企業の一流通チャネルから流通業者に
「お客様のために進化する」を経営理念に、オフィス用品の通信販売を手掛けるアスクル(株)。
1993年3月に大手文具総合メーカーであるプラス(株)の一事業部としてスタートした後、1997年5月に分社独立。全国620万事業所のうちの95%を占める中小事業所を中心とする顧客に、オフィスで必要な商品を届けるトータル・オフィス・サポート・サービスを全国(沖縄・離島を除く)展開。専用のカタログ(紙媒体または、ウェブ上)で商品を選び、FAXもしくはインターネットで注文すると、当日、もしくは翌日に商品が届く。社名のアスクルは、文字通り注文した商品が「明日来る」ところに由来している。
利用登録数は全国で155万オフィス(2001年5月現在)に上り、カタログの掲載商品数も約1万2,300アイテムにまで拡大している。
同社は、企業の一流通チャネルから流通業者に事業モデルを転換したきっかけとして、「サービスには満足しているが、ほしい商品が一企業のものでは収まらない」という顧客の生の声を挙げている。つまり、エンドユーザーと直接コンタクトを取る中で、自分たちのポジショニングの再構築を迫られ、「販売代理業」から「購買代理業」として顧客の声を実現するべく分社が行われたわけだ。
インターネットで企業の諸事情をサポート
顧客の生の声をヒントに「購買代理業」へとポジショニングを変えた同社では、次の展開として「より顧客の側に立った企業」になるべく、問い合わせセンターの設立、後述するコミュニティーの形成を推し進めた。
インターネットの普及は同社にも良い意味の変化をもたらしている。それは、今までのカタログ → FAXという購買の流れに比べ、オンラインを介しての注文は、顧客と触れ合う時間を圧倒的に増大させたということだ。FAXでの注文は、FAX用紙にほしい商品を記入した上で送信すると、商品が届くというシンプルなものだが、実際に商品を購入する際には、企業により、予算、上司の承認等さまざまな事情が絡んでくる。そこで同社では、インターネットにより、このような諸事情をサポートできる仕組み作りを行っている。
たとえばインターネットを通じて予算を登録しておけば、購入金額がその予算を超えそうな場合には、アラームが表示されると同時に、登録した予算と購入金額との対比が記載されたeメールが、発注担当者とその上司に発信される、また、経費処理の際に必要となる会計データをダウンロードできる仕組みもある。
同社では、これらのようなサービス・メニューを提供できることが、インターネットの利点であると考えている。
「アスクル ワンストップ・ショッピング・ページ」
http://club.askul.co.jp/cgi-bin/ncommerce3/ExecMacro/main.d2w/report
流通の川上・川下はもはやない
かつては当たり前と思われていた、メーカー → 流通チャネル → エンド・ユーザーという流通の川上・川下はもはや存在しないというのが同社の考え。インターネットの進展により、今ではエンド・ユーザーの方が、メーカーや流通チャネルよりも豊富な情報をもっていることも少なくない。これにより同社では、今までの「企業対顧客」という図式を「顧客にすべてを決めてもらい、企業がその場を提供する」ものにシフトすることこそが、物販業として生き残る施策であるとしている。
同社では、品揃え、価格の引き下げやサービスは、他社でもほぼ同様なことが実現できるので、いかに顧客から自社の支持を得、信頼されるかという部分こそが最も重要であると考えている。また、顧客が自社から製品を購入するということは、ある意味顧客が企業に「投資している」ことなのだという認識のもと、顧客の信頼を得るために、電話応対、eメールのやり取り等ひとつひとつの細かい顧客との接点において、同社の企業理念を伝えるように努力を重ねている。さらに具体的には、インターネット上に顧客同志の「知恵の交換所」とも言うべき“コミュニティ”を形成し、“企業を超えたナレッジ・マネジメント”の実現をサポートしている。これは、さまざまな場面において困ったこと、わからないことを同社の顧客同士が掲示板上で教え合うというもの。さらにはコミュニティ・マガジン『dreamers』の定期的な発刊により、同社への共感・支持を集める工夫をしている。また前記のコミュニティには“物販版”もあり、さまざまなシチュエーションにおいて必要なものを顧客同士が教え合う「こと検索コーナー」が用意されている。
中間流通業者の役割の変化
インターネットの出現により、メーカーからエンド・ユーザーへの商品の直販が活発化しており、今後は中間業者の存在が従来とは変わってくると言われているが、同社では、中間業者の役割が、単にメーカーから卸された商品を売るのではなく、繊維業、食品業といった“業種”の枠を取り払って、顧客のニーズに合ったものを提供するという方向にシフトしてきているという見解だ。少数の先進的なエンド・ユーザーは、インターネット等を駆使して自分が必要とする情報を収集し、メーカーの直販を利用することもできるだろうが、皆が皆物理的、時間的にそれができるわけではない。そこで同社では、自らがカバーする“オフィス”というシーンに限らず、顧客が必要とするさまざまなシーンにおいてワン・ストップ・サービスを提供する新しい業態の中間流通業者が増えてくるものと見ている。
同社では今後、日々行っているサービスひとつひとつの品質を徹底的に向上させることをベースに、流通業者として、さらなる顧客の信頼獲得に邁進する意向だ。
ウェブ連動マガジン『dreamers』(写真左)/(写真右)CD-ROM『dreamers』