ibm.comセールスセンターで案件を発掘
日本IBMでは、複数の部門でナレッジマネジメントを行っている。その一環として、同社とその代理店(以下、ビジネス・パートナー:BP)で商談情報をインターネットを通じて共有する、CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)システムを新たに構築した。
同社が幕張に居を構えるibm.comセールスセンターでは、インターネット・電話を活用したビジネス発掘活動を積極的に行っている。発掘した案件には、同社が単独でアプローチするケースと、BPと共同でアプローチするケースがある。
インターネットを利用した新システム「リードインフォ」
BPと共同作業を行うケースに関しては、2001年7月より、インターネットを媒介とした情報共有のための新システム「リードインフォ」を運用している。現在、「リードインフォ」を介して同社とつながりのあるBPは86社、260名に上る。「リードインフォ」登用の目的はBPへの支援。その利点として、インターネットを介したシステムであるため特別なインフラが不要であること、また、案件の発掘からアプローチまでのタイミングをリアルタイムに共有できることなどが挙げられる。
「リードインフォ」の仕組は以下のようなものだ。
前出のibm.comセールスセンターの営業は、既存顧客・見込客に、電話を中心にコンタクトを取り、会話の中から情報を集める。既存顧客に対するコンタクトにはフォローの意味合いもあるが、ここでも主な業務は案件の発掘にある。
見込客との会話が終わると、営業は見込客の属性に加えて、会話内容をほぼそのままデータとして入力。そのデータを基にビジネス案件の可能性があるものを選定するわけだ。その内、BPとの共同作業が確定したものに関しては、後述の「ノーツ」を通じ、eメールでその旨と案件に関する簡単な情報がBP候補に伝えられる。その時点でBP候補がさらに詳細な情報の閲覧を希望すると、「リードインフォ」へのアクセス権が与えられる。「リードインフォ」には、見込客の属性をはじめ、営業と見込客との会話内容、見込客が同社製品を導入している場合には、その履歴、案件を受理するか否か、同社からBPへのコメント、両者が自由に書き込める通信欄などが設置されている。そして、BPが案件を受理した場合には、業務完遂に至るまで、「リードインフォ」を通じて両者が共有する情報の更新が行われるわけだ(図表3)。また、「リードインフォ」はセキュリティーについても当然配慮がなされており、BPごとに閲覧可能な情報が制限されている。
社内の情報共有には「ノーツ」「シーベル」を使用
同社では、1995年に導入されたロータス社の「ノーツ」やシーベル社の「シーベル」を活用しており、社内でのスムースな情報共有がなされている。「ノーツ」は、eメール機能を有し、データベースを介しての情報共有や処理を行うツール。「シーベル」は複数のチャネルを介した顧客からのアクセスをまとめて管理するうえで、重要な役割を果たしている。
案件発掘から業務完遂に至るまでのプロセスは、完全に分業化されており、このような情報の共有は同社にとって欠かせないものなのだ。
「ノーツ」は、インターネットのウェブとともに「リードインフォ」を支えるツールとして、BPとのやり取りを管理している。ビジネスが継続している間には、BPとのリアルタイムな情報共有システムとして活用され、そのプロセスなどの顧客情報はシーベルに総合的に記録され、蓄積される。これにより、個人の判断でビジネスが継続している間にやり取りしたeメールを破棄してしまうことなどによる情報の消失を防ぐことができ、全社的な情報共有体制を築くことができるのだ。
ツールの使用によるノウハウを同社製品に活かす
「リードインフォ」「ノーツ」「シーベル」といったデジタル・ツール導入の恩恵としては、アナログ時代には起こりがちだった情報の伝え漏れや無駄なコンタクトなどの減少が挙げられる。また、個人の情報に依存することがなく、顧客にも偏りのない迅速な対応ができることは、スムースな業務遂行のうえで重要なファクターになっている。
特に「リードインフォ」の利点は、個人の判断に依存せず、多くの案件が入力されるので、紹介される案件の数が増大したこと。また、前述のようにインターネットを利用したツールなので、新規のサーバや回線の増設といった特別なインフラを必要とせず、BPの範囲を広げられたことは大きな収穫だという。
しかし、インターネットを利用していることは、利点であると同時に弱点にもなり得る。それはBP側が利用している回線の環境が、通常の電話回線、ISDN、ADSL、さらには光ファイバーといった具合に一様でないためだ。案件へのアプローチにはタイミングがかなり重要になるので、安定したインターネット環境の確保が望まれる。
以上のような情報共有ツールの使用から得られるさまざまなノウハウは、同社が販売するCRMやナレッジマネジメントのソリューションの開発にも反映される。さらに高性能な製品開発の意味においても、同社は今後もますますナレッジマネジメントに力を入れていく意向だ。