顧客の悩みを解決すること それ自体をビジネスに転換

ジャパンベストレスキューシステム(株)

「困っている人を助けることがビジネスだ」をモットーに事業展開を図るジャパンベストレスキューシステム(株)では、コールセンターを宝の山と認識。新たな顧客ニーズの発掘に余念がない。

顧客ニーズがサービス拡大を呼ぶ

 生活全般の緊急トラブルを解決する、「生活救急車」サービスを展開するジャパンベストレスキューシステム(株)(URL:http://www.jbr.co.jp/)は、1999年に設立された。その社名は、臨機応変に“その時のベストな方法で生活者を助ける”というモットーに由来する。経営理念はいたって明快、“困っている人を助ける”だ。
 同社の前身は1997年設立の日本二輪車ロードサービス(株)だが、創業のきっかけは、バイクのトラブルで困っている人を助けた時に感謝され、逆に自分が感動したという代表取締役 榊原暢宏氏の実体験にある。
 それではなぜ、バイクロードサービスが生活全般のトラブル解決サービスに結び付いたのか。それは、利用者のトラブル解決ニーズはバイクにとどまらず、例えば、バイクのカギをなくす→同時に家や自動車のカギもなくなる→ピッキングの心配や被害→住まいに関するトラブル・・・といった具合に果てしなく広がっていくためだ。できる限り顧客の要望に応えたい。そんな思いをかたちにしたのが「生活救急車」である。トラブル解決のニーズは、正にトラブルが発生した、その現場で発掘してきたのだ。現在、「生活救急車」が提供するサービスは、カギ、ガラス、水回り、自動車など、多岐にわたる。
 バイクロードサービスの会員数はすでに約10万人なのに対し、「生活救急車」サービス会員は約3,000世帯にとどまる。しかし、トラブルの解決依頼の電話は1日平均1,500件に及び、その数は増加の一途にある。このため、「これまではサービス拡充を第一目標に掲げてきたが、今後は一度コンタクトがあった顧客をいかに固定顧客化するかが課題」(榊原氏)である。

コールセンターから新サービスが誕生

 「生活救急車」ビジネスを拡大するためのニーズ発掘、すなわち利用者発掘のカギを握るのが、顧客との最初の直接的な接点であるコールセンターだ。同社ではインハウスでコールセンターを運営、自社採用したアルバイト15名が、トラブル専用の全国共通フリーダイヤルで24時間365日、対応する。
 同社で解決できないトラブルはオペレータが手書きメモのかたちで日々、蓄積。こうした顧客の生の声から潜在ニーズを探り、新たなサービスへつなげる仕組みとなっている。例えば、大手町は金融機関が多く、日常的に自転車が利用されているにもかかわらず「自転車店がなくて困る」という声から、自転車のメンテナンスポイントを設置するなどの新サービスを今年4月から開始する。
 榊原氏は、この電話受付の現場こそが同社にとっての“宝の山”だと言う。このため、顧客対応の最前線に立つオペレータには高い能力が求められる。同社に電話をかけてくる顧客はトラブルに巻き込まれ、冷静さを欠いている場合がある。オペレータは顧客が置かれた状況を読むとともに、素早く、的確に、そして臨機応変に対応しなければならない。
 例えば、夏の暑い時期に子どもが車の中に残り、外出した母親がカギをなくして入れなくなる、いわゆるロックインが発生したケースでは、オペレータが母親に対して窓ガラスを割って中に入るよう強く求めた。車内温度が急上昇する時期だけに、子どもがひとりで車内に残るのは非常に危険だからだ。リスク回避のために、厳しく顧客に対応する能力。これも、オペレータに求められる資質のひとつであり、時としてこうした対応が顧客の厚い信頼につながっていく。同社ではコールセンター業務をアウトソーシングする予定はなく、あくまでも自社で行っていく考えだ。

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街を走る「生活救急車」。目にとまりやすい外装にし、広告塔の役割を期待している

「顧客に食事をご馳走してもらいなさい」

 「生活救急車」は全事業を同社だけで運営しているわけではなく、約200名の代理店スタッフがトラブル現場の対応を行っている。また、大型車のレッカー移動や大型ガラスの交換などの特殊なトラブルの際は、約500社のレッカー業者、約250社のガラス業者、約400社の自動車整備工場などのネットワーク協力店が「生活救急車」をバックアップする。
 現在、全国で約400台の「生活救急車」が走行中だが、各車が月1万枚、計400万枚のチラシをポスティングしている。新規顧客開拓のため、そして、「生活救急車」が目に触れる機会を増やし、「走る広告塔」としての役割を果たすことを狙う。
 協力店を増やすことでネットワーク拡大を図る同社だが、顧客との直接的な接点となるだけに、協力店の選定は厳しく行う。榊原氏は、「直接会って話したときの感じで提携の可否を判断できる」と言う。服装や言葉遣いの端々に、顧客を真に「お客さま」と認識し、心遣いを示すことができるかどうかが滲み出るためだ。また、顧客の家を直接訪れるスタッフには、「訪問宅でお茶や食事をご馳走になれるくらい、顧客と親しくなるように」と指導するほか、サービス終了時には必ず「ほかにお困りのことはありませんか」と声をかけ、顧客からより深い信頼を得るよう求めている。

困っている人を助けて急成長

 同社の社員はわずか12名だが、手数料収入のみで2003年9月期には年商14億円を達成する見込み。前年の6億2,000万円から大きく成長すると予測されている。
 バイクロードサービスは2,500店を超えるバイクショップで会員を募り会員数を伸ばしてきたが、「生活救急車」サービスは、知名度の高い企業とのパートナーシップを前提にした“B to B to C”によってエンドユーザーを増やしている。例えば三越とのパートナーシップでは、三越専用フリーダイヤルを設置し、三越の顧客に対して防犯性の高いカギへの交換サービスをはじめ、カギに関するあらゆるトラブルに対応している。旭硝子、NTTドコモなど提携先は幅広く、こうしたパートナーシップが同社の大きな強みと言える。
 今後は、「生活救急車」においても会員の増大に努め、会費収入でビジネス基盤を築く方針だ。そこで、今年2月から初のアフターフォロー策としてアウトバウンド・コールを開始した。簡単なアンケート調査を行い、サービスやスタッフに対する満足度を把握したい考え。こうしたアウトバウンドは、スタッフにいい意味での緊張感と刺激を与え、サービスの質の向上につながるのではとの期待もある。
 “困っている人を助けたい”という明確な理念、安定した収益構造、柔軟な協働体制、質の高いサービス。さらには、顧客接点の徹底強化。これが、同社の急成長の秘訣である。


月刊『アイ・エム・プレス』2003年3月号の記事