理由を問わず返品・交換に対応
日本ランズエンド(株)は、米国最大手の通販企業「ランズエンド インク」の100%子会社として1993年10月に設立された。親会社のランズエンド インクは1963年に設立。セーリング・ボート関連器具のカタログ通販から出発し、今では紳士・婦人・子供用のカジュアルウェア、アクセサリー、靴、布製カバン、寝具、トイレタリーなどをカタログとウェブサイトで扱う。1980年代に急成長を遂げ、1998年の売上高は13億7,100万米ドルに上る。イギリス、日本、ドイツに設けた現地法人を拠点に、世界規模の販売を展開している。
米国法人が発行しているカタログは6種類。毎月発行している「コア・カタログ」のほか、「スペシャリティ・カタログ」として、シーツやタオルを扱う「カミング・ホーム」、子供向けの「キッズ」、男性のテーラード物を扱う「ビヨンド・ボタンダウン」、女性のテーラード物を扱う「ファースト・パーソン・シンギュラー」、会社のロゴなどを刺繍をするサービス「コーポレート・セールス・カタログ」を発行。1998年の年間総発行数は2億5,900万冊(海外拠点を含む)に上る。
また、生産から販売までの一体化・効率化により、高品質・低価格の商品を提供することを企業理念のひとつとして掲げる同社では、原料調達と製造はアウトソーシングしているが、商品のデザインや品質検査は自社内で行っている。
日本ランズエンド(株)では1994年8月に第1号カタログを発行。主力商品である紳士・婦人用のアメリカン・カジュアル・ウェアを紹介するカタログを年8回、子供用商品を紹介するリーフレットを季節ごとに発行している。
通販では返品に応じる条件が細かく設けられている場合が多いが、同社は企業理念として、いつでも、どんな理由でも返品・交換に応じるという原則「GUARANTEED.PERIOD.」を営業開始時から掲げる。また「caring」(お客様のどんなニーズに対してもていねいに応じる)というポリシーの下、きめ細かなサポートと顧客満足度を高めるサービスをネット上でも提供できるよう心がけている。
同社が提供するサービスは豊富だ。無料で裾上げをする「へミング・サービス」、名前やイニシャルをアルファベットで入れる「モノグラミング・サービス」、Tシャツやポロシャツ、コットンセーターなどにランズエンドのロゴなどを刺繍する「刺繍サービス」など豊富なサービスを提供している。
また「ロゴマーク刺繍サービス」では、同社商品のユニフォームやタオルなどに顧客が希望するチームやクラブなどのロゴマークを有料で刺繍。同一種類であれば6枚から受注する。個人対象にスタートしたが、その後サービス対象を法人顧客にも広げた。
このほか、1999年8月に始めた「スペシャリティ・ショッパーズ」は、買物での顧客の悩みや不明点について、トレーニングを受けた専任スタッフがアドバイスするOne to Oneの顧客サービス。生地見本の無料郵送、商品の手入れ法やサイズの選び方の案内、さらには顧客の希望や予算に応じたギフトの最適な選択の提案で、顧客満足度の向上を図っている。カタログ掲載商品、顧客自前の商品を問わず、色やデザインなどあらゆる角度から顧客に合ったトータルなコーディネートの提案も行っている。
画面を見ながら会話も可能
同社では1998年1月にサイトを開設。インターネットでは印刷媒体と異なり、在庫が稀少な商品を掲載できると同時に、ページ数の制限がないことから、季節もの以外の商品も紹介できるという利点がある。当初は会社案内、定番商品の紹介、カタログ請求の受け付けなどに限られていたが、徐々にコンテンツを充実させ、同年5月のネット通販コーナー「ランズエンド・ストア」開設と同時にサイトでの受注を始めた。サイトへの掲載商品は常時400アイテム以上。人気商品はタートルネック・セーター、冬はフード付きアウターウェアやポーラーテックのジャケット。カタログでの売れ筋であるボタンダウンシャツ、ジャケットなどの中核商品はネットでも好評だ。
同年6月には、在庫商品を安価で販売する「クリアランス」を開始。また1999年1月からは、顧客のニーズをより迅速に反映させるため、更新を週1回行うようにした。
