管理職も電話をとり顧客の生の声に傾聴

(株)QVCジャパン

アメリカをはじめ、イギリスやドイツでもテレビショッピングを展開するQVC。同社では顧客を知るために、管理職も積極的に電話をとるという。また、「いかに番組を見てもらうか」についても、ユニークな戦略を展開している。

世界最大のテレビショッピング専門チャンネル

 全世界で約1億2,000万以上の世帯に向けて、24時間休みなく商品情報を配信しているテレビショッピング専門チャンネルであるQVC。1986年、米国で設立されて以来、着実に実績を伸ばし、2001年度には3大ネットワークのひとつ、NBCに次ぐ全米第2位の売り上げを記録。通販番組の最大手として絶大な知名度を誇っている。1993年にイギリス、1996年にドイツに現地法人を設立した同社は、2000年6月、日本に(株)QVCジャパンを設立。2001年4月1日より、ケーブルテレビを中心に放送を開始した。2002年7月からは、CS100での放送も始まっている。
 QVCのサービス理念は、Q(Quality:品質) 、V(Value:価値)、C(Convenience:利便性)。これを実現するために同社では、商品調達から、番組制作・送出、受注・配送までをすべて自社で運営している。
 同社が扱っている商品は、1カ月に2,500品目以上。うち、およそ1,000品目が新規商品だ。商品ラインナップは、「ヘルス&ビューティー」「ファッション&アクセサリー」「ジュエリー」、収納用品・生活雑貨などの「ホーム」、各地の有名食料等の「フード」、アウトドアグッズ、ガーデニング用品などの「レジャー&ホビー」だ。
 商品政策に関する同社ならではの特徴には、既存の流通システムでは扱えなかった少量生産品や、地方の隠れた名品の紹介などに力を入れていること、海外のQVC社との情報交換によってセレクトされた世界規模のヒット商品や、同社オリジナルの商品を扱っていることが挙げられる。QVCの最大の売りは、これら「商品」の力だ。
 顧客の82%は女性であり、30代から50代の主婦層が中心。
 番組は、24時間のうち15時間を自社スタジオからライブで放送している。社内にコールセンターを設置しているため、生放送中にコールセンターに寄せられた視聴者からの反響は、リアルタイムに番組に反映される。

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ライブの臨場感をそのまま家庭に

管理職も電話で顧客対応

 同社コールセンターには110席が設けられており、140名あまりのスタッフが交代で業務に当たっている。社内にはオペレータ専用のトレーニングルームが設置されていて、新人のオペレータには最低60時間の研修が義務付けられている。
 同社は、テレビ通販企業の場合、「顧客との接点はコールセンターのみであるゆえに、そこから入る顧客の声を、アウトソーシングというフィルターを通すことなく、ダイレクトに受けることこそが重要である」(代表取締役社長 佐々木迅氏)という考えにより、社内にコールセンターを擁している。
 同様の意図から、同社では、管理職にも顧客からの電話をとるように指導し、そのための研修も行っている。このことにおいては、代表取締役社長も例外でなく、佐々木氏自らが電話に出ることも珍しくない。
 最近、こんなことがあった。コールセンターへのコールがオーバーフローしていたため、佐々木氏が電話をとると、置き引きに遭って同社が発行するIDカードを奪われ、自分のお客様番号が分からなくなってしまった顧客からの電話であった。その顧客はお客様番号が分からないとショッピングができないと思い、相談の電話をかけたのだという。実際には、電話番号が分かれば顧客の割り出しは可能であり、IDカードの再発行は比較的簡単なのだが、その顧客はそれを知らなかった。このような事態は佐々木氏には想像もつかなかったものであり、この一件を通して、管理職自らも、時には直接顧客の声に耳を傾けることの重要性を再認識したという。
 さらに、顧客とのリレーションシップに関して、同社では、コールセンターに寄せられた顧客からの意見・感想を“お客様の声”として全社員に公表し、共有している。同社では、「取り入れられる顧客の声は、どんどん取り入れる」という姿勢から、どんなに辛らつな意見であっても正面から受け止め、常にCS(顧客満足)の向上を念頭においた番組作り、顧客対応を心がけている。

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顧客との大切な接点であるコールセンター

「エンターテインメント性」を前面に

 テレビ通販は、当然のことながら媒体がテレビであるため、通常、顧客が視聴するか否かは、偶然性によるところが大きい。よって、固定客を得るためには、いかにして“番組を見てもらうか”が、重要な問題になってくるが、同社では、商品購入者に商品を発送する際に、顧客が目当ての商品が紹介される時間を容易にチェックできる番組のプログラム・ガイドを同封している。これは、顧客に“買いたいと思う瞬間”を逃させないための工夫である。また、同様の意図から、同社はほとんどの商品を受注後3日以内に配送する体制を整備。これは返品率を抑える重要なポイントであるという。
 さらに、同社では番組のハーフタイムに「プロモ」と呼ばれる各番組のコマーシャルを流しており、自社が力を入れている番組に対する関心度、認知度の向上に努めている。
 また、7月、8月は、商品購入者を対象に、スクラッチカードを付与する「サマーキャンペーン」を実施。当たりが出ると、QVCでの買い物に利用できたり、旅行に行けるというものだ。「サマーキャンペーン」は、7月現在、「プロモ」でも繰り返し紹介されている。番組作りの面では、このように「エンターテインメント性」を前面に打ち出すように心がけている。
 同社の戦略はこれだけではない。多くの場合、テレビ通販を利用する顧客の関心は、販売されている商品にあり、“どこで購入したか”を重要視する人は少ない。しかし、同社ではテレビという視覚に訴えるメディアの特性を最大限に活かし、画面に常に「QVC」のロゴが見えるようにしている。はっきりと社名を印象づけることで、顧客に「QVCから商品を購入した」ことを意識させ、「QVC」へのロイヤルティを喚起することがその狙いだ。さらには、同社への信頼感を深め、安心感を与えることにも有効だという。
 日本における放送開始から1年数カ月が経った。同社の売り上げは公表はされていないが、当初の予想をはるかに上回っているという。これに対応すべく、フルフィルメントをさらに充実させることが課題となっている。また、売り上げは伸びているものの、「QVC」というブランドがまだ一般に認知されていないのも事実であり、いかに「QVC」ブランドを浸透させていくか、その方法を、現在模索中だ。


月刊『アイ・エム・プレス』2002年9月号の記事