本音をつかんだきめ細かなソリューション提供が満足度、ロイヤルティを高める

中外製薬(株)

ネット上のアンケートで双方向コミュニケーションを実現

 栄養ドリンクのグロンサン、肩こり等に効く消炎鎮痛剤のゼノールなど、幅広く商品を提供する中外製薬(株)。1997年4月より自社ホームページをスタートし、商品情報をはじめ、IR情報、医療関係者向けの情報など豊富なコンテンツを揃え、トップページビューは1日当たり約4,000件を数える。
 その中でも、現在力を入れているのが商品情報。というのも、医薬品は正しい使用法に基づいてこそ本来の価値・効能を発揮するもの。かつ、突然ニーズが発生するものである以上、顧客が必要なときに必要な情報を得るためには、日頃からきめ細かく情報提供を行う必要があるのだ。
 しかし、いかにサイトを充実させても、まず多くの顧客に見てもらえることが大前提。そして何より、単に情報を発信するのではなく、顧客の意見や疑問に応える情報であってこそ、真に価値あるものとなる。
 そこで同社ではメディアミックスを重視し、CM、雑誌などでホームページ・アドレスを広く告知。さらに1999年7月より、回答者に特典を約束する「アンケートde GET」というコンテンツを追加した。集客を図ると同時に顧客の意見に応える情報提供を行うことで、双方向コミュニケーションのしくみを構築したのである。

ネットが飛躍的に回答数と収集スピードを高めた

 同社商品や広告について質問する「アンケートde GET」は、誰でも応募可能。新商品の発売時をはじめ、栄養ドリンク剤なら疲労がたまりがちな夏場に、といったように、店頭プロモーションのタイミングと合わせて実施している。回答をデータベース化して商品開発に反映させるのは言うまでもないが、ネット上でのアンケートは、それ以外にも2つの大きなメリットをもたらした。
 ひとつはきめ細かな情報の提供。たとえば商品の中には、特定の顧客をターゲットとするものもある。より効果的な情報提供のためには、訴求ターゲットの絞り込みもポイントとなるが、従来のマスメディアではこれにも限界があった。しかしネット上でのアンケートは、顧客の属性に適した情報を、ひとりひとりにEメールで返信することを可能にした。つまりCMなど従来のマスメディアだけでは伝えきれなかった情報を、より的確な顧客に、より詳しく提供することを実現したのだ。
 2つめは、ネットならではの手軽さが回答数と収集スピードを飛躍的に高めたこと。たとえば99年12月に実施した20代の女性をターゲットとしたスキンケア商品のアンケートでは、3週間弱で応募件数は実に4,438件。1日で約1,700件の応募に達した実績もある。さらにインターネットは返信ハガキ代なども発生しないため、コストは実に従来の10分の1ほどにまで抑えられた。
 アンケートに対する顧客の反応も上々。同社では、メンバーになるとアンケート実施情報、健康に関する有益な情報を満載したEメールを無料配信する「中外ネットメンバー」も募っているが、1月5日現在で会員数は1万7,000名を数えているほどだ。
 一方で同社は、アンケートの応募者にEメールだけではなくDMも送付。さらに健康関連の生活情報、ファッション情報などを楽しくまとめた小冊子も送付している。バーチャルなものだけではなく、実際に手にとれるものを届けることで、顧客の特別感を高め、インターネットに欠落しがちなヒューマンな要素を補っているのである。

