PCソフトウエア部門で圧倒的シェアを誇るマイクロソフトでは、コンタクトセンター設備と人員のすべてをアウトソーシングする。コンタクトセンターに課されたミッションとその存在意義を明確にしてこそ果たせた、アウトソーシングの徹底活用を見る。
ミッション達成を目指し複数社とパートナーシップを組む
マイクロソフト(株)のコンタクトセンターは、大別するとテクニカルサポート、プレセールスの2部門に分けられる。ともに設備と人員をエージェンシーに任せているが、今回は特にプレセールス部門に焦点を当てた。
プレセールス部門は、以前はインハウスで運営していたが、コストと場所の負担が大きかったことや時流が手伝って、6年前にエージェンシーを活かしたコンタクトセンターを開設した。短期間で一気に立ち上げたため、エージェンシーとの間に意識の食い違いが生じるなど問題点も多かったことから、4年前に複数のエージェンシーと徹底的に話し合い、現在のかたちにこぎ着けた。複数社を活用したのは、リスク分散と会社ごとの得意分野を考慮してのことだ。最近では、「Xbox」のコンタクトセンターが、トランス・コスモス(株)の設立した新会社によって宮崎にオープンされている。
プロフェッショナルサポート本部 カスタマーサービス統括部カスタマーリレーショングループ・マネージャ合田雅子氏によると、プレセールス部門の電話番号は一般に公開されているだけに、パソコン初心者から上級者まで、幅広い問い合わせがあるのはもちろん、企業から大規模案件に関する話が入ってくることもある。このため、知識上、オペレータにはさまざまなスキルが求められ、人材が豊富で人員管理能力の長けたエージェンシーの活用は、同社にとって大きなメリットなのだという。
フリーダイヤルではないにもかかわらず問い合わせるからには、どうしても解決したい何らかの問題が必ず存在する。このため、オペレータには「かけてよかった」と顧客に感じさせる的確な回答が要求される。しかし、コンタクトセンターのミッションはそれだけではなく、「マイクロソフトは顧客のことを考えている企業なのだということを顧客に感じてもらい、次の売り上げにつなげていくことも重要」と合田氏は語る。
このため、コンタクトセンターには、いつかけてもつながるキャパシティーが要求され、この条件をどの程度満たすことができるかは、エージェンシーを選択する上での大きなカギとなる。また、一般に1次回答率をコンタクトセンター運営上の最も重要な評価指標にかかげる発注元は多いが、合田氏は「顧客満足度に関する調査を見ると、1次回答率よりも、いかにクオリティの高い回答ができたかが問題」と指摘し、数字ではなく、回答の内容にこだわると話す。
マイクロソフトとして、ごまかしのない誠心誠意の対応ができたかどうか。ここを確認するためにもコールのモニタリングを欠かすことはできず、現在、数名のスタッフが交代で、週に1~2回は現場に足を運んでモニタリングを行っている。
以上のようなセンターの存在意義や、企業としてのポリシーを明らかにした上でコンペを開催、現在のエージェンシーとパートナーシップを組むに至ったという。
パフォーマンス管理の特徴は職制ごとのミーティング
実際のパフォーマンス管理としては、サービス・レベル・アグリーメントとして、何秒以内にコールをとるか、IVR(音声自動応答装置)のメッセージが終了してからオペレータが応対するまでの時間、放棄呼数など、細かな規定を設けた契約を結んでいる。数値的な報告は毎日eメールで届けられており、必要があれば随時、電話が入る。
特徴的なのは発注元、発注先の両者が集まる報告会の形式だ。かつては、技術力やテクノロジーに関する責任者「テクニカルリード」や、スーパーバイザー(SV)、センター長と発注元が一堂に会して行われていたが、2002年の春に職種ごとの個別ミーティングへ切り替えた。
