かゆいところに手が届くサービスで優良顧客の拡大に挑む

(株)ヤマグチ

今から10年ほど前に家電量販店が町田市近郊に進出したことで、経営の危機にさらされることになった(株)ヤマグチ。同社が危機的状況から脱出し、年間売上高が12億円にまで達するようになった背景には「御用聞きビジネス」の存在があった。

「御用聞きビジネス」で地域のお客様の信頼を獲得

 人口約40万人、世帯数約16万戸を有する東京のベッドタウン町田市。ここに、ハイビジョンテレビの累計販売台数が8,000台と1店舗では日本一を誇る、家電量販店に負けない街の電器店がある。その電器店の名は「でんかのヤマグチ」である。
 1965年に、わずか数坪の店で家電の修理を中心に事業を興した同社は、その後、業容を拡大し、2006年3月期には12億円を売り上げるまでの成長を遂げた。その秘訣は、「御用聞きビジネス」にある。
 同社では1965年の創業以来、「お客様のわがままをすべて聞くこと」「お客様のかゆいところに手が届くこと」「お客様の楽しい買い物を楽しくお手伝いさせていただくこと」の3つを活動方針に掲げ、お客様の要望であれば電球や掃除機の紙パック1個でも笑顔で届け、小さな修理にも進んで対応してきた。こうした同社の姿勢は現在も変わることなく、お客様のニーズに応じたきめ細やかなサービスを提供し続けている。
 例えば、最近のハイビジョンテレビは初期設定が必要であったり、機能が豊富であったりするため、取扱説明書を一度読んだだけではすべてを理解することは不可能である。ましてや、同社のメインターゲットであるシニアの方々には、なおさらわからないことだらけだ。そのため、同社の営業スタッフは、お客様がリモコン操作を覚えられるまで、必要とあらば何度でも説明に出向くのである。
 同社代表取締役の山口勉氏は、「こういう電気屋さんがあってもいい」と言い切る。
 その結果、価格訴求を大々的に掲げる家電量販店に飲み込まれることなく、地域の信頼を勝ち得ることに成功。地域に根ざした電器店という地位を確立したのである。

「売り上げ重視」から「粗利重視」への方向転換

 創業以来、お客様のかゆいところに手が届くサービスの提供に努めてきた同社であるが、この取り組みを一層強化するきっかけとなった出来事があった。それは、今から10年ほど前に起こった、家電量販店の攻勢である。周辺に家電量販店が出店し、経営が危機的状態に陥ってしまったのだ。
 この窮地を脱するために同社が打ち出した対策が、売り上げ重視から粗利重視への方向転換であった。顧客数を絞り込むと同時に、絞り込んだ顧客との関係を深化させる――つまり、顧客のニーズにきめ細やかに対応することで、顧客満足度を高め、優良顧客の固定化を図っていくという戦略に出たのである。
 まず、5年以上購入実績のない顧客をリストから削除。残った顧客を、累計買上金額と最新購入時期とで9分割し、「上得意様9分割表」を作り上げた(図表1)。この分類をもとに、A1、B1、C1の顧客に対しては最低でも月1回訪問するなど、それぞれの層別に対応方法を定め、各層のランクアップを目指したのである。

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 顧客訪問を担うのは13名の営業スタッフ。それぞれに決められたエリアの500~600世帯を自らの顧客として訪問を実施。A1に属する顧客を20%以上にすることを目標に掲げている。
 もうひとつの目標として、A1、B1、C1の顧客数で年間総売上高の50%を作り出そうとしており、現在、45%を実現している。目標達成までもう一息である。
 粗利率については、当初、10年計画で25%から35%に高めていく予定であったが、7年で計画を達成することができた。これには、きめ細やかなサービスを提供するためには商圏の拡大は得策ではないとの判断から、商圏を町田市と同市に隣接する相模原市の一部に限定して、それを頑なに守っている点も、貢献していると言えよう。転勤や結婚などでエリア外へ引っ越ししてからも、同社での購入を希望するお客様がいるため、商圏は拡大する傾向にあるが、そこを抑えて現状を維持する構えである。

システムと教育の両輪で営業スタッフをサポート

 一人ひとりのお客様のニーズに合わせた対応をするのは、非常に難しいことである。なぜなら、ニーズが十人十色であれば、その対応も十人十色で、すべてをマニュアル化することが難しいからだ。この点から、御用聞きビジネス成功の要因は、営業スタッフ個人の資質に頼る部分が大きいのではないかと思われる。しかし、個人の資質に頼るだけでは、均一なサービスを提供することはできない。
 これに対して同社では、システムと教育の両輪で営業スタッフをサポートしている。
 まず、システム面では顧客データベースを構築。お客様が来店した際に、担当者が不在でも、店頭に置かれた端末で、お客様の電話番号をキーに情報を検索して、ヒットした情報をもとに店頭スタッフがスムーズに対応できるようにした。
 次に、教育面では合同朝礼時に、営業スタッフとお客様との間に起こった出来事などを伝えることで情報を共有。加えて、古いメンバーから新しいメンバーへ成功体験を語り継いでいくことで、同社のスピリットを継承している。

「ひまわりスタッフ」を配置し商圏内の足固めを強化

 同社が実践しているきめ細やかなサービスは、かつてはごくごく当たり前に行われていたことである。しかし残念なことに、効率を追求する上で切り捨ててしまった、あるいは切り捨てざるを得なかった店が多い。ネット時代の今、御用聞き・宅配ビジネスが注目されているが、山口氏は「40年前も今も、お客様に電球ひとつだけでも届けるのは当たり前のこと。われわれは、何も変わったことはしていない」と、冷静に現状を見ている。つまり、時代が同社のビジネスモデルについてきたと言えよう。
 とはいえ、現状に甘んじているヤマグチではない。同社が商圏とするエリア内には、まだ同社のお客様でない世帯がたくさんある。こうした世帯へ積極的に働きかけることで新規顧客を獲得しようと、この7月から「ひまわりスタッフ」を投入する計画である。ひまわりスタッフには女性2名を新規に採用。同社には、シマウマ模様にカラーリングされた営業車があるが、ひまわりスタッフはこれと同じ模様の自転車で街中を走る。顧客宅と見込客宅とを見分けるための地図の準備も整った。この新しい取り組みは、同社の地域に根ざした電器店という地位をより強固なものにするだろう。


月刊『アイ・エム・プレス』2006年7月号の記事