顧客とともに製品開発 貴重なテストマーケティングの場

コクヨ(株)

双方向コミュニケーションでニーズにあった製品を開発

 1995年という非常に早い時期から、自社ホームページを立ち上げているコクヨ(株)。当初は社長直轄のプロジェクトとして立ち上げ、その後はPR部主導で企業PRの場として活用していたが、Eコマースなどの浸透とともに、ホームページの機能も発展。同社でも重要なマーケティング戦略として位置づけ、各事業部が個別にコンテンツを企画するなど内容を充実。2000年12月から、ホームページをマーケティング部の管轄とし、現在は全社的な運営に取り組んでいる。
 そうした中でも今回注目したいのは、OA関係商品を扱うOAサプライズ事業部が、99年2月にスタートしたオリジナルサイト、「さぷらいふ」である。ここでは、顧客との双方向コミュニケーションにより、顧客の声に基づいた製品開発・販売を実現しているのだ。
 サイト立ち上げの直接のきっかけは、同事業部の製品が、たとえばパソコンラックなど、言わば“周辺製品”であったこと。これらはリアル店舗でも店頭に置かれることは稀であり、顧客に効果的にPRすることが難しい。また同社はメーカーであるゆえ各事業部は営業部門をもたない。新製品を開発したところで、事業部から直接顧客に製品情報を届ける術もなかったのだ。
 そこでホームページを利用し、同事業部の製品を広く告知。さらに売り上げ拡大を狙い、製品開発に顧客の意見を取り入れることを考えたわけである。

コクヨHP-1

http://www.sapulife.com/

顧客の要望に応えられるテストマーケティングの場を構築

 「さぷらいふ」は、製品情報などを提供する『コンテンツ』、実際に製品をネット上で販売する『コマース』、顧客の意見交換の場を提供する『コミュニティ』という3つの「C」を軸としている。
 立ち上げ当初から顧客の反応は上々。オープンまもなく、OA製品に対する要望を聞くキャンペーン仕立てのアンケートを実施したところ、1カ月で実に約1万5,000件もの回答が殺到した。しかもアンケートは記述式であったが、ネットの手軽さが奏効してか全応募の約8割が内容の濃い意見。中でも「デスク上の整理・収納」に関する要望が多かったことから、同事業部ではこれらの要望に基づく製品開発に踏み切った。
 それが写真1の「ノートパソコンシェルフ」である。収納量に応じて調節可能な可変式ブックエンドを設けるなど、要望に基づき高い利便性を確保した結果、99年秋の発売後、大好評を博した。

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【写真1】「ノートパソコンシェルフ」。顧客の要望を聞き入れることで優れた商品が完成した。

 また、製品について意見を募る掲示板「さぷらいふ横町」も設けた結果、ひとつの発見がもたらされた。さまざまな商品に関して、「良い商品だが、自分は買わない」という意見も多く聞かれたのである。つまり、「良い」という評価が必ずしも売り上げにはつながらないことが分かったのだ。
 そこで同事業部では、2000年1月「さぷらいふ一番出しSHOP」というコンテンツをオープン。製品をテスト的に限定販売して顧客の感想・意見を募集し、製品に反映。高評価を得るだけでなく、売り上げにつながる製品を開発するための、テストマーケティングの場としてこれを位置づけたのである。

顧客が自由に「言」える、「聞」ける

 現在の「さぷらいふ」はこの「さぷらいふ一番出しSHOP」が軸となっている。最大の特徴は、ページ上で紹介するひとつひとつの製品に、「見る」「聞く」「言う」といったボタンを設けている点である。
 「見る」ボタンをクリックすると、部分アップの写真とともに、製品について詳細を説明する画面を表示。「聞く」ボタンは、その製品について顧客から寄せられた意見・感想が読めるもの。そして「言う」ボタンは、製品について自分の意見を投稿できるというものだ。「買う」ボタンも設けており、実際にネット上で購入することもできる。つまり顧客は、製品のスペックや他の顧客の感想を吟味した上で購入できるほか、実際に使った感想の投稿もできる仕組みだ。
 一方、同事業部では、「言う」ボタンによって集まった意見を製品に反映。好評を得たものは、改良した上で再び限定販売し、再販後も顧客の反応が良かったもののみ既製品化するわけだ。
 既製品化の事例として、ノートパソコンラック「快ラック」クリアータイプがある(写真2)。これはパソコンを使わないときは立てかけておけるほか、キャスター付でパソコンの机上の移動がラクになるという製品。テスト的に限定発売したところ、機能性が評価されて売れはしたが、製品の色に関する意見・要望が多かった。そこで流行のスケルトンカラーを用意した結果、全数売り切れという大好評を博し、既製品化に至っている。

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【写真2】「ライフスタイルに合うデザイン」を考慮し、スケルトンカラーを採用した「快ラック」クリアータイプ。

 こうした結果、前述の「良いという評価が必ずしも販売につながらない」理由のひとつとして、「機能面は良いが、顧客のライフスタイルにあった商品提案ができていなかった」という、業務用製品が約8割を占める同社ならではの弱点が判明した。「一番出しSHOP」によって、貴重なマーケティング・データを得られたわけである。
 製品に関心がある人同士で意見交換が行えるコミュニティを提供すると同時に、同社にとっても貴重なテストマーケティングの場となるこのサイト。現在は月間のトップページビューが約40万を記録するほどの人気を誇っている。

顧客とともに製品を開発するアンテナショップ

 同事業部ではこの「一番出しSHOP」の成功を受けて、2000年9月、「さぷらいふ」のコンテンツを充実。「一番出しSHOP」で実際に製品を購入した人の自宅、あるいは会社を訪問取材。実際に使用している写真とともに、その使い勝手、感想を紹介する「となりのさぷらいふ」を追加した。また「一番出しSHOP」の常連顧客の中から20名のメンバーを募り、Web上で議論を展開。そこでの意見を考慮した製品開発を行う顧客参加型商品協議会「さぷらいふ研究会」も設置。さらに2000年10月には、新製品を中心とした約200品番と、それ以外の1,500品番を網羅したWeb上のカタログ「さぷらいふカタログ」もオープン。品名、品番はもちろん、製品のシリーズ名、キーワードという4つの切り口で検索可能と高い利便性を確保し、製品のPR効果を狙った。さらに、「一番出しSHOP」の製品だけではなく、既製品も対象に顧客の意見を集め、積極的に製品改良につなげていくことも検討中だ。
「お客様の声には我々が見落としがちな発見が多々あります。『さぷらいふ』のドメイン名にあえてkokuyoのブランド名を入れていないのも、サイトの目的が製品を売ることではなく、商品開発力を強化することにあるためです。メーカーとしてのEコマースサイトではなく、あくまでお客様とともに製品を開発するアンテナショップ、マーケティングサイトという位置づけです」(OAサプライズ事業部 上田敬人氏)
 今後は顧客の意見を製品開発に反映するスピードをさらにアップ。また収集・蓄積した意見のデータマイニングを本格的に実施。より迅速に、きめ細かに顧客の本音をつかみ、あらゆるニーズにタイムリーに応える製品を提供していく考えだ。

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「一番出しSHOP」では、各製品に「言う」「聞く」などのボタンを設置している。


月刊『アイ・エム・プレス』2001年3月号の記事