独自の指標で会員をランク付けする 「カスタマー・キューブ」を開発し、これを活用して効率的・効果的な会員対応を実現。利益を生み出さない休眠会員は、切り捨てるという方向を志向する。しかしその一方で、期限を取り払った「永久不滅ポイント」が、休眠会員の活性化にも効果を見せ始めている。
年会費無料が休眠会員増加の一因に
セゾンカードを発行するクレジットカード会社、(株)クレディセゾンのカード会員数は現在、約1,500万人(提携カードを含む)。同社では「カスタマー・キューブ」と称する顧客価値指標を導入、収益性・継続性・安全性の3つの要素を軸に、会員を優良顧客、優良予備客、育成顧客といった6つのカテゴリーに区分している。この開発に当たった営業本部 マーケティング部 営業企画課 課長の磯部泰之氏は、「優良顧客はこちらが派手なアクションを起こさなくても、継続して利用してくださいます。問題なのは、“カードを持っているだけ”のお客様。正直なところそれが悩みのタネ」と語る。
年1回以上利用する稼動会員は約860万人。すなわち、600万人以上の会員は、過去1年間に1度も利用していないのだ。そうしたいわゆる“休眠会員”が多い理由のひとつに、セゾンカードの年会費が無料だという事情がある。有料ならば、ほとんどカードを利用しない会員は、年会費の請求書が送られてきたのをきっかけに退会するケースが多い。しかし年会費が無料のセゾンカードの場合は、まったく利用しなくても退会の意向を示す会員が少ない。従って、放っておくと休眠会員がどんどん増えてしまい、顧客情報管理にコストや手間がかかるばかりになってしまうのだ。そのため同社では、カードの更新時期(有効期限は6年)が近付いたときに、稼動会員には自動的に新しいカードを送付するが、4年以上利用していない会員に対しては、まず更新をするか否かを確認するハガキを送っている。利用していない会員であるから、当然、退会につながる率が高い。これによって、休眠会員比率の低下を図っているのである。
同社のカスタマー・キューブで、休眠顧客は「コストコントロール顧客」の中に位置付けられる。効率的な対応によって、かかるコストをできる限り抑制しよう、というのが、この顧客層に対する基本方針だ。
効果絶大の「永久不滅ポイント」
休眠会員の利用を促進するために、同社ではかつて、さまざまな施策に取り組んだことがある。しかし、苦労が多い割には報われることが少なく、結局、1年ほどでやめてしまったという。とは言うものの、休眠会員の復活が重要な経営課題のひとつであることに変わりはなく、あれこれ頭を悩ませていた。
同社は2年前に、ポイントプログラムの、ポイントの有効期限を取り払った。これがこのところ、休眠会員の掘り起こしに効果を発揮している。プログラムの名称も、当初の「セゾンドリーム」を、今年、「永久不滅ポイント」に変更。「短期間で名称を変えるのはどうかという意見もあったが、抽象的でシャレた名称より、ストレートでわかりやすく、インパクトのあるものにしたかった。また、どうせ変えるのならば、早いタイミングのほうがいいと判断しました」(磯部氏)。
「永久不滅ポイント」。正しくストレートだ。これを見て意味のわからない人はいないだろう。
この変更に伴い、交換できる商品・サービスのラインナップも見直した。その筆頭に座しているのは、なんと、1,000万ポイントで手に入れる、プライベートジェットで行くハワイ10日間の旅4名様分。1,000円につき1ポイントだから、100億円のカード利用が必要だ。多分に“遊び”の要素が含まれた、夢のあるプログラムである。
稼動会員の年間平均利用額は20数万円。1年間で200ポイントほどが貯まる計算だが、そのポイント数で交換できる商品は、必ずしも大変魅力的なわけではない。ポイントに有効期限がなければ、欲しい商品を目指してカードの利用を増やし、ポイントを貯めようという意欲も湧いてくる。現在、同社が実施しているキャンペーンやプロモーションなどは、すべて「永久不滅ポイント」をアピールするものとし、周知と利用促進に努めている。
もちろんこれは、休眠会員の掘り起こしをメインの目的として始めたプログラムではない。会員サービスの充実と同時に、すべての会員を対象にカード利用促進を図るものだ。しかし、数字で検証するのはまだ先の話になるというが、これが新規会員の獲得などとともに、休眠会員の掘り起こしにつながっていることは確実である。
「永久不滅ポイント」の告知は、テレビや新聞などのマスメディア、および、利用明細書同封のチラシやパンフレットによって行っている。後者はカードを利用しなければ目に触れることはない。しかし、同社はもうひとつの大きな告知チャネルを有している。セゾンカードは、西友、西武百貨店、そごうといった大手流通各社のハウスカードだが、これらの店舗で大々的に告知がなされることによって、店舗を訪れた休眠会員、および非会員への浸透が進んでいるのである。
通販会社などとの提携により休眠覚醒のチャンスを作る
セゾンカードは、西友、西武百貨店、そごうの3社が総利用額の30%以上を占めている。これらの店舗がない地方に引っ越したという理由でカード利用がストップしているケースは少なくない。また、出産・育児で店舗に買い物に出かけにくくなった、というような場合もある。
それらの会員にカード利用を再開してもらうための施策として、通販会社との提携が挙げられる。通信販売で購入できる、その会員のニーズに合った商品を紹介することで、カード利用の機会を提供するのである。
そういった際には、通信販売会社の協力の下、必ずセゾンカード会員への特別なインセンティブを付ける。その内容は、ポイントの割増のほか、商品そのものの割引や、送料無料などさまざまだ。
同社は会員の豊富なデータを持っている。しかし、会員に提供する情報や商品は保有していないため、他社との提携が重要な戦略になってくる。「われわれ自身がコンテンツを持っているわけではないので、個客対応はなかなか難しい。しかしできる限り、その顧客にフィットした情報を提供できるよう心がけています。そのためのセンスも日頃から磨いていかなければなりません」と磯部氏は強調する。顧客情報の分析結果に基づいて、的確な情報を発信。その結果として、実際に、かなりの数の休眠会員がカード利用を再開しているという。
個客対応に関し、会員と直接会話を交わすコールセンターのオペレーターを支援するための施策も準備中。これまでの利用履歴を分析してそれぞれの会員の嗜好性を探り、電話がかかってきたときに、その会員にお奨めするべき商材や情報を、モニター画面に表示するというものである。これによりパーソナルな会話が実現し、顧客維持、利用促進につながることは間違いないだろう。
会員の視点に立って、「永久不滅ポイント」という思いきったサービスを実現させた同社。休眠会員を含め、複数のクレジットカードを保有する会員のカード利用をセゾンカードに集中させるために、このサービスがどのような貢献をするのか。その答えが出るのはもう少し先になりそうだが、期待を込めて待ちたいと思う。
あらゆる機会をとらえて、「永久不滅ポイント」の周知浸透に努める。写真は、利用明細書に同封する会員誌の表紙