食品の宅配サービスを開始したエフアール・フーズでは、自称「素人のコミュニケーション」を駆使して新規顧客に向けたプロモーションを展開。会員数が約半年で1万名を大きく上回る成果を収めた。
店舗販売もいよいよスタート 会員数の伸びは順風満帆
ユニクロでお馴染みのファーストリテイリングの食品専業子会社であるエフアール・フーズは、野菜や果物のセットを2週間ごとに宅配する会員制サービス「SKIPクラブ」を展開している。生産から販売までを一貫してコントロールし、消費者に高品質(安心・安全)な食品を低価格で提供することを目指したサービスだ。
「SKIP」というネーミングには、ウキウキした時にする「スキップ」と、間を省く「スキップ」の両方の意味が込められている。元来「食べる」ことは楽しいこと。前者はそのウキウキ感を、後者は、鮮度が命とも言える生鮮食品分野で、生産から販売までを一括管理するビジネスモデルを表現している。
「SKIPクラブ」は2002年10月にスタート。首都圏のみの展開で、現在の会員数は約1万3,000名(2003年5月現在)に上る。ターゲットは“日々料理を作る人”。30~40代女性(主婦)を中心に、老若男女幅広く会員が集まった。メンバー登録は、フリーダイヤル、ホームページ、専用の申込用紙によるFAXのいずれかで受け付ける。入会金は1,500円(消費税別)、年会費は無料だ。同サービスは、基本コースと追加メニューで構成されており、基本コースは「野菜とくだものAコース」、「野菜とくだものBコース」、「くだものコース」、「核家族向けコース」の4コース。1回の送料は一律200円。決済はクレジットカード払いのみとなっている。
「SKIPクラブ」以外の販売体系としては、2002年10月にスタートした、好きなときに好きな商品を購入できるオンラインショップ「SKIPストア」や、対面販売の店舗「SKIP松屋銀座店」(2003年5月オープン)などがある。
「お試し」による共感づくり
食材購入の決め手である「味」をアピールするには、実際に食べて実感してもらうのが一番。そこで、新規顧客獲得のプログラムでも、「試食・試飲」を特に重視している。
例えば、新規会員募集のためにロゴ入りトラック「トラックストア」での移動販売を2カ月間実施。そのほか、東急百貨店や松屋などでの催事も開催した。
さらに同社の親会社であるユニクロの店舗も活用。ユニクロは、全国600店舗、2万名のスタッフを擁しており、消費者との直接的な接点を持つ強みがある。そこで2002年11月から2003年5月にかけて、このユニクロ既存店舗に専用ブースを設けて、クラブへの勧誘を目的とした「試食会」を最大27店舗で開催し、新規会員の獲得に努めたのである。みかん、いちご、ジュースなどを実際に手に取り、試食してもらうと同時に、入会金無料のキャンペーンを行い、新規顧客の獲得促進を図った。
「お試しセット」(1,700円/消費税別/送料無料)も展開している。野菜、果物、牛乳などを組み合わせた同セットは、ホームページとフリーダイヤルで注文が可能。試食会には地理的・時間的な制約があるが、「お試しセット」はすべての人に食材を確かめてもらう絶好の機会となる。試してみて商品に納得できたらメンバー登録してください、というわけだ。
こうしたさまざまな施策が奏功し、「SKIPストア」の累計購入者数はお試しセット購入者を含めて6万名を超えている。
全お試しセット購入者に対しては、再購入や入会につながるようアウトバウンド・コールを行う。同社はインハウスのセンターを持ち、オペレータ数は約60名。アウトバウンド件数は1日当たり100~150件である。成約率などの詳細は明らかにされていないが、①オペレータにはSKIPの仕組みや商品特徴を理解しているベテランを選定、②セールス色を感じさせないよう、商品の感想を聞く切り口で問いかけるようなスクリプトを工夫するなど、「お試しセット」申込者を確実に顧客化するための工夫をしている。
「お試しセット」申込者に配付するパンフレット
独自のコミュニケーション・ポリシー
同社のコミュニケーション戦略のコンセプトは、「素人だからできるコミュニケーション」(マーケティンググループ 広報担当 河野恵美氏)だ。ユニクロの扱う衣料品は「目」で判断できるが、エフアール・フーズが扱う青果品は「味」で判断される。しかも、味に納得した人に勧められると、試してみるときの心の障壁がグンと下がる。そこで、一気呵成の大々的なマスコミュニケーションに依存するのではなく、口コミ形成を狙った地道なコミュニケーションを重視しているのだ。
前述した、一般の消費者向けの試食会やお試しセットももちろんだが、ユニクロ既存店のスタッフに対しても試食を促し、顧客として取り込むだけでなく、口コミ源として積極的に活用した。
もうひとつの口コミ源として、影響力のある著名人約100名に無料で食材を毎月届けている。例えば、レストランや料理教室など、顧客と接する“場”を持つ有名シェフや料理家などだ。河野氏はその効果について次のように指摘する。「シェフはそのプロの腕によって素材を活かし、最高の味に調理してお客様に提供できる。まさに食べる楽しみを味わう場面で、シェフのお墨付きまで得て一般の消費者が食材を試すわけで、食材に対する安心感・信頼感を植え付ける効果は計り知れない」(河野氏)。
そのほか、マスコミ関係者、「SKIP」の名付け親でありコミュニケーションを監修する糸井重里氏などにも宅配。こうした人々を口コミの重要な起点と位置付けている。
事業スタート時の記者会見は、新宿区内の廃校となった小学校を利用して行うという奇抜なものだった。しかし、内容は極めて真摯で、校庭に“農業家”、一般公募の当選者、記者といった「つくる人」「売る人」「買う人」「伝える人」が一堂に会して、“美味しい体験を共有する”というもの。例えばそこで生まれた対話によって納得度が高まれば、必然的に記事も好意的になるわけだ。
コミュニケーションの核は「口コミ」という地道なものだが、糸井氏や農業の玄人である永田照喜治氏といった各界の専門家や親会社のユニクロなど、外部パートナーを積極的に巻き込んで、協働でブランド構築を進めている。
共感がコミュニケーションを生む
2002年4月に開始したメルマガ「てんちょー日記」の会員は、現在14万人。情報を包み隠さず公開する姿勢に、多くの読者が共鳴。メルマガに対して寄せられる感想は1日約50件、月約1,500件を超え、応援メールも多い。このことからも、消費者目線を演出するのではなく、“消費者そのもの”であり続けることを心掛けた「素人だからできるコミュニケーション」は、共感と信頼を得て、結果的には自発的で有用性の高い双方向のコミュニケーションを成立させていることが分かる。今後も、口コミや試食を起点に、信頼関係に基づく見込客の顧客化を目指していく考えだ。