働く女性の支持を受け「口コミ」でバッグの販促を拡充

(有)ワークストリーム

小売業ではなく、あくまでもバッグ・メーカーであることを強調し、モノ作りにこだわる同社。新規顧客の獲得やアンケートを基に商品開発を行うなど、インターネットをうまく活用しながら、息の長い人気商品を生み出している。

100個限定のバッグが24時間で完売!!

 (有)ワークストリーム(東京都渋谷区)は、「働く女性が仕事で使うための、機能を重視したバッグ」をモットーにカバン作りを行っている。
 同社代表取締役の中川千恵美氏は、1997年6月に旭硝子(株)を退職し、同社を設立。Webサイトは同年秋頃に開設した。「Webサイトなら僅かな資金で、バッグを販売できると思った」と、自社のWebサイト作成の経緯を語る。
 当初は、トップページと商品の紹介、オーダーシートの3ページほどのWebサイトだった。「始めたころは集客方法などもわからなかったので、雑誌に載った記事を見た方や交流会で名刺交換をした方がWebサイトを見に来てくれる程度」(中川氏)だった。バッグの売り上げは思うように伸びず、初年度は、1個4万円のオリジナルバッグがネット販売で30個売れただけだった。これは、販路が確保できなかったため大量生産ができず、値段が高くなったことが原因だった。
 そんな中川氏には、その後、今日に至るまでに、2つの転機があった。ひとつは、『クロワッサン』の雑誌担当者との出会いである。全国にある「クロワッサンの店」(24店舗)や同誌の通販コーナーで中川氏の手によるオリジナルバッグを販売することになったのだ。
 もうひとつは、会社設立から1年たったころ、ある雑誌社を介して、ノートパソコンを持って働く女性が集う「モバイルライフ研究会」のメンバーと出会ったことである。
 1998年8月には、同会のメンバーと一緒に「モバイルバッグプロジェクト」を発足。同会に所属する多くの女性を対象に、メーリングリストでバッグに関する意識調査を実施。収集した意見を基に、中川氏がバッグを製造した。リュック型、手提げと肩掛の2WAY型などの5案を作成し、何回もの話し合いを経て、「ノートパソコンが収納できるエレガントなバッグ」の試作品ができ上がった。A4サイズの書類が入り、携帯電話が入るしっかりしたポケットがついて、バッグの中に仕切りがあるワーキングバッグだ。1998年12月に、バッグが完成。100個限定販売でありながら儲けを度外視した1万9,800円に価格を設定。中川氏は、「在庫や資金のことを考えると、100個製品化することは賭けでした」と当時を振り返る。
 「モバイルライフ研究会」通販サイトで売り出したところ、予想を大きく上回り、たった24時間で完売してしまった。この「ワーキングバッグMWinternet」は、現在までに約500個を販売している。
 この快挙は雑誌や新聞に紹介され、いくつかの小売店から引き合いが入り始めたという。

ワークストリーム

同社のオフィシャル・サイト

行動的な女性に支持され購入者の年齢層も幅広く

 同社のバッグは顧客ターゲットを絞っているように見えるが、実際のところバッグ購入者の年齢層は20~60代と幅広い。このように、商品を支持する顧客層の広さが、ヒットの要因になっていると見られる。
 価格帯は1万円台の商品が最も多く、続いて2万円台というように買いやすい価格のバッグが揃っている。中川氏は、「今後は質を上げるとともに、価格も上げていきたい」と言う。これも同社が小売業ではなく、あくまでもカバン・メーカーとしてモノ作りにこだわりたいという姿勢の表れだ。
 現在、商品数は20~30種類。大きさはさまざまで、デザインの基本は女性が持つバッグにふさわしくエレガントであり、シンプルで機能的、そして、A4サイズの書類が入ることだという。商品の中には店頭販売、あるいはネット販売のみのものと、店頭・ネットの両方で扱っているものがある。
 Webサイトを介した売り上げは、全体の2割程度とのこと。残りの8割は全国の「クロワッサンの店」や三越、東急百貨店などでの店頭販売、またはカタログハウスの「通販生活」などによる通信販売だという。
 同社のWebサイトへの1日のアクセス数は、まちまちだ。雑誌に掲載されたときやメールマガジン(以下、メルマガ)を配信したときには、1日に何百というアクセスがあるという。そのうち、購入につながる割合は「商品によって、100人に1人だったり10人に1人だったり」(中川氏)と、ばらつきが見られるという。ただ同社の場合、ネット販売における返品はほとんどない。これは、商品ひとつひとつを細部にわたって文章で説明し、お客様が購入しやすいようなサイト作りを心掛けているからだ。こうした工夫が着実に商品の販売につながり、また店頭では把握しきれない、購入者のプロフィールが見えるのがWebサイトを介した販売の利点と言えるだろう。
 また、Webサイトでは「WSクラブメンバー」を募集している。ほとんどの会員はバッグ購入者で、約1,000名に上る。会員にはメルマガの配信を行っており、内容は新商品や同社の掲載記事のお知らせ、中川氏の身の周りの出来事などを紹介している。
 コミュニティサイトにおいては、BBSを設けて顧客の生の声を聞くケースも少なくないが、中川氏しかWebサイトを管理・運営する人材がいない同社では、「スパムメールなどの嫌がらせメールに荒らされて、困っている方々を見ているので…」と、BBSの導入には慎重な構えを見せている。
 一方、新規顧客の獲得に関して、前述の「モバイルライフ研究会」のケースのように、同社の考え方と共感するメーリングリストのメンバーと共同で商品開発を行う企画が、新規顧客獲得に功を奏しているようだ。
 最近では、ある会の協力でアンケートを募り、Sサイズの女性のためのバッグを制作した。完成後は、この会のメーリングリストのメンバー3,000人にバッグのPRを行い、200個を販売したという。
 今後、Webサイトに関しては「商品がきれいに見え、目について興味をそそられるようなレイアウトに作り直したい。また、当社がどういう会社なのか。私がどういう考えで、モノ作りをしているのかなどについての情報を載せていきたい」(中川氏)と、改善点を挙げる。
 同社の商品は「働く女性のためのバッグ」をモットーに製造・販売されてきた。多くの女性の支持を集めているが、「品物が良くなければネットを活用しても売れない」と冷静に見ている。バッグ・メーカーとしてのこだわりが固定客を離すことなく、新規顧客の獲得につながっているようだ。
 こうした細やかな対応が、ヒット商品でも息の短い商品になりがちな女性用バッグを、同社では息の長い“定番商品” として根付かせているのではないだろうか。

バッグ

同社で販売予定のバッグ


月刊『アイ・エム・プレス』2004年7月号の記事