月当たりページビューが2億5,000万に達する楽天市場を展開する楽天(株)は、「すべての消費行動を楽天市場で」を理想に掲げる。インターネット上での商取引に対する不安感の払拭と、CSの向上を推進することでブランド力を培っている。
ブランドメッセージは「買い物はエンターテインメント」
430万アイテムを超える品揃えを誇る楽天市場を運営する楽天(株)は、これまで世界No.1のインターネットショッピング・モールを目指し、事業展開に取り組んできた。
楽天市場に対する事業主からの問い合わせは月当たり約2,600件にも上り、うち約10分の1が実際に出店に至る。出店企業に対しては「楽天には成功ノウハウとサポート、集客力がある」を、また、一般ユーザーには「ショッピング イズ エンターテインメント」をブランド・メッセージとしている。
さらにユーザー向けには「いつでも」「どこでも」「何でも」のブランドイメージを構築したい考えで、2003年1月には、携帯電話で購入可能なアイテム数を従来の2万点から130万点へ大幅に引き上げ、「どこでも」と「何でも」を一段と強化している。最終的には、「購入する、販売するなどの消費にかかわるすべてが可能な“楽天”を目指す」(取締役 マーケティング・メンバーサービス部門長 小林正忠氏)意向という。
同氏が明らかにするブランディング戦略の柱は、①インターネット上の商取引に対する不安感の払拭、②ユーザーの満足度の向上の2つだ。同社ではこの2大目標を達成するための施策を打ってきたが、B to B to Cのビジネスモデルである以上、出店企業の質がすなわち楽天市場のブランドイメージを左右する大きな要素である。そこでまず、出店企業をどのようにサポートし、楽天市場におけるブランドイメージを維持しようとしているかを紹介しよう。
出店企業すべてがブランド価値を共有
出店者向けの施策は大きく分けると①ECコンサルタントの配置、②楽天大学の運営、③楽天活用ハンドブックの配付、④法務審査部の設置、⑤情報の共有、の5つがある。
①は営業担当者を指し、楽天市場がこれまでに培ったサイト運営のノウハウを活かして、出店企業とともに戦略を練るだけでなく、楽天に入ったクレームや要望をフィードバックし、サービス改善などを求める役割を果たす。楽天市場としてのサービス基準を満たすことができないと判断した場合には、退店を促す厳しい措置をとることもあるという。
また、②はオンラインショップの運営ノウハウを有料で提供する講座だ。約6,000店に上る出店企業の成功・失敗事例を体系的にまとめた分かりやすい内容となっている。③は同社が四半期ごとに出版する、同社のサービス内容や②の案内を詳細に記したガイドブックで、全出店企業・資料請求者に配付されている。
「顧客の安心感=購入しやすい店、を構築するためには、スタッフのコメントや写真を多用するだけでなく、購入者に『利用者は私だけではない』と思ってもらうために、ユーザーのコメントや購入状況を掲載する」といった運営ノウハウを、①、②、③を通して伝えていくというわけだ。
④は同社が独自に開設した部署で、特定商取引法に違反がないかなどを審査する。法改正があった場合には、速やかに情報を出店企業に伝える。ともすれば無法地帯となりがちなインターネットの世界において、顧客の不安を払拭するためには欠かすことのできない役割を果たす。
⑤の情報の共有化は、主に2つのかたちで行われる。ひとつは、楽天が目指す事業の方向性や戦略などを出店企業に示し、楽天ブランドの価値を共有することを目的とした説明会の開催がある。全国各地で開催される説明会には代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏をはじめとする役員が出席、「経営トップ自らが楽天ブランドの方向性を示している」(小林氏)。もうひとつは、すべての出店企業がオンラインで情報を共有できるシステムの提供や、オフラインで行われるカンファレンスの開催が挙げられる。これら情報のやりとりによって、店舗運営の悩みが解決されていく。
このように、出店企業とのコミュニケーションを通して、すべての出店者が「楽天市場」にふさわしいショップ運営とサービス展開を行うことができるよう、手厚くサポートすることで、ブランドイメージの維持・向上が図られているのだ。
楽天のトップページ。ネット利用者なら誰もが知っているサイトだ
(http://www.rakuten.co.jp/)
クレームをラブレターに 逆転顧客対応で信頼を勝ち取りブランドロイヤルティを向上
このほか、同社独自の取り組みとしては、1997年の創業当初からの充実した顧客対応があり、現在16名が専属で担当する「メンバーサービス部」が中心となってこれに当たる。ユーザー向け窓口となる同部では、1日に約300件寄せられるeメールに対応している。クレームが入った場合は、ECコンサルタントを通して店舗側にまずクレームがあったことを伝え、クレーム処理が行われたことを確認した上で、なぜそのようなクレームが発生したのか、それを回避するためにはどうしたらよいかを検討していく。また、こんな機能が欲しいなどの要望については、開発戦略に活かすためのレポートとしてまとめている。
同部は正社員を中心に、専門の教育を受けた派遣および契約社員で構成されている。「クレーム対応においては、顧客の言葉の裏に隠された真意を読み取る能力が必要とされる。対応はある程度パターン化されてはいるが、スタッフが当事者意識を持って、顧客のために何ができるかを常に考えることが最も大切と言える。そういう意味で、現スタッフは意識が非常に高く、楽天ならではの取り組みができていると自負している」(小林氏)。
誠実さとスピードを重視した顧客対応は、クレームをラブレターに変えるほどのレベルに達しており、時として顧客から「丁寧に応じてもらったのでかえって楽天が好きになった。ありがとう」などの感謝の声が届く。これこそ顧客接点におけるブランディングの成功例と言えるだろう。
以上、同社のブランド戦略に基づいた施策をながめてきた。日経BP社が2002年8月に行った主要サイト800のブランドランキングにおいて、楽天市場はYAHOO!JAPANに次ぐ2位の座を獲得、国内においては一定の地位を確立したと言える。
しかし同社では、広く一般のユーザーに楽天市場が認知されているとはまだ言い難い状況であると認識、今後はさらにブランド認知度を高めるべく努力していく方針という。