『whitebook』を起点にして新たな需要拡大を目指す

ポルシェ ジャパン(株)

高級ブランドの有力顧客向け季刊誌『whitebook』を活用し、セグメントされた顧客に同社の歴史やものづくりのコンセプトなどを紹介。既存顧客のロイヤルティ向上と新たな需要拡大につなげている。

停滞した輸入車市場の中で販売台数を伸ばし続けるポルシェ

 スポーツカーブランドとして知られるポルシェ。同社は、スポーツカーの分野において、世界の自動車業界の中で最も長い伝統を誇る自動車メーカーだ。
 日本におけるポルシェの販売は、当初、輸入業者が行っていたが、その後、1995年に、ポルシェAG社(ドイツ)の100%出資子会社として、ポルシェ自動車ジャパン(株)を設立し、日本への本格進出を始めた。1997年 6月には、社名を現在のポルシェ ジャパン(株)に変更。1998年 1月に、ポルシェの総輸入販売元として営業を開始したのである。
 同社が、総輸入販売元として営業を開始した1998年当時、ポルシェの総販売台数は1,000台程度にとどまっていたが、2003年にスポーツユーティリティビーグル「カイエン」の発売を機に顧客の拡大が加速し、現在では、3,400台を数えるまで総販売台数を伸ばしている。日本の輸入車市場が伸び悩む中で、同社は着実に業績を伸ばしており、輸入車業界の中でも注目の的になっているという。現在、ポルシェ正規販売店数は42店舗。同社では、販売店を増やして販売台数を伸ばすより、ポルシェのオーナーに対する充実したサービスの提供を優先し、“量”より“質”を追求していく。
 そのほか、同社では、ポルシェのオーナーとの交流を目的としたポルシェクラブを運営。同クラブは単一のドライバーズクラブとしては、世界最大のものだ。世界中に10万人を越すメンバーがおり、ツーリング、走行会や懇親会などの企画運営を中心に活動。ポルシェのオーナーならば、誰でも参加できる。国内では、「ポルシェクラブ ジャパン」と「ポルシェ356クラブ・オブ・ジャパン」の2つのポルシェクラブがポルシェAG社に公認されている。

『whitebook』を活用しセグメントされた顧客にアプローチ

 これまで同社では、新規顧客を獲得する方法として、マスマーケティングに注力してきた。雑誌やWebサイトでキャンペーンを告知し、キャンペーン申込者から、所有車や職業などの見込客データを収集し、それらをディーラーに渡してフォローしてもらっていたのだ。しかし、同社の正規販売店は約40店舗と少ない上に、その数に比例して営業担当者数も限られているため、膨大な顧客データを渡してもフォローしきれないという問題を抱えていた。つまり、見込客データをディーラーに渡しても活用されず、加えて見込客から「ポルシェにアプローチしても何も情報が来ない」という不満が寄せられるなど、悪循環に陥っていたのだ。
 こうした中、同社では、自社ブランドや規模を考慮するならば、マスマーケティングよりダイレクトマーケティングのほうが効率が良く、さらにターゲットをセグメントしたかたちでこれを展開していけば、より有望な見込客の獲得につながり、適切なフォローも行えると考えるようになった。
 一方で、自動車やファッション、酒、宝石、高級ブランドをクライアントに事業展開する広告会社アド・コム グループに、高級ブランドの有力顧客向け雑誌『whitebook』を発刊する企画が持ち上がった。これは、富裕層を顧客に抱える同グループのクライアント企業の「ブランド価値を伝えたい人に伝える有効な媒体がない」という悩みに応えるかたちで始まったもの。1業種1社に限定して、ブランドに奥行きやストーリー性があるか、どんな顧客層かなどを基準に参加企業を厳選した『whitebook』のビジネスモデルは、各参加企業が自社の顧客に同誌を送付することで、顧客を「共有」し合う仕組み。同誌は、単なる商品紹介ではなく、そのブランドの歴史や奥行きを紹介することで、ブランドの魅力を紐解き、価値を高める役割を担っている。
 同誌は、富裕層の顧客拡大を狙う異業種9社のものづくりに対するコンセプトや歴史といった情報を掲載し、年4回の季刊誌として毎回2万部を発行。各ブランドへの配布部数は2,000~3,000部になる。2006年春号の参加企業は、ポルシェ ジャパン(株)、モンブラン ジャパン(株)、スタインウェイ・ジャパン(株)、(株)カッシーナ・イクスシー、MHDディアジオ モエ ヘネシー(株)、フェンディ ジャパン、デビアスLVジャパン(株)、バング&オルフセン ジャパン(株)、(株)虎屋の9社である。
 この『whitebook』が創刊されたのは2003年春のこと。ポルシェの新型車「カイエン」の発売時期と一致した。同社としては、ポルシェのオーナーに2台目の購入を促すほか、新規顧客の獲得を狙っていたこともあり、セグメントされた顧客へのアプローチに最適ということで、同誌に参加することを決定した。また、ある特定の高級ブランドとタイアップしたのでは、ポルシェのオーナーに対して確たる理由付けが必要になる上に、ロイヤルティの高い顧客の支持を失う危険性もあるが、『whitebook』というひとつの媒体を起点とすることで、そうしたリスクが払拭できると判断した。

共催イベントを通して参加企業の顧客を高級ブランドの世界に引き込む

 『whitebook』という季刊誌以外のコラボレーションとしては、チャリティー・オークションを兼ねたクリスマスパーティーと、今年から始めた「ホワイトブックサロン」というコミュニティがある。クリスマスパーティーは『whitebook』参加企業全社の読者の中から350名を招待し、年1回開催。参加企業全社がチャリティー・オークション用の商品を提供するという豪華なパーティーだ。また、「ホワイトブックサロン」は、読者の中でも選ばれた50~100名程度を招いた参加企業数社共催のイベント。いずれも顧客に高級ブランドの世界を堪能していただくのが主旨だ。
 そのほか、2003年から読者専用Webサイトを開設。顧客一人ひとりにIDを発行すると同時に、何番から何番はポルシェといった具合にブランドごとにIDを識別することができる仕組みを導入。サイト閲覧時にIDを入力することで、例えば、スタインウェイの多くの顧客がポルシェのコンテンツをチェックしているといったことがわかるという工夫がなされている。また、氏名とeメールアドレスを登録すれば、各ブランドの特別な情報を提供するほか、スペシャルイベントへの招待特典も用意している。
 ポルシェ ジャパンでは、同社の情報がほしいと申し込んできた『whitebook』読者データをディーラーに渡して、すぐに連絡を取ったところ、成約に至ったケースもあったそうだ。また、『whitebook』に参加してからは、同誌の読者と思われる顧客がポルシェに興味を持ち始め、コンタクトを寄せるケースが増えてきているという。
 同社では今後も、雑誌やWebといったバーチャルの世界だけではなく、『whitebook』を起点にして、ポルシェが体験できる“場” をお客様に提供していく意向だ。現在、その一環として参加企業1社とのコラボレーションを計画している。

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アド・コム グループでは高級ブランドの有力顧客向け雑誌『whitebook』を介して、ほかの参加企業の顧客を「共有」し合う仕組みを構築。参加企業の1社であるポルシェ ジャパンは、同誌を通じてほかの高級ブランドの顧客との結び付きを図る


月刊『アイ・エム・プレス』2006年9月号の記事