客の高齢化が進めば、顧客の先細りは必至。そこで、これを次の世代であり、最も購買力の旺盛な20~40代へとシフトしていくことが求められ始めていた。
この点、インターネットにアクセスする年代は、まさに20~40代が主流であり、この層のライフスタイルにマッチした「仕掛け」を構築することで、新たな顧客獲得につながると考えた。
同社では、インターネットを通じた販路拡大と次世代の顧客獲得に向けて、全国向けの「e-shop」と地域限定の「ネットスーパー」を開設した。
「e-shop」は、いわば「KINOKUNIYA」ブランドを前面に出したネット上の“バーチャル店舗”で、2001年1月からスタート。取扱商品数は約500アイテムを数える。当初は、同社の人気商品である「KINOKUNIYA」のロゴをあしらったオリジナルのナイロン製バッグ(買い物バッグ)や自社製パン、自社製デリカテッセンなどを中心に販売。その後、アイテム数を徐々に増やして、現在では雑貨、酒類、菓子、調味料、ギフト商品、オリジナル商品など、多岐にわたる。
「e-shop」の利用には会員登録(無料)が必要で、会員には月2回のメールマガジン(メルマガ)が配信される。コンテンツは「今月のおすすめ品」や「旬の果物」などで、顧客の維持・拡大、リピート率アップに一役買っている。ちなみに、同社ならではの高品質な商品ラインアップが魅力的なのか、もしくはロイヤルティの高い顧客が多いのか、メルマガの開封率は非常に高いという。とりわけ、ネット限定のオリジナルバッグ(500枚限定)の販売を告知するeメールを配信すると、定期的にモデルチェンジされる新作を目当てに、全国から注文が殺到し、早い時は、24時間以内に完売するという。
「御用聞き」的な便利さを追求した「ネットスーパー」
一方、「ネットスーパー」は、いわば地域密着型の「ネット版御用聞き」だ。昨今のお客様のライフスタイルの多様化に伴い、「日中に買い物をする時間がない」「好きな時間に買い物を楽しみたい」という要望が強く、この対策も急務だった。そこで、インターネットを駆使した「バーチャル・スーパーマーケット」を構築すれば、なかなか店舗に来られないお客様へのサービス向上につながると判断した。
2002年10月から始まったこのサービスは、既存店舗に並ぶほとんどの商品が対象とあって人気を博している。刺身や野菜といった生鮮食品、牛乳、卵といった日配品を軸に、調味料、日用雑貨など約2,500アイテムを用意する。
ネットからの注文に従って、従業員が店頭で希望商品をかごに入れ、顧客の自宅まで届けてくれる。顧客がいちいち店舗まで足を運ばなくても、ネットを通じて買い物ができる便利さが受けているという。
利用者は、画像で紹介される商品の中から、お目当ての品物を選ぶのだが、通常のネットショッピング・サイトと異なる点は、「レシピでわくわくお買い物」と「いつものお買物」の存在だろう。
前者は、献立に悩むお客様のために、料理のヒントを提供し、購買につなげるレシピ集。お客様に飽きられないために、定期的にレシピの差し替えも行っている。また後者は、お客様の過去の購買履歴から便利に買い物ができるサービスだ。お客様が「いつものお買物」のアイコンをクリックすると、Web上に購買頻度の高い商品の写真が並び、常備品の「買い忘れ」や、わざわざサイト内を何ページにもわたって閲覧して探すという手間を省いてくれる。この仕組みは購買に誘引する手段としてきわめて有効なツールと言える。
会員登録は無料だが、「ネットスーパー」と「e-shopはそれぞれ個別に登録する必要がある。
「ネットスーパー」の配送形態は、「当日配送」と「翌日配送」の2タイプに分かれている。ただし現在のところ、同社の配送エリアは限定されており、当日配送は東京都の千代田、 新宿、 渋谷、 港の4区のみ。東京青山にある旗艦店「インターナショナル」から配送される。例えば、当日午前10時までにオーダーすれば、同日の午後1時から午後8時までの好きな時間帯を配達時間として選べるという仕組みだ(日曜日、年末年始は休み)。
一方、翌日配達は、上記4区に加え、世田谷、杉並など山の手地区を中心に8区が対象で、吉祥寺店からヤマト運輸の「宅急便」で届けられる。正午までに注文すれば翌日の午前中から午後9時までの好きな時間帯に配送される。
いずれも1回当たり5万円が上限で、配達料は1回に付き税込み525円(翌日配送の場合、一部生鮮食品などを除く)。
ネットビジネスの「第1段階」を終え事業拡大のための「第2段階」へ進化
現在、「ネットスーパー」の場合、約3,000名を数える会員のほとんどがインターネットに慣れ親しんでいる20~40代。乳幼児を抱える主婦や日中働いている女性たちの間で徐々に支持を広げている。また、会員の月平均利用回数は2回で、ヘビーユーザーになると月に4回以上。さらに、客単価は1万円以上に上る。ちなみに、一般的なネットスーパーの客単価約6,400円(同社調べ)と比べても、その客単価の高さが際立っていると言える。もちろん「ネットスーパー」の売り上げ規模も年々拡大の一途で、今年に入ってからは、新聞や雑誌などでネットスーパーに関する記事が頻繁に取り上げられていることで、一般生活者への認知度も高まり、前年同期比110%の伸びを記録しているという。
今後は、お客様がより利用しやすいよう便利な機能をプラスするなど、システムを改良する予定だ。また、健康に対する意識の高いお客様を対象としたレシピのプロデュースを視野に入れたコンテンツ作りも検討している。
同社のネットビジネスは、販路拡大と次世代の顧客獲得のための「第1段階」を終えた。これからは、お客様の利便性といった付加価値の提供による事業拡大のための「土台」を構築する「第2段階」へと進化しつつある。
インターネットを通じた商品販売の強化と販路拡大に向けて、全国向けの「e-shop」と地域限定の「ネットスーパー」を開設