ジョンソン・エンド・ジョンソン(株) ビジョンケア カンパニーのビジネスモデルは、眼科や医療機関を経由してエンドユーザーとの取引を行うB to B to Cである。企業理念として、第1の責任を「すべての顧客」と掲げる同社では、コールセンター運営の軸に顧客満足度をおく。オペレーターの商品理解と応対の質こそが、ブランドの軸である清潔感・簡便性・安全性を表象するとの考えのもと、個々のスタッフの意識向上と“気づき”をうながす研修・教育に力を入れている。
消費者、得意先、営業からの10種以上の問い合わせにマルチに対応
ジョンソン・エンド・ジョンソン(株) ビジョンケア カンパニーは1991年に発足。日本初の使い捨てコンタクトレンズの販売業務を開始した。最初に発売したのは1週間連続装用の「アキュビュー」。続いて、2週間頻回交換型、 1日使い捨てタイプ、 そして今年は、「ワンデイアキュビュー」のカラーコンタクトレンズ発売と、常に市場ニーズに即した新商品を投入している。
医療用具の販売であるため、同社のビジネスモデルは、まず眼科や医療機関、そしてエンドユーザー、のB to B to C。発売当初は、使い捨てコンタクトレンズの安全性を疑問視する声もあったが、徐々に清潔感・簡便性・安全性といったイメージが定着してきた。
同社では、 医療機関や販売店からの注文・問い合わせ、営業からの各種問い合わせ、一般消費者からの問い合わせに対応する目的でコールセンターを開設。対応には、営業知識はもちろん、コンタクトレンズに関する知識、そのほかの医薬に関する知識など、さまざまな相手に即した対応が要求される。
また、電話での対応後に発生する業務も多岐にわたる。例えば、返品受付など営業業務の代行に当たっては、営業との情報の共有化が不可欠である。製品に対するクレームの受理に際しては、お客様との対応トークの順番に即した画面レイアウトを設計し、受付業務を省力化すると同時に、入力結果が製造元である米国にレポートされる。これにより、入力の2重作業を回避し、正確性とコスト削減に成功している。
応対品質管理・オペレーターの管理
同社では、実際の売り上げはもちろん、顧客満足という見えない収益にもコールセンターが不可欠なチャネルであるという認識が、マーケティング・営業部門に至るまで浸透している。オペレータは派遣社員だが、派遣先と同社の求める人材の摺り合わせを慎重に行っている。採用基準ではオペレータ経験は問わず、まず同社の企業理念を理解できるかどうかを、直接対面した上で判断。PCスキルはブラインドタッチが条件だ。オペレーター採用後は、きめ細かなトレーニングを段階的に行っている。
新人トレーニングでは、会社概要、テレコミュニケーションの基礎知識、製品知識、発声練習などに約1カ月をかける。またレベルに合わせて、スキルアップトレーニングも随時実施している。本部にてPL法など法律知識の研修を行うほか、専任者による財務の講習なども積極的に行っている。また、2カ月に1度のテープチェックにより、自分の声の速さ、トーン、間の取り方などを客観的に把握。ロールプレイングで応対技術の向上に努めている。
オペレーション評価としては、個別にパフォーマンスシートを作成し、業務目標に対するレビューを実施。「ゼロディフェクト(入力ミスゼロ)」「コールクオリティ(応対品質)」「勤怠」「知識テスト」に関する定期的な評価をもとに、半年に一度の表彰制度を設けている。
「こうした取り組みのおかげか、スタッフはいい意味で会社を信じてくれています。以前、製品の自主回収を行ったことがありますが、その際も、営業と同じ、という意識が根付いているので、自発的に残業や休日出勤を申し出てくれました。」(鈴木氏)
“ブランドイメージを言葉で売る”対応に取引先からも高評価
同社がここまでコールセンターを重視するのは「コールセンターでは、商品を直接売ってはいないが、企業理念やブランドイメージを言葉で売っている」ととらえているからだ。新しい広告の展開時には、マーケティング担当者が必ずコールセンターまで赴き、プロモーションのメッセージや背景を事前に説明していると言う。営業からの問い合わせも入るため、早いタイミングで新製品情報や広告情報をおさえている。
同社の製品は直接目に触れるコンタクトレンズ。それだけに、購入に際しては医師の検査、処方が必須である。製品への信頼感をオペレーションから感じていただくために、前述のような発声練習のトレーニングや、ナレッジの共有化に余念がない。
こうした同社の取り組みは、取引先からも高い評価を得ている。オペレータと電話でやり取りをしている店舗や医療機関からの研修依頼に基づき、電話に特化したサービス対応について、6カ月コースで、カスタマイズした有償のトレーニングを提供するほどだ。「過去には、プロフィット体制の強化に向けてIVR化を推進したこともありましたが、これは失敗に終わりました。また、Web上でのサービスに特化しようと試みましたが、ポテンシャルの高いお客様の満足を得られないことがわかり、軌道修正したこともあります。コールセンター業務を開始した7年前からのtry and errorの繰り返しが、今につながっているのです」(鈴木氏)。販売実績が倍々になっていく中での対応品質向上の裏には、数多くの失敗例もあったと打ち明ける。
6sigmaの指標を取り入れて課題を明確化し、チーム・ビルディングを推進
プロフィットの追求、コストリダクション、顧客満足の向上の3つを多面的に考えた戦略が必要だという同社。昨年から、経営品質に影響を与える要因に優先順位をつける「シックスシグマ」の手法を導入している。中でも、現場の視点で強いリーダーシップを発揮するスタッフを育成する「グリーンベルト・プロジェクト」を推進。あるグループの品質を向上するために何が必要か。「電話を受け」「画面上で処理をし」「電話を終了する」などのプロセスで、目標値に届かない項目が、顧客の不満、ひいては企業ブランドイメージの低下という“痛み”として大きいかどうかによって、取り組み強化のバランスを考えている。プロセス・エクセレンス(PE:経営改善活動)という全社的な考え方を、カスタマーサービスにも応用したというわけだ。この取り組みは社内でのアウォードでも第2位になった。「よく、KKD(勘・経験・度胸)という言い方をしますが、勘が外れる確率を考慮していません。きちんと数値で示されるシックスシグマの手法は、ある程度、結果の予測が可能です」(鈴木氏)
同社では、コールセンターの風土がスタッフの継続率を高め、企業ブランドの維持にもなると考えている。「日々の業務は、短距離走をずっと続けているようなものです。オペレータ個々人の品質管理意識は高く、一次解決率が96%、という数字にも表れています。現在のスタッフは約40名ですが、小規模だからこそ、スタッフの“気づき”をうまく刺激し、一人ひとりのリーダーシップを育成することが課題ですね」(鈴木氏)。オペレータは、勤務継続の意志を含めてスーパーバイザーと頻繁に面談をすることでともに中長期的な視点を共有し、日々の業務に前向きに取り組むことができる。今後は、スタッフのチーム・ビルディングの強化や、レベルに合ったグルーピングを推進していくという。
個々のオペレータが必要な資料をすぐに参照できるよう、L字型に広くとらえたブース。