関連企業の商品を一挙掲載 売上を大幅アップ

キリンビール(株)

独立組織の立ち上げが決め手 広い視野を持つサイト運営を目指す

 1万5,000ページを誇るキリンビール(株)ホームページの中のインターネットショッピング・コーナーを覗いてみると、その品揃えは多彩だ。1979年にアナログメディアによる通信販売を開始して以来、根強い人気を保つ「ビヤマグ」のほか、「キリングッズ」「ハム・おそうざい」「花」「健康食品」「じゃがいも」などが並ぶ。
 しかし、肝心のビールは見当たらない。実は、インターネットを使った通信販売では基本的にアルコール類を販売することはできない。これは酒税法によるもので、希少価値の高い地酒や輸入ワインなどを除き、大量生産・販売されている酒類の通販は禁じられている。このため同社では、周辺商品のほか、関連企業が販売する商品をショッピングサイトで提供してきた。
 こうした関連企業各社も出店するWebを運営・サポートしているのが、キリンビール本体のeビジネス推進室である。
 eビジネス推進室が発足したのは、2000年7月。当初5名でスタートし、現在は7名から構成されている。特徴的なのは、同推進室が専務直轄の独立した組織であることだ。だからこそ、関連企業まで含むグループ全体のeビジネスをサポートすることができる。
 一般に、Web運営を扱う部署は、情報システム部、広報部、顧客と直接的に接点を持つコミュニケーション関連のセクションなど、特定部署の下部組織であることが多い。同推進室の室長・真野英明氏は、「Web運営がどこかの部署の管轄下にあると、戦略に偏りが出てしまう。例えば、広報とつながっていると、会社を代表したさまざまなメッセージを伝えることには長けているが、商品を販売するというマーケティング的な視点が欠けてしまったりする」と指摘する。
 それでは、独立した組織がeビジネスを推進した場合、どのようなメリットが生まれるのだろうか。
 各部署がバラバラにコンテンツを制作すると、どうしても内容の深みにばらつきが出るし、商品政策といったところまではケアしにくい。しかし、Web運営を一本化すれば、広い視野に立ったマーケティング的な発想で、戦略的なWeb運営ができる。また、運営上の決定権の所在を明確にすることで機動力がアップし、「これが必要」と判断した時点で実行に移せるのは大きな強みと言えるだろう。上位部署の影響を受けて自由に動くことができないと嘆くWeb担当者は多く、ここが、各企業の悩みどころとなっている。

きめ細やかな情報提供でアクセス数も売上もアップ

 立ち上げからまだ1年半しか経っていないが、真野氏によると、「アクセス数は飛躍的に増加し、マーケティングにも使えるようになってきた」。例えば、インターネットショッピングの「ここち開花」では、売上の半分以上が母の日に集中。そのほかの期間では業績が伸び悩んでいたが、eビジネス推進室のサポートを受けたところ、2001年におけるネット上の売り上げは前年比5〜6倍まで増加している。また、ハムや惣菜を販売する米久(株)の2001年の売り上げは前年比22倍という驚異的な伸びを示した。
 これまで、eコマースについてはさまざまな問題点が指摘されてきた。集客のための広告投資がかさむ、システム投資が膨大になる、などである。米久などの売上向上は、こうした問題を、キリンビールの絶大な知名度と信頼性を利用してクリアした結果とも考えられるだろう。
 もうひとつ、ネット通販の問題として、マーケティング力のない企業が「出店しさえすればもうかる」との幻想から市場に参入、失敗に終わるケースがある。こうした観点から同社のサイトを見つめ直してみると、真野氏が言う「マーケティング戦略に立った」巧みなコンテンツ運営が見え隠れする。以下にその例を挙げてみよう。
① 「かんぱい調査隊」
 Web上でさまざまなアンケートを実施。期間を限定、懸賞を用意して回答してくれるよう呼びかける。調査結果は、マーケティング担当者にフィードバックするとともに、Web上では誰でも自由に閲覧できるようにした。例えば、2001年12月1日〜2002年1月31日に行われた「家の冷蔵庫」調査では、冷蔵庫の中にあるビールの銘柄数や容量を聞いている。ちなみに、同アンケートにおける回答総数は2万3,199票だった。
② 「あなたのお近くの買えるお店をご紹介します」
 酒類を直接販売することはできないが、細かな情報を提供することで消費に結び付けるおもしろいコンテンツがこのコーナーだ。例えば、HEARTLAND BEERは広告をまったく出稿していないため、「どこで買うことができるのか」という問い合わせがお客さま満足推進室に舞い込んでくる。そこで、県・市町村・郵便番号から検索してもらい、取扱店の住所や電話番号、地図情報を提供したところ、たいへん好評だったという(下図)。

キリン1 キリン2

人気の「買えるお店」の紹介サイト(http:www.kirin.co.jp/freshnet/kikakulist/)(写真左)
「買えるお店」は住所だけでなく地図を使って詳細を案内する(写真右)

 取扱店の紹介コーナーではこのほか、「キリン一番搾り<生>ビヤ樽」「CAFE DE PARIS 桜の香り」の2品を扱っている。ビヤ樽も、顧客からの問い合わせが多く、Web上の情報提供を開始した。またHEARTLAND BEERについては、「飲めるお店」の紹介も行っている。最近はビールの種類が増え、1件の酒販店にすべての商品を揃えることが難しくなったためだ。
 こうしたすべてのWeb運営にかかわるeビジネス推進室は、1年ごとに各部署、各関係企業から評価を受ける。
 「我々が考えているeビジネスは、企業の細胞ひとつひとつ、組織細胞ひとつひとつに、インターネット・マインドを浸透させること」と真野氏は語り、次のように続けた。「インターネット・マインドとは、売上、データ収集、アンケート調査など、個々が持つテーマをインターネットを通して何らかの成果に結び付け、成功体験を重ねることを指す。常にインターネットでできることは何かを考えている。eコマースに対する理解が浅い部門については説明を重ね、一歩を踏み出すよう、今後とも強く背中を押していく」
 現段階ではWeb上での活動をいかにCRMに活かすかを語ることは難しいという。しかし、同室が発足して以来、サイトのアクセス数は伸び続け、ネットレイティングス(株)が発表した2001年12月におけるカテゴリー別アクセス数調査によると、「食品/料理」部門でトップにランキングされた。2位はマクドナルド、3位はサントリーとなっている。
 酒類という主力商品をWeb上で販売できないことは、魅力あるショッピングサイト作りという点から見ればデメリットかもしれない。しかし、既存チャネルとの兼ね合いから生じるある種の制約を受けずにサイトを構築できると考えれば、それはメリットとも言える。きめ細かで豊富な情報を提供することで顧客の購買活動を側面からサポートしてゆけば、結果として、主力商品や関連企業の売上増にもつながっていくだろう。


月刊『アイ・エム・プレス』2002年4月号の記事