スムーズな消費行動を促し新しいライフスタイルの展開を目指す

(株)ゼータ・ブリッジ

「イーマーカー」という、ラジオ・テレビ放送と、インターネット検索・ショッピングとをつなげるサービスを行う(株)ゼータ・ブリッジ。イーマーカーのコンセプトを画像認識にも取り入れ、「フォトナビワイン」というサイトを開始。リコメンドエンジンを活用し、お客様一人ひとりに適したワインの情報を提供。商品購入に結び付いた場合のアフィリエイト収入に期待する。

情報検索のみの無料サービスのユーザー数が150万人に

 インターネットの普及に伴い、個人が入手できる情報量は膨大になってきている。BSやCS、地上波デジタルといった放送の多様化、通信においてもブロードバンド化の加速など、さまざま情報が飛び交う環境のもと、電子商取引市場の拡大が見込まれる。
 こうした環境を見据えて、ソニー(株)やNTTコミュニケーションズ(株)、セイコーインスツル(株)などが出資し、「eMarker(以下:イーマーカー)」サービスを提供する新会社を、2001年に設立。それが(株)ゼータ・ブリッジである。
 「インターネットを通して情報が溢れているものの、自分が欲しい情報にダイレクトにたどり着ける人はマレです。ほとんどの人が自力で探して、欲しい情報にたどり着けなければ諦めてしまう。一方で、売る側も販売する機会を失っているというのが現状です。生活者に対してスムーズに消費行動に移れるようなツールを提供したいというコンセプトのもとに立ち上げました」と語るのは、同社代表取締役社長の安藤尚隆氏である。
 「イーマーカー」とは、2000年12月からソニーが開始した、ラジオ・テレビ放送と、インターネット検索・ショッピングとをつなげるサービスのことだ。ラジオやテレビを視聴していて気になった曲やCMをネット対応携帯電話でブックマークし、インターネットを利用して曲名やアーティスト名といった曲の詳細のほか、検索した曲をもとにゼータ・ブリッジが独自制作した着信メロディをダウンロードしたり、CDを購入できる。現在、同社のサービスを利用している顧客は、情報検索のみの無料サービスのユーザーで150万人、着メロも利用できる有料会員で10万人に上る。
 多くのユーザーに支持されている要因は、イーマーカーのコンセプトがケータイやPDAといったポータブル・デバイスに適しているからだと見ている。これまでは、①気になったその瞬間に調べたい、②気になるものを覚えておきたい、③ケータイでは文字入力が面倒、画面が小さい、④気に入ったらすぐに買いたい、予約したい――といった誰もが持っている欲求に応えられるツールがなかった。イーマーカーの登場により、これらの問題を解決することができたのである。

リコメンドエンジンを活用し一人ひとりに適したワイン情報を提供

 同社では、ラジオやテレビを視聴していて気になった曲やCMを検索できる「放送イーマーカー」と呼ばれるサービスのほか、目で気になるものへの検索ができる「画像イーマーカー」を、次なる事業の柱としてスタートさせた。2005年1月11日から、(株)NTTドコモのiモード公式サイトとして開始した「フォトナビワイン」がそれだ。
 カメラ付きケータイでワインラベルを撮り、特定のメールアドレス(photo@wine55.jp)にメール添付で送信、返信メールの本文にあるURLをクリックすると、ケータイの画面上にそのワインの情報が表示される。検索結果のワインに似た香りや味のワイン検索も可能なだけでなく、検索者の嗜好などを学習して、一人ひとりにお勧めのワイン情報も閲覧できるという仕組みだ。さらに、検索結果のワインやお勧めワインの一部は、クレジットカード決済、代金引換決済により購入できる。ワインは業務提携先であるイー・ショッピング・ワイン(株)が販売元となり、指定の住所に届けられ、同社にはアフィリエイト収入が入る。
 「フォトナビワイン」には、3つの特徴がある。ひとつ目は、ワインラベルによる検索機能があること。この検索技術は、ソニーが開発した画像認識エンジンをもとに、ワインラベル認識と検索機能に特化したシステムを同社とソニーが共同開発した。ベースとなる画像認識エンジンは、ワインボトルのような曲面、かつ手振れや薄暗い場所など、さまざまな環境下で撮影されたラベルでも最適な画像認識を実現し、保有する画像データベースとマッチングを行う。同社で行ったテスト結果では、認識率は98%を記録した。これにより、お客様が送信するラベル写真とラベル画像データベースとを照合し、どの銘柄のワインかを特定できるのである。現在、画像データーベースに蓄積されているワインは2,500銘柄。今後は2万銘柄のワインの特定ができるようにする予定だ。
 2つ目は、豊富なワイン情報があること。(有)バリックヴィルとの提携により、ワイン1種類につき、香りや味など約70項目からなるワインデータベースから、希望するワインの情報を検索し、提供できるようにした。すべてのワインを同一の評価法に基づき評価。初心者から愛好家まで幅広い人に、わかりやく信頼できる情報を提供できるというメリットがある。
 3つ目は、お勧め機能があること。これは、ワインデータベースに、ソニーが開発した推薦(リコメンド)エンジンを組み合わせることで、ワイン推薦情報の提供が可能になった。このリコメンドエンジンは、AI技術や統計的手法によるパーソナライジング技術を駆使し、顧客の趣味・嗜好・状況から最適な情報を抽出、生成するシステムだ。これにより、操作履歴情報などから嗜好や興味を随時分析・学習し、一人ひとりに解説付きで「お薦めワイン情報」を提供する。具体的には、「フランス・ボルドー産、赤、3,000円」と入力すると、5、600本検索される。次に「あなたの嗜好で絞り込む」というボタンを押すと、十数本に絞り込んで表示される。お勧め度合いは、最高5つ星で順に掲載。そのほか、携帯サイトのトップページに「あなたへのお勧めワイン」が載るなど、一人ひとり違うワインが紹介され、推薦理由も書かれている。

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一人ひとりに適したお勧めワインが表示される(左)/ iモードメニュー→ショッピング/チケット→くらし→ 【フォトナビワイン】(右)

5年後にはイーマーカーの一般化を目指す

 この3つの特徴の中で、特に注目すべきは「画像認識サービス」である。無料で使えるようにしているのも、同社の戦略的な狙いがあってのことだ。「文字入力ではなく、写真(画像)からインターネットに入っていくというポータルサイトの概念を広めたい。だから、ワインサイトだけのビジネスというとらえ方はしていません。これをきっかけに、写真を送ると、インターネット上のさまざまな情報が入ってくるというライフスタイルを定着させたい」(安藤氏)という確固たる目的がある。
 ワイン以外の商品にも対応していく予定だが、今後は、画像情報や歌情報を保有している企業などと提携し、画像認識エンジンやリコメンドエンジンの機能を提供して、提携企業とともにユーザーをサポートしていく事業の展開を視野に入れている。従って、ワインサイトは、同社にとってのショールームといった位置付けも担っている。実際、この技術に関心を示した数社から画像認識エンジンに関する詳細情報や具体的な利用方法などの問い合わせがあるという。
 「お客様のニーズはある」と胸を張る安藤氏。5年後には、イーマーカーによるサービスの一般への普及を目指す。イーマーカーの発展そのものが同社の成長を意味するだけに、「文字から写真へ」という新しいポータルサイトの概念が定着するかどうかで同社の成否が決まると言える。


月刊『アイ・エム・プレス』2005年3月号の記事