お客様から学ぶスタッフの姿勢が全店舗のナレッジ共有を実現

(株)キャメル珈琲

食品輸入・小売営業を展開する(株)キャメル珈琲。路面店からスタートした同社は、独特な店舗サービスと品えの豊富さで集客に成功。テナント出店の誘いが相次ぎ、2005年3月現在、「カルディコーヒーファーム」は65店舗を数える。いつ訪れても活気あふれる店舗スタッフの教育には、どのような秘訣があるのか。

市場感覚の店舗作りとお客様との会話が活気を生む

 (株)キャメル珈琲の主業務は、卸と小売りの2つ。同社の顔である小売店「カルディコーヒーファーム」は、東京・城西地区を中心にコーヒーと輸入食品販売を展開。2005年3月現在、全国に65店舗を有している。
 カルディコーヒーファームの方針は、「市場(いちば)感覚」だ。「新鮮で活気があってリーズナブルで安心」という、万国共通の生鮮食品や花の市場のイメージを保ちながら、生鮮食品よりも賞味期限が長く、回転スピードの遅い乾物やグロサリーなどの輸入食品を販売。同社が直接輸入元となることで低価格を実現し、多くのファンを獲得している。
 しかし、1986年の路面店オープン当初は認知度も低く、喫茶店と誤認されたり、品揃えの豊富さが店の外からはわかりずらいこともあり、集客に苦労したと言う。そこで、市場感覚の「入りやすくて売れている雰囲気の店」作りを志向。市場の軒先のように輸入食品を店舗の入り口に配置、通行人のアイキャッチを狙った。また、1992年7月の下北沢店オープン時、商店街の喧噪と暑気に辟易したスタッフが、たまたまアイスコーヒーの無料サービスを思いつき実行したところ、これが地元客の集客に大きな効果を発揮した。店の前にスタッフとお客様がひとりいるだけで、それまでの立ち寄りがたい店が、出入りが自由な親しみやすい店へと変身を遂げたのだ。お客様の滞留時間も長くなり、会話も生まれやすくなる。カルディならではのコーヒーサービスは現在も続いている。
 店頭での食品情報の発信にも注力している。立ち上げ当初は、「路地裏の宝探し」をキーワードに、意外な食材を発見できる店作りを推進してきた。品揃えが拡大した現在では、カルディでの買い物を世界各国の食材と出会える「食材めぐりの旅」と位置付けている。「今では、海外への渡航経験があるお客様も多いですし、インターネットで世界中の食材の情報を収集したり、購入することができます。そこで、お客様と接していないとこちらが遅れるという気持ちで、お客様との会話の中から情報を得ると同時に、これに自分自身の知識と感覚を取り入れ、次のお客様への対応に活かしていくことを心掛けています」(石井氏)
 こうした路面店での活気あるコミュニケーションに、ビル内のテナントを探していたディベロッパーが注目、出店の誘いが相次いだ。97年の川崎・溝口店を皮切りに、首都圏近郊に毎年7~10数店舗を展開。テナント出店に当たっても、既存店のもつ「ライブ感」を重視し、前述のコーヒーサービスを継続している。初めは、ほかのテナントからクレームが発生することも危惧したが、同社店舗の賑やかさがフロア全体への波及効果となることをオーナー側から求められたこともあり、店舗としての方針や接客の軸をぶらさずに、店舗数を増加、事業拡大することに成功している。

自発性の醸成と店頭コミュニケーションがカギ

 食品を扱うことや対面販売という面から、同社の従業員はほぼ100%が女性だ。正社員とパート・アルバイトの比率は約3対7。待遇にかかわらず、まずは2時間のオリエンテーションで企業理念や基本方針を伝える。「店頭に並ぶ食品は、すべて産地で作った人がいる。その人たちとつながっていたいという思いは、弊社のコーヒーファームという店名にも現れています。地球上の人たちへの思いと、人の手を介しているからこそ人が集まるという小売営業の考えを理解してもらいます」(石井氏)
 活発なコミュニケーションによりお客様と従業員との垣根が透明になり、もともとお客様でファンだった人がスタッフとして応募してくることが多い。従って、はじめから豊富な知識をもっている人も多いが、時間をかければクリアできる知識の蓄積や食品関係の資格よりも、「お客様の声をちゃんと聞き、要望を把握することができるか」が大事だという。前述のコーヒーサービスも、作業としては単純に聞こえるが実際はなかなか難しい。「声を掛けるタイミングは、お客様の表情をよく見ていないとわかりません。また、商品を両手に持つお客様へコーヒーをお渡しする時には、コーヒーの前にまずカゴをお渡しするといったような気付きの面まではマニュアル化できないですね。スタッフにはいつも、コーヒーサービスに立てばお客様のことがよくわかる、と言っています」(石井氏)
 とはいえ、コミュニケーションのベースとなる商品知識の研修には力を入れている。主力商品であるコーヒーの研修は毎月行い、食品関連の展示会にもスタッフに積極的に足を運ぶことを推奨。これらの情報は、店舗単位、エリア単位など、複数のミーティングを通して共有化。複数のミーティングを行う理由は、本質的な理解を得るためには、人を介して同じことを繰り返し言うことが重要と考えているからだ。 トレーニングとしては、小売業や食品知識に対する学習意欲が高いスタッフの自発性を促進する目的で、店舗を移動してさまざまな接客シーンを体験させる。自分とは異なるやり方を生きたサンプルから学ぶ、人材の循環型トレーニングとも言うべき体制を取っているのだ。これはスタッフのモチベーション向上に高い効果を発揮している。
 店舗の規模や状況が違うため、スタッフ個々人の画一的な評価は難しい。同社では、店舗の評価を3点から行っている。ひとつはお客様の評価。在庫不足やクレームなど、日ごとのコミュニケーションの中で重要な事柄をエリアリーダーが本社に連絡している。2つ目は、本社の評価。店舗統括部が店舗に直接出向き、スタッフの振る舞いや在庫状況を確認している。一緒に店内で作業する中で、聞こえてくる情報こそ信頼できるものだ。3つ目はチェックシートによるスタッフの評価だ。特徴的なのは、責任の所在。例えば、店長が休みの日の販売実績が下がった場合は、その日の出勤スタッフの評価ではなく、店長の評価が下がることになる。事前の指示が不足していた、との認識があるためだ。
 一方、店舗が魅力的かどうかは人で決まる、と同社では考えている。個々の自発的なコミュニケーションを推進しながらも、お客様に馴れ合いを見せてはいけない。また、なまじ食品への関心が高いスタッフが多い分、客観的な視点の養成が重要だ。自分が良かれと思った対応でも、お客様のクレームを招くことがあるというのがその理由。そこで同社では、こうした視点を養うべく、具体的なケースを議論する機会を積極的に設けている。

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カルディコーヒーファーム下北沢店。入口いっぱいに商品が並び、賑やかな外観となっている。

輸入食品の販売から生活提案型事業を模索

 スタッフの中には、食品知識が豊富なだけでなく、ソムリエやパティシエなどの資格をもつ者も多い。そこで同社では、彼女たちの要望や意欲を戦略的な意志決定の参考にすると同時に、顧客接点の最前線の空気をもつスタッフを新規事業の戦力として活用する方向を模索しているという。商品を幅広く揃え、どんなお客様にも楽しんで選んでいただくという現在の店舗政策は、ある意味、カジュアルな方向を追求したもの。今後は、食品に関する社内の資産を活かし、より専門性の高い「輸入食品を取り入れた日常生活」の提案という方向を計画中だ。今後の同社の展開に注目していきたい。


月刊『アイ・エム・プレス』2005年4月号の記事