コンピュータおよびインターネット・セキュリティ関連製品を開発・販売するトレンドマイクロ(株)。個人向け製品「ウイルスバスター」専用のサポートは、サービス、サポート部門でさまざまな賞を受賞している。同社のブランド力の維持・強化にコールセンターがどうかかわっているのか、オペレーションの品質維持・向上や効率化の取り組みについて取材した。
インターネット・セキュリティの代表的ブランドとして一般消費者に定着
トレンドマイクロ(株)は、グローバルなビジョンとして「デジタル情報を安全にやり取りできる世界」を、その実現のためのミッションとして「顧客のデジタル情報資産を守るリーダーになる」を掲げている。
世界に6拠点あるウイルス解析・サポートセンターである「トレンドラボ」では、日々進化するコンピュータウイルスに関する情報収集や調査、解析活動に従事している。
同社では、法人向けと個人向けの2種類のサポートセンター(コールセンター)を設けている。収益の多くは法人顧客によるものだが、日本の消費者には、同社の社名よりも製品名の「ウイルスバスター」が広く認知されている。そこで国内においては、「ウイルスバスター」のブランドイメージが戦略的に重要と見て、同ソフトのサポートセンターである「ウイルスバスターズクラブサポートセンター」での応対品質管理を重視し、体制を整備している。
アウトソーシング先と緊密な 「ソフトスキル」の向上を目指す
コールセンター業務はアウトソーシングしている。COPCを取得する協力会社は、コールセンターでの同社のミッションを理解しており、緊密かつハイレベルな業務推進が可能となっているという。
コールセンターの業務内容は、主に、インストールをはじめとする使用方法への問い合わせ対応、購入後1年ごとの更新契約処理、オンラインユーザー登録した方への顧客情報の管理だ。個人向けのカスタマーサポートセンターでは、主に購入後の運用管理、例えば新製品情報や新種のウイルス情報などをeメールとWebを連動させて発信。新種のウイルスが発生した際に解決策をいち早く提供し、問い合わせに対応するなどの業務を行っている。
問い合わせのタイミングは購入後1カ月以内が圧倒的に多く、次に多いのが、購入してから1年後の更新時だ。また、電話とeメールを比較すると、20代は電話1対eメール1、30代が2.5対2.5、40代が3対2、50代が3対1と、年齢が高くなるにつれ電話を利用する比率が高い。
オペレーションで重視するのは、「ソフトスキル」、いわゆるヒューマンスキル、ビジネススキルだ。たとえば、以前、明るく親近感のある印象を出すため、「こんにちは」という第一声で電話に出ることを試行したことがあった。しかし、実際に問い合わせてくる顧客は、ウイルス感染の不安を抱いている場合がほとんど。そこで現在ではこれを廃止し、「声のトーンを整え、ゆっくり話す」といった落ち着いた対応で状況を判断・把握することを心掛けている。顧客の感情には、怒り、不安、強要、安心の4つの状態があるとし、トレーニングの中にもそれぞれへの対応法を取り入れている。
「社内のモニタリングや、テクニカル・サーティフィケーションに合格したというオペレーションスキルだけを良しとはしていません。PC内の重要な情報を守るウイルス対策ツールは、『安心感』を与える、いわば“家の鍵”です。問い合わせてくる方は不安を抱いていることが多く、IVRの対応が冷たい、という声も多く寄せられました。“人”の対応で安心していただき、満足度を高めることを重視しています」(トレンドラボ・ジャパン カスタマーサポートセンター シニアマネージャー 関口一氏)。
独自の顧客満足度調査「iCS」によりケースごとの満足度と問題点を明確化
当然のことながら、オペレーションは一次解決が非常に重要だ。現場のオペレータやエンジニアが解決策を提示するべきとの考えから、可能な範囲で権限を与えている。アウトソース先と協同で、各種トレーニングを組み合わせた研修体制を整備し、顧客視点で満足度を測定する調査を実施している。
2002年から、グローバルの先例があった同社独自の顧客満足度調査「iCS」を日本でも導入。毎週金曜日に、その週にクロージングした顧客へオンラインでアンケートし、翌週火曜日に集計結果が上がる。内容は、問い合わせに対するオペレータの理解や対応など、9項目に関して5段階評価するというものだ。個々のケースに対する評価を直後に問うことで、具体的な事柄についての回答が得られるという。
以前は年に数回の定点調査のみを行っていたが、こうした調査では個々のケースに対しての回答が得られない。回答結果から具体的な解決策を見いだすことが難しく、品質向上につながらなかった。昨今、顧客の権利意識が強まる風潮の中、個々の事例への意見を収集すると同時にiCSのレートを細かく分析し、業務改善へと反映させることが可能となっている。
当初、iCS導入については、アウトソース先は消極的だったという。しかし、導入後は、むしろレートをキープする、という目標基準があることで、個々のオペレータへのフィードバックが明快になり、同時にクオリティ・マネジメント・チームの統括・管理にも役立っている。
Webサイトをフル活用し、セルフサポートシステムを整備
コールセンターに問い合わせてくる方のPC知識のレベルは実にさまざま。問い合わせ内容もウイルス駆除関連にとどまらず、OSやプロバイダに関することまで多岐にわたる。しかし、コールセンター内でオフィシャルに伝えられることは限られている。
そこで同社では、電話やeメールによるお客様対応のログをリアルタイムでデータベース化、電話のお問い合わせのトップ10や、問い合わせの多いウイルスについての情報を、FAQの形でWeb上に掲載している。また、昨年より、インターネットを活用した独自の情報交換ソリューションを提供しているOKWebにリンク。顧客会員同士がコミュニティを作り、Q&Aのやり取りをするセルフサポートシステムの活用を誘導してきた。その結果、コールセンターへのeメールでの問い合わせがぐっと減り、コスト削減ならびに業務の効率化に成功しているという。
今年から、初心者を対象に、Webサイトの活用による解決度アップに向けたサポートログシステムを導入。同時に、携帯電話へサポート情報を配信するサービスを開始した。またファックスボックスはアナログなツールだが、問い合わせてくる顧客がウイルス感染を恐れてネットへの接続を断っている場合には有効だ。
今後は、「電話を掛けてくるお客様のPCへの不安感をいかに軽減し、セルフサポートの利用を推進していけるかが課題です。」(関口氏)
また同社では、コールセンターの位置付けを、プロフィットセンターへ変えていく予定だ。同社製品は1年で更新となるが、お客様が更新時期を忘れているケースも多い。そこでDM送付前に更新の案内をするなど、アップセルの要素を取り入れていくという。
ウイルス対策製品は、購入時点で実は既に“古い”。上記の取り組みからブランドの安心感を醸成し、顧客との関係をさらに強化していく構えだ。
「ウイルスバスター2005」のパッケージを模した「救急箱キット」。セキュリティ=安心感というブランドイメージを体現している