コールセンターのオペレータ座席アサインは、従来の人的な作業では時間・手間が甚大であり、50人程度のアサインが限界。JALでは、自社のコールセンター用に開発したソフトを販売している。業種業態にかかわらず注目度は高い。
現場から生まれた画期的なシステム
2005年10月、世界を代表する8社で構成されるoneworldアライアンスへの加盟を発表したJALグループ。顧客の利便性の向上を主眼に、総合力ある航空輸送グループとして世界にネットワークを拡大する。
「いかにオペレータの対応レベルを平準化し、同時に、目標サービスレベルを保つための人員を確保かつスケジューリングし、座席配置するか」――。2000年7月、座席アサインシステム「JALアサインミー(以下、アサインミー)」の開発は、「日々の座席アサインにとても困っている」というコールセンターの現場の声をきっかけに、その課題解決に向けて着手された。
従来、同社の札幌、東京、大阪、福岡の各コールセンターでは、オペレータが当番制で3、4日前から鉛筆と消しゴムを握りしめながら、アナログ手法で毎日の座席アサインを作成していたため、負荷や労苦はかなり大きかった。例えば、シフト制なので1席を複数のオペレータが使用する、新人を分散させ近くにベテランを配置する、キャンペーンでコール量が大きく変わるなどを考慮しなくてはならない特殊要件があり、作業はまるで難解なパズルを解くように困難を極めた。特にキャンペーン時は、勤務形態が多様な上にシフトが複雑で、座席配置の偏りや呼び掛けたオペレータの席があるか正確な予測ができないなど、手作業での日々の配置作成には限界があったという。
オペレータの確保・スケジューリングも含めて、人員計画全体を効率化するという課題に向かい、グループのリソースを使用して2001年4月に同システムの開発を完了、2002年6月に販売を開始した。2002年10月には特許を取得。
オペレータの最適配置を瞬時に作成
アサインミーは、コールセンターの席作りのコンセプトをシステム上で具現化。各センターにおける席決めのルールをインプットするだけで、当該センターに最適な座席配置が自動計算され、座席表、マンパワー表、座席使用率表が作成される。主な機能を紹介しよう。ひとつ目は、出勤者全員をもれなく座席指定できること。複雑なシフトでも効率的、かつ最適に座席アサインを自動作成する。2つ目は、休憩時間の効率的な配分。休憩時間計画表・マンパワー表が座席の指定とともに作成できる。そのため顧客には「いつでもつながる」環境を提供できる。3つ目は、座席のレイアウトを自由に設定できること。“新人の隣にベテランを配置したい”“新人を集めたい”“夜間・早朝といった出勤者の少ない時間帯は1カ所に集中配置したい”“特定のオペレータを隣同士にしない”“新人教育のために1席に2名をアサインしたい”などルール付けは柔軟だ。そのほか、当日でも席の変更が可能、最大900席までのレイアウトができる、キャンペーンなどのイレギュラー時の増員・減員のシミュレーションが容易などの特長がある。実際、JAL/JASの経営統合時には、綿密なシミュレーションにより、コールセンターもスムーズにひとつにすることができた。短時間勤務の社員を採用できるかどうかも容易にシミュレーションできるため、さまざまな雇用形態のオペレータをスキル本位で柔軟に採用できるようになったのである。
さらに、アサインミーの導入は、稼働率の向上、スキルの不安定感を席配置で補完、アサイン漏れの防止、座席配置の効率化でコールセンターの品質維持といった効果を生んでいる。作成時間は8時間から30分へと劇的に短縮され、同社の推計によれば、6局の総計で年間1,000万円の経費削減につながっているという。シミュレーションによる施設計画の効率化という観点から、「いつでもつながるコールセンター」の実現にも貢献できそうだ。
座席アサインした結果を表示し手直しする画面。その結果、座席表(Excel出力)まで落とし込むことが可能になる
多くの企業が関心を寄せるも導入まではあと一歩
2002年6月に発売開始したアサインミーは、発売と同時に大きな反響を呼び、金融系企業、通信系企業、物流企業、通販企業、テレマーケティング・エージェンシー、そしてシステム会社まで、問い合わせ件数が数十件に上った。現在では、システム会社からの問い合わせが圧倒的に多く、発売から3年経った今でも、アサインミーに対する企業の関心度は高い。
一方で、アサインミーの導入を検討している企業のコールセンターの特殊事情が影響して、導入障壁となっているケースもある。例えば、同社の場合、オペレータの勤務は早番と遅番の2交代制なので、アサインミーもそれに対応できるように作成された。ところが、多くの企業が3交代制への対応の可否を問い合わせてきた。アサインミー自体が同社のコールセンター用に開発されたものであるため、3交代制に対応するには特殊な使い方になってしまう。また、問い合わせのあった企業の中には、特定のオペレータ同士が常に並ぶようにしたいというニーズもあるが、そうしたニーズに応えるためには若干の改修が必要となる。
さらに、販売上の最大のネックとなっているのが、同社自らがシステムの維持・管理といったサポート体制を組めないことである。問い合わせ数は多いものの、特許、テクニカルサポート、システム販売のバランスポイントを見出せる良きパートナーに恵まれず、現段階では販売実績を上げるに至っていないのが実情だ。
同社は現在、サポート体制での課題をクリアするため、特許は保持しながらも販売権付きでソースコードごと販売する方向性を模索している。販売先候補としては、サポート体制を組めるソフトウエア会社が有力視されている。
サポート体制をクリアできるかがカギに
現在、中規模から大規模コールセンターではオペレータの働きやすい環境づくりが重要な課題。アサインミーは、200席以上、特に300~400席規模で大きな効果が見込めるだけに、課題解決の一端を担うシステムと言える。
同社ではすでに開発済み・運用中の呼量統計システム「COMET」、呼量・出面予測計算「Prime Time」(導入)と、2006年3月完成予定のシフト作成システム「シフティ」、そしてアサインミーのシステム連携の実現を目指している。これが完成すれば、呼量データの把握から、シフト作成、座席アサインといった計画業務をより一層精緻に行え、一元管理できる。シフティでシフト表を作成すれば、座席表を自動作成できるといった具合だ。
「COMET」 から始まるこの計画業務プロシジャー(手順)は、 どこのコールセンターでも使用できるので、ビジネスモデルとして販売も可能だ。サポート体制さえクリアできれば、アサインミーを核とした同社の新たなビジネスモデルを販売する日も近いと言えるだろう。