都会の真ん中で天然温泉を満喫できることで注目されているスパ ラクーア。エステなど癒しの数々とリゾートの雰囲気の演出に一役買っているのが、ICタグを活用した館内システムだ。オープンから2年が経過した今、同社では収集したデータをプロモーションに活用しようと、検討を開始した。
ICタグを利用したキャッシュレスシステムを採用
(株)東京ドームが2003年5月に東京ドームシティ内に開設した「LaQua(ラクーア)」は、「東京の真ん中でリフレッシュを楽しむ」を基本コンセプトとした、スパ、アトラクション、ショップ&レストランの3つのゾーンが融合する融合商業施設。ラクーアビルの5階から9階に位置するスパ ラクーアは、南国リゾートの雰囲気の中で低温サウナが楽しめる「ヒーリング バーデ」や、ラクーア敷地内の地下1,700mから湧き出る天然温泉を使用した「スパ」、エステやボディケアの施設を充実させた「トリートメント&ビューティー」など、テーマごとに6つのゾーンで構成。お客様に心からリフレッシュしていただくための数々の癒しと、水と緑に囲まれたゆとりある空間は、まるでリゾート地を訪れているようだ。
このリゾートの雰囲気を一層強め、非日常を演出するのに一役買っているのが、ICタグを利用したキャッシュレスシステムである。これにより、スパ内で財布を持ち歩く煩わしさを解消し、お客様が心置きなくリゾート気分を楽しめる環境を実現したのだ。
具体的には、入館時にお客様ひとりにひとつずつ貸与しているICタグを搭載したリストバンドが、館内で財布として使えるようになっている。
例えば、入浴後にジュースを買う場合、自動販売機のICタグリーダーにリストバンドをかざすと、一般的な自動販売機に小銭を投入した時と同じ状態になり、ジュースを購入することができる。また、レストランやショップ、エステでは、レジ横のICタグリーダーにリストバンドをかざすだけでいい。
リストバンドにはあらかじめユニークIDが登録されており、IDとそのリストバンドを持っているお客様がどこで何を購入したかという課金情報を紐付けして、データベースに蓄積。退館する際にフロントでまとめて精算する仕組みになっている。
リゾート気分を満喫できること間違いなしのヒーリングバーデ
コストより利便性を優先
リストバンドは、 更衣室のロッカーキーも兼ねている。
スパ ラクーアの建設に当たり、(株)東京ドーム ラクーア部 スパ&フィットネスグループ 総括主任 古田和弘氏を含むプロジェクトチームでは、いくつもの温浴施設を視察して回った。すると、大半の施設ではロッカーキーに一般的な鍵が利用されており、ロッカーを使用するたびに手からリストバンドを外して解錠・施錠しなければならなかった。この行為が面倒に感じられたこと、また、ひと昔前のスタイルでお世辞にもスマートとは言えないことから、新たな解錠・施錠の方法を模索。すでに電子錠を採用していた温浴施設での体験を通じて、その使い勝手の良さを確信したことから、採用を決定した。こうしてICタグを活用した館内システムが実現したのである。
自動認識システムの中でも、ICタグはバーコードや2次元シンボルに比べて単価が高い。そのため、検討されるものの採用に至らないケースが多いのが実際のところ。しかし、「ICタグのコストは高いですが、お客様の利便性を優先させました」と、古田氏は話す。
システム構築は、東芝プラントシステム(株)に依頼。お互いに温浴施設の立ち上げに携わるのは初めてのことだったため、リストバンドの加工や、団体客の認識方法などキャッシュレスシステムの作り込みには試行錯誤を重ね、構想からオープンに至るまでに約2年という長い期間を要した。
リストバンドの加工において留意した点は、温泉という利用環境に耐えられることである。敷地内から湧き出る温泉の泉質は塩分が強いという特徴を持っており、これに耐えられる素材であることが必須だった。
さらに、デザインにもこだわった。身に着けていて格好悪くては、せっかくの癒しのリゾート空間が台なしになる。スパ ラクーアのイメージターゲットである25~35歳の女性に受け入れられるデザインにしたかったのだ。何度もサンプルを作り慎重に検討した結果、カールコードタイプを選択。また、色も女性用には赤、男性用には青を採用した。古田氏は、「リストバンドを着けている感覚をなくし、心身ともにくつろげる環境を演出したかったのです」と語る。
リストバンドを装着したままで扉に付いているリーダーにかざすとロッカーの開け閉めができる(左)/レジ横に設置されているICタグリーダー(右)
オープン後に発生した問題点とは
万全の準備のもとオープンに至ったわけだが、ある日、予想外の出来事が起こった。お客様が精算をせずに退館してしまったのである。もちろん故意にではなく、原因は、精算済みか未精算かをチェックする機能がなかったことと、リストバンドの装着感が自然すぎたことにある。後者は、同社の狙い通りのリストバンドが完成していたことの証と言えよう。しかし、運用上は大きな問題である。
さっそく、出入り口にゲートを設け、フロントで精算を済ませて退館用の磁気カードを受け取らないと外に出られないようにした。さらに、リストバンドのカールコードをきつめに改良。お客様が着けていることを意識できるようにした。その後は、支払いを忘れるお客様はいなくなったという。
同社では年に1度、お客様アンケートを実施している。その結果を見ると、「手からキーを外さなくていいから便利」という意見が寄せられている。また、お客様同士が便利だと話しているのをスタッフが耳にすることもあるという。年輩のお客様からは「ロッカーの開け方がわからなかった」という指摘が寄せられることもあるが、この点についてはシステムの浸透に伴い解決できると同社では見ている。
収集したデータをプロモーションに活かす
リストバンドを核とした館内システムは、お客様にとっての利便性はもちろんのこと、管理・運営面での効率化も実現した。来場者数や日々の売り上げといったデータは自動的にデータベースに蓄積されるため、数字を入力する手間が省け、日報などの管理帳票の作成が容易に行えるのである。
さらに、データベースに登録されているお客様の利用施設、利用時間、売上商品、個数、売上金額などを、施設別、時間帯別などで集計・分析することができる。オープン景気が落ち着いてきた今、同社ではこれらのデータを活用して、効果的なプロモーションを展開していきたいとしている。
温浴施設の中心となるお客様層は、エリアで見ると、近隣に住んでいる、あるいは勤務している方である。今後同社では、蓄積したデータを活かした効果的なプロモーションにより、リピーターを育てると同時に、新規顧客を開拓していく意向。同社のお客様との関係作りは、これからが本番と言えよう。