1999年10月21日にはサイトを一新。それまでカタログの表紙や各号の特徴のみの紹介にとどまっていたサイトを拡充し、更新頻度を週1回にした。また、電話やチャットで質問や要望を受け付けるサービス「ランズエンド・ライブ」、2人がサイトに同時にアクセスし、電話で友人と会話しながら買物を楽しむことができるサービス「ショップ・ウィズ・フレンズ」を始めた。前者は、インターネットの接続回線のほかに電話回線や携帯電話をもっていれば、ネット上の画面を見ながら同社のオペレーターと会話できるというもの。後者は同社独自のサービスで、ひとつのキーワードを2人が共有することで一括支払いもできる。お薦め商品をEメールで紹介する「ランズエンド・ニュース」の創刊も予定している。
集客については、「アフィリエイト・ネットワーク」というシステムを導入。これは、同社のサイトとリンクしたサイトから来た顧客が商品を買うと、そのサイトの運営会社に売り上げの5%を払うというものだ。こうしたネット上の顧客獲得活動に米国ほど積極的ではない日本では、先進的な取り組みである。
電話受け付けは正月三が日を除く毎日7〜24時。「カスタマー・サービス・レプリゼンタティブ(CSR)」と呼ばれる250〜300人のオペレーターが担当している。CSRは最初に80時間以上の研修を受け、企業理念や商品知識、システムの使い方などを徹底的に教え込まれる。その後も新商品発売やシステム更新のたびに受ける「リフレッシュ・トレーニング」で新しい知識を習得することにより、多様な顧客ニーズへの的確な対応をめざしている。
商品は静岡県藤枝市にある約2000坪の配送センターから全国に届けられる。発送は日米ともに受注後24時間以内。モノグラミング・サービスやへミング・サービスなど特別サービスが付く場合はさらに24時間が加算される。商品到着は受注後1週間以内。ただし、北海道など遠隔地の場合は1日遅くなる。1999年5月からは、無料配達時間を9—12時、12—18時、18—21時の3つの時間帯から選べるようにした。支払いには8種類のクレジットカード、郵便振替、銀行振込が利用できる。
日本ランズエンドのホームページ
ネット通販の動向は静観
サイトへのアクセス数は1999年1年間で日独英合わせて1,500万。米国法人へのEメールでの問い合わせは1999年5〜7月に1日平均700通、1999年1年間では1日平均200通に達し、1996年に届いた郵送メール数を超えた。返信の大半はCSRと呼ばれる専門知識をもつフルタイム従業員が24時間以内に手作業で行っているという。
米国のネット販売での購買顧客層は35〜45歳(カタログ販売では35〜54歳)。以前は男性が多かったが、最近は女性も増えてきている。学歴や世帯収入はネット販売のほうが高い。また、パソコン所有率は50%程度。
米国法人がサイトを立ち上げた1995年7月以降、徐々に売り上げを伸ばし、1998年度(1997年2月〜1998年1月)で6,100万ドルと前年度の1,800万ドルの約3.5倍に急増。全米小売業協会の発表では、1998年のネット通販での売上高は米国1位だ。米国法人の売上高に占めるネット販売の構成比は1999年度で4.6%。2000年度には10%に達すると予測している。1人当たりの平均注文額は100〜105米ドル。カタログ販売、ネット販売ともに、これまでシンプルなカジュアル・ウェアを定番商品としてきた同社は、今年からマーチャンダイジングを一新させ、「成熟した大人のためのスマート・カジュアル」としてのブランド・イメージの確立を図る。3月に発表する2000年春夏ものから、流行を取り入れた細身のデザインを増やしている。
同社では日本のネット通販市場の成長を確信しているが、現状では米国に比べて不透明な要素が多いため、その動向を静観する姿勢をとる。「顧客のために何ができるか、どんなサービスを提供すれば顧客がショッピングしやすくなるのかを考えることが当社の使命であり、それをウェブ上でも具体化していきたい」(高橋佐和子・クリエイティブ本部PR広告担当アシスタントマネージャー)。
顧客の満足を第一に考える「カスタマー・ファースト」のポリシーの下、同社はさらなるサービスの充実を図っていく意向だ。
日本ランズエンドの新春号カタログ