“遊び心”の演出と細やかな研修プログラムによりスタッフのマインド醸成・ES向上に挑戦

(株)損保ジャパン

「耳ではなく心で聴き、言葉ではなく心を伝えます」というミッション・ステートメントを掲げる、(株)損保ジャパン・ハートフルライン。この使命を全スタッフが共有し、現場の応対品質を維持するために、同社ではどのような取り組みを行っているのか。今回は、荻窪のコールセンターを取材した。

業務拡張を機に学生を積極採用 働くのが楽しい職場づくりを推進

 (株)損保ジャパンの中核コールセンターとして、保険契約内容の変更や保険事故の受け付け、代理店からの問い合わせなどに対応する(株)損保ジャパン・ハートフルライン。1991年の開設以降、東京・荻窪と大阪・梅田の2カ所で24時間・365日体制で運営を続けている。荻窪のセンターでは、現在、社員約50名、アルバイト約450名が勤務。シフト制により、昼間は主婦やフリーター中心に約30ブース、夜間は学生アルバイト中心に60~90ブースが稼動している。年間コール数は約70万件におよび、うち半分は事故受付だという。
 アルバイトに占める学生の比率は約6割。これは大学が多いJR中央線沿線という立地と、夜間・土日勤務における制約が少ない点に着目し、「社会に出ていく育成期間として、学生が一定期間ここで働くというスタイルでも構わない」という考え方で採用をすすめた結果だと、同社企画部長の木蜜誠氏は語る。
 同社では、オペレータを「AD」と呼ぶ。一般的なテレコミュニケータ、オペレータ、という呼称からイメージされる“電話対応者”ではなく、“困っている方からの電話を受けてアドバイスをする、世の中の役に立つ仕事である”との認識のもと“アドバイザー”と称しているのだ。そして、「仕事をするのが楽しい。職場が好き」というマインドを醸成するコンセプトの具現化を推進。そのひとつとして、2005年秋には、業務の延長線上に遊び心を取り入れたプロジェクト「JoyGang」を企画し、実行メンバーを募集。これにはアルバイトの4分の1が名乗りを挙げ、現在は、若手のアルバイト中心に、勤務時間内にイベント企画・実行などの活動を行っている。

ADやSVの意見を取り入れた独自の研修プログラム

 同社では独自の研修プログラムを用意し、社員と同様、アルバイトにも約2カ月半をかけて新人教育研修を行っている。「HL道場」(ハートフルライン道場:新人研修)、「SMaP」(スキル満点プログラム)などがそうだ。「HL道場」導入の背景には、アルバイトの対応業務の拡張に伴い、採用人数を大幅に増やしたことがある。
 2004年度の採用人数は、全アルバイトの約半数にあたる280人。以前のような座学研修後各ブース均等に新人を配置し、その後の育成を各ブースのSVに委ねるというやり方では、多くの新人を担当する現場のSVの負担が増え、対応品質の維持が難しくなる。そこで、新人OJTチームを別に設け、座学研修直後の8週間のOJTを制度化した。1段階目は、ADにマン・ツー・マンでトレーナーが付き、すべての対応をモニタリングして指導。2段階目は、AD2人にトレーナーひとりが付く。その後、卒業検定を行う。検定期間中、A評価が3回出て合格。一般ブースへ着台となる。検定で数回不合格となった場合は勤務を辞退してもらうほどの徹底ぶりだ。
 ここまで研修に力を入れるのは、聴く力を重視しているため。お客様との通話時間は1件につき10分以上。電話をかけてきた契約者が今何をしてもらいたいのかを理解した対応を行う「心情理解」力を養うためには、コミュニケーション・スキルの中でも特に「聴く力」が重要だと考えている。
 道場期間中は、シフトの最後15分を使って共有会を実施。一人ひとりがその日の対応例を出し合い、SVやトレーナーが自身の経験談を交えることでさまざまな疑似体験をし、コミュニケーション・マインドの醸成を図っている。
 「SMaP」は、ADのスキル向上を目的としたプログラム。同社では、モニタリング診断とフィードバックをモニタリング専任者が行う。個々のADに個別のカルテを用意し、スキル定着確認や評価を記入。キャリアの浅いADを対象として、日々のモニタリングで気付いた点を書き出す「デイリーSMaP」、年に2回、全ADを対象にモニタリング診断をする「定期SMaP」を実施している。

「個の認知」をベースにES追求

 ES対策で重視しているのは、一人ひとりのADを尊重し、認めるという考え方、「個の認知」だ。
 SVは1日平均5人をモニタリングし、最も活躍したと判断したADにサンクスカードを進呈。ひと月で最もカード数の多いADを「月間MVP」として表彰し、ADの名前と顔写真を表彰理由とともに壁に張り出している。これもSVがAD一人ひとりを良くみてあげることが狙い。
 また、年に1度の「CSフェスティバル」では、期間中、お客様に「ありがとう」と言われたADに特別なリボンを配布。リボンが5個溜まったらSVとジャンケンし、勝てばお菓子、負ければキャラメル一粒をプレゼントする。また、12月24、25日の2日間、社長がユーモラスな扮装をしてADにお菓子を配るイベントを実施するなど、活気と楽しみのある職場づくりの演出に一役買っている。
 ADの意見を尊重し、改善できるテーマは即実行という狙いの「スタッフティ」という制度もある。「スタッフティ」とは、月2回の頻度でAD10人を招き、社長、マネージャーが同席し、業務改善への提言を聞く。ここで寄せられた提言とそれへの回答は1カ月以内にグループウエアにアップして社内で共有化。これまでに挙げられた約160の提言のうち、7割はすでに何らかの改善を施しており、2割は次期システム改善時期の検討案件化、1割は対応が難しいとして、その理由を説明済みだ。
 年2回実施するESアンケートでは、「使命の共有」「職場環境」「指導育成」「評価制度」「モチベーション」など計45項目にわたって質問(図表1)。「あなたが働く環境として重要視しているのは何ですか?」という質問への回答を加重平均してベスト5の点数を毎回比較している。

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 これらの取り組みが成功している理由は、「個の認知」を日常業務のさまざまな面から行い、存在価値を認め、職場としての“硬・柔”のメリハリをつけていることにある。
 さらに、ES追求の副次的効果として大きいのが、「友呼び」(紹介)による採用費の圧縮だ。
 荻窪センターでは、アルバイトの8割近くが「友呼び」による採用。これは質・モチベーションの面や在職期間の安定化に非常に有効とのことだ。研修コストをかけても、募集の媒体コストと比較して高くはないと言う。学生とはいえ、採用するからには重要な戦力。勤務に関しては、1年以上勤務する、シフト確定後に欠勤する場合には必ず代替者を立てる、半年ごとの更新時に欠勤が2割を超えたら次回の更新はしない、などのルールを徹底している。一方で、勤続1年以上のADには休職制度を設け、2~5カ月間の休職を認めている。
 ES施策の企画にもADを起用し、巻き込み型の施策を行って幸せな職場環境を実現する同社。今後も独自の施策が飛び出しそうだ。


月刊『アイ・エム・プレス』2006年3月号の記事