テレビ通販は売り切り型 紙媒体とのすみ分け図る

(株)BMGファンハウス

音源や映像などの通販を行う(株)BMGファンハウスでは、最近、テレビ通販を強化している。売り上げは伸長しているが、電波媒体で集めた顧客とのリレーション構築はほとんど考えていない。行きずりの関係である顧客にいかに商品をアピールするか、その極意を探る。

今年からテレビ通販に本格参入 電波媒体の強みを活かす

 (株)BMGファンハウスは、1997年に独ベルテルスマン・グループ100%出資の(株)BMGジャパンと、(株)ファンハウスの合併により誕生した。BMGはベルテルスマン・ミュージック・グループの略称で、世界5大レコード会社のひとつだ。BMG全体で2001年に5,500億円を売り上げた。現在、BMGファンハウスが行う事業には、音楽・映像・コンピュータソフトの企画・制作・販売などがあり、通販会社への卸販売も行っている。
 従来、新規顧客の獲得は新聞や雑誌などの紙媒体に掲載する広告を通して行ってきた。購入実績のある顧客には通販カタログ「ミュージック ナビゲーション」(発行部数7万部=写真=)を送付するほか、DM発送も行っている。加えて、昨年8月頃からテレビ通販の可能性を探り始め、今年からCS多チャンネル放送(以下CS)で90秒スポット枠の商品案内をスタートさせた。
 紙媒体から電波媒体へと販売チャネルを拡大した理由は、大きく分けると3つある。
 ひとつ目は、なんと言っても紙媒体での売り上げの伸びに限界が見え始めたことだ。通販市場そのものは基本的に拡大傾向にある。しかし、通販会社1社当たりの売り上げおよび営業利益となると、かつての伸びは期待できなくなっている。Strategic Marketing本部長の米山規雄氏は、同社の紙媒体による売り上げの伸び悩みについて、「マーケット的に限界に達したのか、それとも、マーケットが存在してもそこにリーチするだけの企画力が不足しているのかは、明確には分からない」としながらも、「紙媒体では受け入れられにくかった商品が、テレビという電波メディアなら受け入れられる可能性がある」と、テレビ通販の可能性を語る。事実、昨年1割程度だったテレビ通販の売り上げ構成比は、最近では6割を超える規模にまで育ってきた。
 2つ目は、ひとりの新規顧客を獲得するためにかかるコストが、紙媒体と比べて低く抑えられることがある。「CS、ケーブルテレビにおける深夜90秒枠に関しては、現在の額は妥当と言える。これが値上げされるとなると、話は別だが」(米山氏)。
 3つ目は、音楽と電波媒体の親和性だ。紙媒体でこのアーティストがこういう曲を歌っていると説明するよりも、映像と音声を使って曲そのものを流した方が、顧客に与えるインパクトは大きい。楽曲が持つイメージや曲調などの、言葉では表現しにくい情報をストレートに届けることができる。

映像で顧客をキャッチする5つの法則

 現在、90秒のスポット枠を通して販売しているのは、クラシック、ジャズ、シニア・ミュージック、さらに年代別に分けた邦楽・洋楽などのCDセットだ。例えば、80年代の邦楽バラード・セレクション7枚組みは一括払い価格で1万7,640円となっている。
 90秒で顧客にアピールするために、配慮している点がいくつかある。①電話番号は90秒間ずっと画面上に映し、フリーダイヤルのアナウンスは修了間際に2回行う。②短時間でたくさんの収録曲の内容を記憶するのはムリなので、電話番号と同様にホームページアドレスも継続的に流し、改めて商品内容の確認をしてもらえるようにしている。これが、インターネット経由の売り上げにつながることもある。
 また、③価格を分かりやすく表示することも大切だ。これは、商品に対する安心感や会社に対する信頼感を持ってもらうためでもある。強力なブランド力を持った国内企業はともかく、外資となると会社名だけで視聴者の信用を得るのは難しい。インフォマーシャル(情報+広告)の長時間枠ならまだしも、短時間枠のブランド訴求は困難である。もっとも同社では、ブランド力をそれほど問題視しているわけではない。テレビ通販は結局、商品力、商品の中身が問題だと考えているからだ。さらに、④1回の放送だけでは多数のレスポンスは期待できない。そこで、放送を「見ている人」が誰なのかを見極め、最も効果の期待できる時間帯の中で繰り返し放送する。「番組の作り方」よりも「広告の仕方」に力点を置いているという。
 ⑤CDに収録されたすべての曲を紹介するのは不可能だとしても、より多くの情報を伝える努力は大切という。情報が偏ると、購入前の商品イメージと実際に受け取った商品イメージとの間にギャップが生まれ、返品につながる可能性があるからだ。この点、同社では「返品率は低く抑えられている」(米山氏)と自負しているが、細かな数字は明らかにされなかった。

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通販カタログ「ミュージック ナビゲーション」。現在の発行部数は7万部だ

DM効果は期待できず 紙と電波のすみ分けを図る

 米山氏は、同社のテレビ通販は「顧客とのリレーション型ではなく、売り切り型」と言い切る。「音楽という商品特性のためかもしれないが、DMのレスポンス率は圧倒的にテレビ通販利用者の方が低い」(米山氏)。これはある程度予測していた現象だと言う。
 音楽商品は、例えば80’Sに興味のある人が、50’Sにも手を伸ばすとは考えにくい。音楽は記憶とともにあり、個々が持つ原体験とつながっているからだ。しかし、1度購入してしまったらそれで終わりというわけでは決してない。同じジャンルでも、曲の選定を変えた形の商品を作り、クロスセルにつなげることは可能だ。事実、カタログ通販では購入履歴を基に顧客をセグメンテーションし、別の商品を案内することで売り上げにつなげることができた。
 テレビ通販においても、購入実績客をセグメンテーションした上で、それぞれの顧客に適した案内を送ることは可能かもしれない。しかし、「郵送の場合、1通当たり25gのカタログを作るとしたら、1万通を超えないと投資対効果が出ない」(米山氏)。また、音楽商品のテレビ通販ではヘビーユーザーが育つとは考えにくいため、電波媒体では商品の品質と価格を訴求するスタイルを取っている。
 同社における通販での客単価は紙媒体で2万2,000円程度。一方、テレビ通販では1万6,000円程度だ。テレビ通販では6,800~9,800円の価格帯が理想的と言われる。ここが、テレビを見て瞬時に購入を決められる価格帯なのだという。その点、同社の販売単価はかなり高くなっている。今後、表現方法の適・不適やレスポンスを見極めつつ、電波媒体と紙媒体のすみ分けを図っていく方針だ。
 同社には現在のところ、交流会などの顧客とのコミュニケ-ションの場の設置は考えていない。ただ、テレビを通して購入した顧客からeメールアドレスを精力的に収集中で、eメールに対するレスポンスがある程度取れるようになったら、eメール型のマーケティングを考える可能性もあるという。
 同社はカタログで顧客リレーション型の通販を展開し、テレビ通販の顧客とは一度きりの出会いと割り切って、商品訴求型を貫いていると言えそうだ。


月刊『アイ・エム・プレス』2002年9月号の記事