経営哲学を伝え段階的な品質チェックを敢行

(株)クリーンサワ

顧客とともに衣服の汚れをチェックし、クリーニング方法までも話し合うクリーニング店、クリーンサワ。同社の顧客志向は、クリーニングの各段階で厳しくチェックされるサービス品質によって支えられている。

目指すは“着る心のわかるクリーニング”

 「ワイシャツの糊付けの具合が悪い」「セーターが縮んだ」「ボタンが取れていた」――クリーニング店にはさまざまな苦情が舞い込んでくる。別名“クレーム産業”と称される所以だ。また、景気の低迷でここ数年、品質よりも「安い、早い」を重視した企業が多いことも確かだ。一方で、値上げをしてまでも高質なサービスを拡充する企業も増えてきた。例えば、衣類を個別に扱う、仕上がり時には防虫剤入りで通気性のよいカバーを使用する、顧客宅訪問による集配の強化を図るなどである。
 しかし、こうした業界の流れに関係なく、早い時期からサービスの品質アップを徹底的に追求し、クレームの出ない経営を目指してきた企業がある。1960年に創業した、和歌山市内で8店のクリーニング店を展開するクリーンサワだ。苦情を防ぐということは、逆に言えば、サービスの品質アップの追求、すなわち顧客満足をより高めていくことである。この観点から、同社の取り組みを紹介しよう。
 同社は、「クリーニング店が汚れを落とすのは当たり前。真に顧客の立場に立った“着る心のわかるクリーニング”を目指す」との経営理念に立脚。そのサービス品質の高さから顧客の圧倒的な支持を得ている。技術力向上がサービス向上の基本となることを踏まえ、常に新しい布地やボタンのことなどを調べ、さまざまなケースを想定してクリーニングの方法を研究している。
 クリーニングというのは顧客が所有する“モノ”を預かり、汚れを落として元通りにする業務であり、購入する時点でモノの良しあしを確かめることができる物販業とは性質を異にする。そこがクレームが多発する原因のひとつでもあるのだが、同社はそれを防ぐために、「お預かりする時に顧客と確認をし合い、数多い作業工程ひとつひとつにチェック機能を持たせている」(社長 澤浩平氏)。それではここで、同社の驚くべきサービスへのこだわりと、品質維持の手法を見てみよう。

徹底したチェック体制がサービス品質をアップする

 まず重要なのがフロントでの受付業務。シミや破れ、ボタンの状態など24項目にわたるチェックを行い、オリジナルの「検品カード」に記入する。特にシミに関しては別に「シミ抜きカード」があり、具体的なシミの種類をチェックしておく。それらひとつひとつを確認してもらいながら対処方法を顧客と話し合った上で、預かった衣服にカードを付け、すべての工程のスタッフが情報を共有できるようにしているのである。この受け付けでの作業が、クレームの種を摘み取る防波堤の役割を果たすという。
 次に、プレスポットという、洗いに入る前に再度、衣類の状態を点検し、シミ抜きなどを行う部門がある。ここで、フロントでのチェック時に見逃した綻びやシミなどを発見した場合には、顧客に連絡をしてその処理法を確認する徹底ぶりだ。
 クリーニング作業を行う部屋の壁には、①よく観察する、②あせらない、③慣れでやらない、④迷ったら相談する、⑤ムキにならない、という「シミ抜き五原則」を書いた紙が貼られている。こうした大切なことを、常に目に入る場所に貼っておくことは思いのほかに重要なことなのだ。
 さらに大切なのは、洗い、乾燥、プレス、包装等の工程において、どんな些細なことでも何か問題が発生した場合、すぐに前工程に戻すよう徹底していることだ。澤氏は言う。「一度作業を終えた衣類が後工程から戻ってきたときに、『あの人はいつも細かいことばかり言う』と不満に思うようでは、顧客を無視したも同然と言える。そうではなく、常に顧客のことを思ってスタッフ全員が仕事をする、そんな姿勢を社風にまで導くのが経営者の重要な仕事だろう」。
 また、同社では「問題を先送りしない」ことを経営理念に据えている。各工程がそれぞれ“関所”の役目を果たし、包装をする際にも、何か気付いた点があれば迷うことなく前工程に戻すのである。極めて非効率的とも言えるが、だからこそ顧客の絶大な支持を得ることができる。
 しかし、ここまでの徹底したチェック体制をとっていても、時にはクレームが発生する。ここで重要なのが、その対処法。以前、プレスの時にボタンがちょっと欠けてしまった際には、澤氏自ら同じボタンを探し、最終的にはボタンメーカーに頼んで作ってもらったことがある。その誠実な対応に顧客は感激し、それ以来クリーンサワのファンになった。遠くに引っ越した後も、大事な服は宅配便で送ってくる顧客もいるほどだ。

「お客様を大切にする」経営哲学を全スタッフに伝え続ける

 以上、徹底した顧客志向を貫く同社の理念を全スタッフに浸透させるために欠かせないのが、毎朝の掃除である。顧客が入って来るカウンターの前の床は板張りなのだが、常に蛍光灯の明かりが反射するほど。店の前の通りも毎日、掃除し、雨の降った翌日には看板もキレイに磨き込む。そうした行為を通して、スタッフ全員に「お客様のために」という真の顧客第一の気持ちが生まれてくるという。そして、この気持ちがなければ本当に顧客に喜ばれるサービスは提供できない。
 また同社では、日々衣服に関する研究を怠らず、小売店やメーカーとも情報交換をしているが、それをスタッフに伝えるために、澤氏自身が講師となっての勉強会を定期的に開催している。技術的なことや繊維素材の知識といったクリーニングに直接関係のあることはもちろんのこと、「法改正による新しい表示方法について」「最新のアパレルファッション情報」「時事問題の理解の仕方」など、幅広くテーマを設定。全人的な教育を実施している。
 また、「ほめられ帳」の作成も同社の特徴のひとつだ。クレームを記録する店は多いと思うが、「ほめられ帳」のようなものはあまり聞いたことがないのではないか。これは、「シミがキレイに落ちていてお礼を言われた」など、文字通り顧客の感謝の言葉を記録しているもの。こうした顧客の賞賛の言葉は、各工程で品質維持に懸命に取り組む従業員にとって何よりの励みとなる。こうした施策も、「お客様のために」という気持ちを従業員に植え付け、品質アップ、そして顧客満足度アップに向けた妥協なき努力を生むための、ひとつの“仕掛け”と言える。

サービス業に安住の地はない!

 以上に紹介した同社の活動すべての総合力が、サービス品質の向上を実現することにつながっている。最後に、顧客満足を追求する経営者としての澤社長の、非常に感慨深い、正直な言葉を紹介して終わりにしよう。
 「シミやプレスの仕上がりが今ひとつと思った時は迷わずに前工程に戻せと常々言っているが、お客様にはまず分からないだろうなというものも、実は多い。正直なところ、それをそのまま通してしまったほうが、経営効率的にはいい。しかし、経営者である私がそれを言ってしまったら、日々の言動がすべて嘘になってしまい、店は根底から崩れてしまう。毎日が自分との闘いであり、サービス業に安住の地はない」。


月刊『アイ・エム・プレス』2003年8月号の記事