中外製薬の自社ホームページ(http://www.chugai-pharm.co.jp)。「ヘルスケア関連情報」をクリックすると下の画面に飛ぶ

中外製薬の自社ホームページ(http://www.chugai-pharm.co.jp)。
「ヘルスケア関連情報」をクリックすると下の画面に飛ぶ

「ヘルスケア関連情報」のページでは、きめ細かな商品情報をはじめ、「肩こりのお話」などのコラム、TV-CM紹介など楽しい企画も

「ヘルスケア関連情報」のページでは、きめ細かな商品情報をはじめ、
「肩こりのお話」などのコラム、TV-CM紹介など楽しい企画も

「アンケートdeGET」は、人気コンテンツのひとつ。魅力的な特典がある上、応募も手軽とあって、多数の回答が集まる

「アンケートdeGET」は、人気コンテンツのひとつ。魅力的な特典がある上、
応募も手軽とあって、多数の回答が集まる

「ひとびと・net」で“今”のニーズを把握

 以上のように、「アンケートdeGET」を通して、ニーズ収集・情報提供を行っている同社。しかしスポット的なアンケートのみでは、タイムリーなニーズ把握にも限界がある。また、得てして顧客の本音は、B to Cではなく、C to Cの会話の中で聞かれるものだ。同社はこの点も考慮し、2000年5月より、(株)ドゥ・ハウスが開発、運営する一般のコミュニティサイト「ひとびと・net」の利用を開始した。
 「ひとびと・net」とは、『コンピュータ』、『旅行』など全18ジャンルを揃えたネット上の意見交換の場。「ナビ」と呼ばれる、特定の分野に詳しい知識をもつ利用者は、自分のページをもって記事を発表。利用者同士が興味のあるページ上で、掲示板方式により自由に意見交換できるというものだ。
 同社は、『健康&リラクゼーション』ジャンルにおいて、「肩こりお悩みフォーラム」というページのスポンサーに。さらに、「ナビ」に社内の人間ではなく、(株)ドゥ・ハウスと契約する一般の主婦を起用。彼女に同社商品などの情報を提供して、自分の視点で記事に反映してもらった。つまり同社が直接には関らないことで、営業臭を抑えた、かつ顧客視点の、純粋な「おしゃべりの場」を提供しているのだ。
 この試みは同社の商品開発上、大きな成果を上げることとなった。まずホームページ上での意見交換であるゆえ、それらはほぼリアルタイムの顧客の声。顧客が同社商品に対して、どのような感想をもっているのか、また健康一般に対して何を求めているのか、正に“今”のニーズを発見できるのである。
 また、製薬会社である同社が、たとえば「肩こりを治したい」というニーズに応えようとすると、当然ながら肩こりに効く新製薬開発に考えが集約される。しかし顧客にとって、肩こりとは必ずしも薬で治すものではない。温泉につかる、マッサージを受ける、などの解消法もあるだろう。実際「ひとびと・net」では、そんなさまざまな意見が発言される。結果、同社は肩こりを治したい、というテーマから、肩こり解消薬だけではなく、たとえば入浴剤の開発など、新たな商品開発のヒントまで得られるのである。

健康分野のワン・ストップ・ソリューション提供を目指す

 2000年11月からは、子育て等の意見交換を行う『子供』ジャンルにおいても、ページのスポンサーとなった。こちらでは「ナビ」に、同社が自ら発掘した一般の主婦を起用。彼女は子育てに関する自分のホームページをもつほどであるゆえ、ページを主催する熱意も強い。しかも自分の子育て体験をもとにした記事や意見である分、そのリアルさが利用者の共感を呼び、より活発な意見交換が行われているという。ちなみに、このページビューは3週間で約3,000。子供用風邪薬「アルペン」のバナー広告も貼っているが、クリック率2%と好調な数字を記録している。
 「『アンケートde GET』、『ひとびと・net』は、健康や薬に対する有益な情報の提供と、“今”の顧客ニーズをつかむ上で大いに役立っています。特に『ひとびと・net』は、弊社商品への関心を日常的に高めるばかりか、顧客にとって貴重な情報源となっています。もちろん、弊社がスポンサーにとどまる以上、他社商品の話題も出ますし、話題は薬だけではありません。しかし、そうした“情報交換の場”を提供して顧客の本音を聞き取り、それをもとに弊社商品を選んでいただける競争力をつけてこそ、顧客の満足度を高め、結果としてロイヤルティをアップさせることにつながるのではないでしょうか」(ヘルスケア営業部 商品第四グループ長 副課長 小嶋慎也氏)
 アンケートや「ひとびと・net」で、健康に対するあらゆるニーズを聞くことは、商品開発だけではなく、健康分野の新たなビジネスの可能性も提案してくれる。将来的には“製薬会社”の枠を越えて、“健康分野のワン・ストップ・ソリューション”提供を目指す同社は、今後、自社ホームページと「ひとびと・net」をより密接にリンク。あらゆるニーズに真摯に耳を傾けていく考えだ。

(株)ドゥ・ハウスが開発・運営する一般のコミュニティサイト「ひとびと・net」(http://www.hitobito.net)。全18ジャンルのテーマを揃える

(株)ドゥ・ハウスが開発・運営する一般のコミュニティサイト「ひとびと・net」(http://www.hitobito.net)。全18ジャンルのテーマを揃える

中外製薬がスポンサーとなっている「肩こりお悩みフォーラム」。一般の主婦が生活者視点で、記事を紹介

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メーリングリストを使った「みんなで話そう!ワイワイ会議」では、肩こりに関するさまざまな意見が

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月刊『アイ・エム・プレス』2001年2月号の記事