顧客情報をインターネットと連動
横浜市の新都心計画「みなとみらい21」(MM21)のウォーターフロント、国際交流地区「パシフィコ横浜」に位置するヨコハマ グランド インターコンチネンタルホテル。600の客室、10カ所12室の宴会場、7カ所のレストラン等を擁し、ビジネスマンのあらゆるニーズに応えられるインターナショナルなホテルであると同時に、快適なリゾートホテルとしての2つの顔を持つ。また「IT戦略ホテル」の異名を取ることでも知られている。
同ホテルでは、“CRM”が一般化する以前から、顧客との関係作りには力を入れていたが、1998年にインターネット・マーケティング・セクションを設立してホームページのリニューアルを行ったのに伴い、顧客データベースをインターネットと連動させた。それまで同ホテルではプロモーションとして1カ月に1回程度顧客に紙媒体のDMを送る方法を取っていたが、これにより、インタラクティブ性の強いマーケティングの実現を目論んだわけだ。また、ホテル業界では初めて専任のWebマスターを置いたことも話題になった。
携帯電話を介したインターネット・マーケティングの導入
ホームページのリニューアルにより、Web予約の数はかなりの勢いで伸びを見せた。特に1999年に入ってからは、以前は月に数室程度であったのに対し、月平均で500室を上回るほどになった。
当初はPCを念頭においた同社のインターネット・マーケティングであったが、2000年12月に携帯電話を介したインターネット・マーケティングを開始した。これは、同ホテルに届くeメールのアドレスが携帯電話を介したものが非常に多くなってきたこと、同ホテルが擁する55歳以上の顧客を対象とした組織「Club55」の会員が有するメール・アドレスの約6割が携帯電話のものであるという事実に対応したもの。また携帯電話ならば、PCではできなかったことも実現できるかもしれないという思惑もあった。携帯電話の利用により宿泊当日の予約受付を容易にすることで客室の稼働率をアップする「当日予約プログラム」はそれを具現化したものだ。
携帯電話用のサイト構築に際しては、既存のPC向けWebサイトから携帯Webサイトへ効率的に誘導したいという考えにより、URLをPCと同じwww.interconti.co.jpにするといった工夫を施し、どの端末からも同じURLでアクセスできるようにした。
「当日予約プログラム」で残室を処理
「当日予約プログラム」の目的は、ホテルのグランド・イメージを保ちつつ顧客にダイレクトにアプローチすることで、当日の残室処理を促進すること。同ホテルではPCを介したWeb予約は、確認メールのやり取りの時間を考慮して18時までに制限されており、18時以降の空室の稼動に関しては有効な販促手段がなかった。しかし携帯電話であれば、顧客は常にこれを持ち歩いているので、確認の時間を気にせずに直接、宿泊予約を受けることができる。そこで、客室の稼動状況に応じて、空室がある場合に限り、20時から翌朝始発までの間に限定して、格安で当日予約を受け付ける当日予約プログラムを開始した(図表3)。これにより月間数件であった18時以降の空室の消化件数が、月間で100件を超えるまでになった。2001年11月からは、これに加え、ホテル内の7つのレストランでの当日予約システムが本格的に稼動し、好評を博している。
この他の携帯電話を介したインターネット・マーケティングには、顧客に向けての新規の宿泊プランの提案やプレゼント情報を掲載したメール・ニュースの月1回の配信がある。以前よりPCでも同様の配信を行っていたが、PCとの差異は反応が早いこと。メールを見た顧客がその場で予約を入れたり、《Phone to機能》で直接電話をかけるといったアクションが容易になったことから、メール・ニュース配信日のページビューは通常の日の10倍ほどになるという。顧客とのスムーズなインタラクションを実現するツールとして携帯電話が機能しているのだ。メール・ニュース配信プログラムは大変好評で、家や会社でしか見られなかった情報が携帯電話でどこででも見られるようになったことに対する“サンクス・メール”が多く届くという。
また、同ホテルでは携帯電話からのオンラインの予約の際には、最も安価な宿泊プランを提示しており、同ホテルならではの特長になっている。
顧客情報をメール・ニュース配信にも活用
携帯電話を介したインターネット・マーケティングの開始と前後して、同ホテルでは、2000年の1月からCRMを意識した会員組織を設立し、ポイント・カードを導入した。これはプリペイド方式のリライト・カードで、同ホテル内のレストランを利用する度にポイントが加算されていくもの。ポイントを蓄積すると同時に顧客の購買行動を把握することができる。同ホテルでは、こうしたポイント・カードから得られた情報や顧客の属性を基に、メール・ニュース配信の際には個々の顧客に向けたコメントや「ハッピー・バースデー」のメッセージなどを添付している。
今後は、2001年12月から開始した、似通った属性の顧客をターゲットとする企業間で相互リンクを張るといったコラボレーション的な発想での販促展開を拡大していくとともに、携帯電話に装着する(株)ネクサスのサイトスティック(アダプター)の導入などによる新規顧客の取り込みにも力を入れていく意向。また、個々の顧客情報を軸にさらなるCRMを推進していきたい考えだ。