シニア世代のニーズに応えた店舗戦略が固定客獲得のカギ

(株)京王百貨店

都心の百貨店では一番広い平場を活かし、シニアに向けたMDを展開。一人ひとりのニーズにきめ細かく応え、顧客の信頼をつかんでいる。お客様がお客様を連れてくる好循環が売り上げを伸ばす顧客第一主義を貫き、日本一の新大衆化百貨店に王手をかけた。

女性シニアの心をつかむ独自戦略を志向

 総売上の7割に当たる800億円を50歳以上のシニア層が支える不況知らずのデパートがある。京王百貨店だ。シニア層をメインターゲットとして強く意識し始めたのは、新宿に高島屋が進出し、新宿百貨店戦争の火ぶたが切って落とされた1996年。新宿の百貨店の中で売上高第3位の中規模店である同社が生き残りをかけて挑んだ差別化戦略が、今日の繁栄をもたらした。
 シニア層の囲い込みに成功している同社新宿店長の山本敏雄氏いわく、「シニア層は囲われたくないのです。OL向けのフロアで洋服を買うシニアが2割もいます。“このフロアはシニア”とくくってしまったら、逆に引いてしまうでしょう。娘さんといっしょに買い物に来て、娘さんと同じ流行のセーターを着てみたいと思ったとき、自分の体形にもフィットするサイズがあったら、買いたくなりませんか。同じフロアにセーターだけでなくスカート、パンツ、ジャケット、下着、パンスト、バッグ、化粧品なども揃っていたら、ついコーディネートしてみたくなるでしょう。新宿店はシニア対応を志向しています。特に4階ミセスフロアでは、概ねニーズが満たせ、身体も疲れない。ぬれても滑りにくい床材を使い、疲れたらいつでも腰掛けられるイスを200席も用意していますから、杖をつきながらでも安心して来ていただけます。エスカレーターも通常より少しゆっくりめに設定していますから、慌てて転ぶ心配もありません」。
 そんな小さな気配りが、1日の平均来店者数7万人という、あのディズニーランド並みの驚異的な人気に結び付いている。一口にシニアと言っても幅広い。同社では、女性シニア層を3つに大別している。70歳以上の戦中派と、60歳代の戦後派、50歳以上の団塊の世代を中心とする熟年世代である。この3つの女性シニア層はファッション感覚も感性も価値観もかなり異なる。
 コンサーバティブ(保守的)な戦中派は、人生の最終章を楽しく美しく生きたいと願っている。コンテンポラリー(現代的)な戦後派は、健康志向が強く、快適な暮らしとオシャレに関心が高い。アドバンス(進歩的)な熟年世代は、子育てから解放され、自分の時間を楽しく充実して過ごすために、モノではなくコトへの関心が高い。この3つのシニア層にどんな提案ができるか、パーソナルな視点で考えていく必要があるという。シニアを3グループに分けたのは、アプローチに活用する情報インフラが違うからでもある。例えば、熟年世代にはインターネット販売などITを駆使した営業も促進している。お中元・お歳暮シーズンのギフト関連では、立ち上げ2年目にして売り上げが倍増。さらに、携帯電話によるサービスも考えているそうだ。
 同社には、京王友の会というお得意様を中心とした会員組織があり、会員が9万人もいる。日本の百貨店業界では極めて早く会員組織を創ったパイオニアであり、顧客の信頼は厚い。この組織におけるカルチャースクールの歴史は、実は業界最大手の朝日カルチャーセンターより古い。
 この中で最近、大ブレイクしているのが、麻雀教室だ。「以前から、やってみたかった。でも町中の雀荘はちょっと恐くてひとりではいけない」と思っていた女性シニアが、京王百貨店の主催なら安心と、押し寄せているのだ。「麻雀は頭も使うし、指先も使うから老化防止にも最適ですし、何よりそこでお友だちができていっしょに遊べますから、一石二鳥です」(同氏)。
 友の会のもうひとつの人気定番商品が旅行だ。同社の旅行は、安心が売り物。食事も行程も、トイレ休憩、部屋割りもシニアのニーズに照準を合わせ、きめ細かく対応している。低価格重視の若者と違って、シニアは安くなくても安全で快適な旅を求めている。旅行のプロである添乗員だけでなく、旅先で感じた不満や感動を胸にためずにストレートに言える話し相手として、同社の社員が同行する。
 会員になると、毎月1万円ずつ積み立て、1年経つと1カ月分の利息が付いて、合計13万円分の商品券が受け取れる。低金利の時代に8%も利息が付くのも人気の理由だ。「会員は年間平均18万円くらいの買い物をしてくださいますから、ボーナスを1万円あげても決して損することはありません」という山本店長。
 最終的に売り上げを伸ばすには、目先の数字を追いかけているだけではいけない。例えば、同社は阪神大震災後、大型商業ビルでは全国で初めて耐震補強工事に着手した。現在、2004年の創業40周年に向け、バリアフリーを含め顧客ニーズを考えた店内のトイレ改修を進めている。どれも売り上げには直結しないが、お客様の満足と安心を第一に考えた同社の企業理念「人のよろこびを大切に」に則っている。

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月刊『アイ・エム・プレス』2004年2月号の記事