統合型インターネット・サービス 「mol」を開設、 6月より無料サービスを開始

(株)ミスミ

精密機器部品の顧客のインターネット環境を整備

 精密機器部品などの企画販売を手掛ける株式会社ミスミは1963年に設立。当初は訪問による営業活動を続けていたが、1977年からカタログによる通信販売を開始し、購買代理商社を事業コンセプトとした生産財のB to Bダイレクトマーケティングの専業会社に成長した。現在は、精密機器部品以外にもDTP、メデイカル、食材関連の新規領域にまで事業を拡大。2000年3月期の売上高は、428億円、経常利益は50億円となった。売上高に占める精密機器部品の構成比は88.8%となっている。
 今年6月からはインターネットを利用した統合型インターネットサービス「mol (ミスミオンライン)」を開始。7月末まではお試し期間として無料サービスを実施し、8月から有料化に踏み切る。
 「mol」は、精密機器部品の顧客向けにインターネット環境の底上げ、業界特化型の情報コンテンツの提供、EC顧客機能代行の3つを目的としたポータルサイト。従来のEコマースは、物やサービスのインターネット上での販売にとどまっていたが、同社はニフティとの提携によりプロパイダ事業も手掛けることで、潜在顧客を開拓し、底辺からEコマースを推進。当初は情報コンテンツに設計、購買、検査、品質管理機能などを揃えて、ウェブ利用の誘引につなげていく。
 情報コンテンツには、無料サービスとして業界ニュースや全国の景気概要、展示会、セミナー情報などを設けた。設計の際に使う技術計算のテンプレートや、金型のカリスマ職人のコラム、金型用語集、金型のしくみなどの技術情報については有料で提供する。なお、ニフティと接続サポートに関して提携しているため、ニフティのコンテンツも利用できる。
 また、ASP(アプリケーション・サービス・プロパイダ)としてホームページの製作をはじめとする、給与計算、住所録、スケジュール、振込みなどのサービスも予定している。

ミスミのホームページ画面
(URL : http://www.misumi.co.jp/

ミスミのホームページ画面 (URL : http://www.misumi.co.jp/

ミスミ流のインターネット・ビジネスを構築

 「mol」 は、ミスミ流のインターネット・ビジネスを構築するという発想から生まれた。現在、日本のEコマースには、B to Cのショッピングモールをはじめさまざまな形態が存在するが、ビジネスとして成立しているのは氷山の一角に過ぎない。ただ単にサイトを開いて販売するという従来のEコマースの発想では、ビジネスとして成り立たないというのが、同社の考え。インターネットの普及率が低いことを考えれば、顧客のインターネット環境を整備することが優先される。そこに目をつけてプロパイダ事業に参入することを決めたという。
現在、「mol」の本格展開に先がけて、同社では市場調査などにより、顧客のニーズを探っているところ。顧客はまだ同社が単なる精密機器部品の販売会社という認識に過ぎないが、調査結果をもとに顧客がEコマースに何を求めているのかを想像することはできる。
 たとえば、現状ではインターネットを通して、FA (ファクトリー・オートメーション)用の技術用語を検索しようとしても、最低20サイトは閲覧しなければならない。また、物販についても同じように20社近くから調達しなければ必要な商品が揃わないという。このように、インターネットの環境が整備されていても、Eコマースを利用するうえで不都合な点は少なくない。これは各社が企業の視点に立った販売代理の立場でサイトの運営を続けているため。顧客の視点に立った購買代理の立場からEコマースを推進すれば、ひとつのサイトを見てサインアップするだけで必要な商品がすべて揃うといった具合に、顧客の利便を向上することができる。

MOLの概要

タイムリーな新商品紹介が、インターネットのメリット

 インターネットは企業の購買にさまざまなメリットをもたらしてくれる。たとえばカタログの場合、2年に1度の更新を待たなければ、新商品を掲載することはできないが、インターネットならタイムリーに商品をアップデイトすることができる。また、通信を使って図面などのやりとりが可能になるため、将来的には「mol」のオンライン上で、エンドユーザーの要望に応じ、金型の特注品を顧客とメーカーが共同開発することもできる。次のステップとしては特注品を標準化し、さらに改良を加えて安く提供することも可能だ。
 「mol」の情報コンテンツは、自由に利用できるもの、一回の利用料金が決まっているもの、会員のみが利用できるものに分かれる。正式な料金体系は6月中句に決定するが、タイプは①インターネットの接続と情報コンテンツの双方が利用できる会員と②情報コンテンツの利用のみの会員の2種類となる。お試し期間中は接続料、コンテンツ利用とも無料でサービスを提供する。同社では、DMやチラシなどのオフラインと、オンラインの双方で会員を募集2001年3月までに会員数2万人、年商1億5,000万円を達成する意向だ。
 顧客のサポート体制は、インターネットの接続については、ニフティの窓口を利用するが、その他のサービスについては同社が担当する。同社サイトでのサポート体制については、問い合わせの件数に応じて専用コールセンターなどの開設の必要性を検討するが、当面はプロジェクトチーム内で対応していく。

年内にはDTP業界向けの情報ポータルも開設

 また、同社ではDTP業界向けの情報ポータルも年内には立ち上げる。精密機器用のサイトと基本的な構成は同じだが、業界ごとにコンテンツが異なるのはもちろん、設計エンジニアとデザイナーとでは志向が違うため、別のアプローチを採用する。なお、同社のその他の事業分野である医療や外食産業向けのサイトの構築についても検討中である。
 現在、同社の取引先9万社(多くは社員数12~15人の中小企業)のうち、精密機器部品の顧客は5万社と全体の半数以上を占める。同社では今後、DTPや医療、外食産業向けにもサイトを拡大していく中で、その潜在顧客は100万人以上に達すると予測している。しかし、このうちインターネット環境が整備されているのはわずか30%に過ぎない。そこでインターネット環境そのものの提供から関与することで、現在インターネット環境が未整備な70%の顧客をターゲットとして取り込んでいく。さらに、将来的には情報ポータルサイトにおいて、精密機器部品関連の仕事を斡旋するため、ネット上に広場を設けることも考えているという。
 今後の展開について同社取締役の猪熊洋文氏は、「基本的にメインはカタログによる販売ですが、2~3年後には、インターネットを利用しての注文が、約30%になると予測しています。将来的には携帯電話からの受発注も可能になりますし、ビジネスの幅はさらに広がるでしょう」と「mol」の将来性に期待している。


月刊『アイ・エム・プレス』2000年7月号の記事