職種が違えば求められる能力や仕事の内容も異なる。ある意味、当たり前のことではあるが、この事実を素直にとらえ、テクニカルリードだったら製品の技術部分の議論を、SVだったら人員配置やエスカレーションに関する心得、さらにはカンパニーポリシーの確認など、それぞれの立場に合った内容のディスカッションを行うようにした。これにより、時として発注元が一方的に話をするだけで終わりがちだったミーティングが議論の場と変わり、両者にとって非常に良い体制を確立することができたという。
合田氏によると、長い間同じ体制で業務を行っていると、ビジネスとしての報告がややもするとおざなりになることがあるという。エージェンシーに対する信頼が高まると現場の権限も大きくなり、時として勝手な判断が入るほか、報告の遅れも生じやすくなる。長いパートナーシップから生まれるある種の弊害の払拭にも、報告会体制の大改革は役立っているだろう。
さまざまな側面からパフォーマンス管理を行ってはいるが、人員配置などエージェンシーが得意とする部分については管理を一任し、逆に「こうしたらもっと良いサービスができる」などの提案を期待しているという。人員管理のノウハウ、提案力などがパートナーとしてのエージェンシーを選択する際の重要な指標になっている。
顧客の声をフィードバック エージェンシーのもうひとつの役割
マイクロソフトとしての看板を背負って顧客対応に当たる以上、顧客サービス上の基本ラインはきっちり求めていくが、もうひとつ、エージェンシーに期待する大きな役割がある。それは、顧客の声のフィードバックだ。「このような提案があった」「このような意見があった」といった情報を、どんどん伝えることを望んでいるのだ。同社の情報を顧客に提供するだけでなく、顧客の情報を同社に伝える双方向の流れを生み出すスイッチギアとしての役割を求めていると言える。
顧客情報のフィードバックは、かなりシステマティックに行われている。「こんな機能があれば」などの緊急を要さない情報については、ウィークリー・レポートなどで報告してもらう。また、マイクロソフトとしてすぐにでも対応し、顧客に何らかの説明を行わなければならないケースに関しては、eメールや電話をかけるなどの方法をとる。連絡方法の使い分けや情報の緊急度について明確な規定があるわけではないが、長期間ともにビジネスを進めるなかで、自然とブラッシュアップされたワークフローが存在する。この点、長いパートナーシップだからこそ実現できる“あうん”の呼吸と言えそうだ。
一方、発注元であるマイクロソフトが果たすべき役割を考えてみよう。まず、製品情報に関するオペレータ教育が挙げられる。もうひとつは、オペレータに、同社のコンタクトセンターで働く喜びや誇りを見出してもらえるような努力がある。オペレータのモチベーションをいかに保つかは基本的にエージェンシーの仕事となるが、マイクロソフトによりロイヤルティを感じてもらうために、優秀なオペレータを表彰したり、慰労の意味を込めたパーティー、忘年会を行っている。この点に関しては、エージェンシーではフォローできないと認識し、長くアウトソーシングする間に得たノウハウをもとに、手厚いケアを行っていきたい意向だという。
さらに、現場で問題が生じた際にはすぐに相談できる、話しやすい雰囲気も重要になる。コンタクトセンターの例ではないが、以前、アウトソーシングしたスタッフに内容証明付きの郵便物が届き、エスカレーションすることなく、現場に留め置かれていたことがあるという。「こうした郵便物の対応をアウトソーサーに求めるのはムリというもの。こちらにきっちり伝えていただけるよう、日頃から何でも相談できる環境を作る努力が必要」と、合田氏は語る。
「電話に出るだけではだめ。回答をするだけでもだめ」(合田氏)。同社ではより高いサービスレベルのコンタクトセンター運営を目指してはいるが、エージェンシー側もビジネスとしてコンタクトセンター事業を行っているので、それにプラスになるようなかたちでの付き合いが理想という。その点、同社では、対応者の発言は社員のそれと同等という認識のもと、エージェンシーに“アウトソース”するという考えではなく“パートナー”として協力関係を築いていきたいと考えている。