釣り具メーカーのモニター店として創業
大阪・城東区の(株)ナチュラムは、この2月に設立されて間もないフィッシング&アウトドア用品小売業。大阪の近隣商業地区、今福鶴見駅前に位置する総売り場面積約300坪の大型店「ナチュラム」に加え、オンライン上に「ナチュラム インターネットショップ」を構える。
同社は設立36年目を迎える釣り具メーカー、(株)ナカジマの小売部門として1990年に創業。親会社であるナカジマでは、これに先駆けてエンド・ユーザーの情報収集を目的に釣り具店を構えていたが、1990年にはフィッシングをはじめ、4つの商品カテゴリーから構成される「ナチュラム」をオープン。さらに1993年には、これを現在のフィッシング&アウトドア用品専門店へとリニューアルした。その後1996年5月には「ナチュラム インターネットショップ」がオープン。これらの小売部門は、すでにグループの総売上高の40%を担うまでに成長している。
中でも「ナチュラム インターネットショップ」は1996年に開店して以来、4年間の試行錯誤を経て、今日では月次ベースで店舗を上回る売上高を達成している。「昨年の暮れには、ついにインターネットが店舗の売上高を抜きました。この1月にもそれは続いており、恐らく、再び逆転することはあり得ないと踏んでいます」と語るのは、親会社の小売部門を統括しつつ、自らWEBマスターとして手探りでインターネットショップを構築してきた中島成浩氏。氏は(株)ナカジマ 代表取締役社長 中島一成氏の子息であり、(株)ナチュラムの設立と同時に初代代表取締役社長に就任した。
「ナチュラム インターネットショップ」の概要
「ナチュラム インターネットショップ」は、フィッシング&アウトドア用品のオンライン・カタログに加え、店舗案内、個人売買掲示板「売ります! 買います!」、フォーラム、チャット、メーリング・リスト案内、各種アウトドア情報などのコーナーから構成されている。
オンライン・カタログでは、「ナチュラム」店頭での取扱商品約2万アイテム中、売れ筋を中心に約6,500アイテムを品揃え。希望の商品を検索すると検索結果が一覧表形式で表示され、希望の商品をクリックして商品情報と写真を表示する仕組み。
商品の購入に当たっては、希望の商品を選択してショッピング・バスケットに入れて支払方法を選択、さらに、注文フォームに住所・氏名など必要事項を記入の上で送信すればOK。受注後、24時間以内に、受注内容と併せてお届け予定日を明記した受注確認メールが送信される。
商品の配達は注文の1〜2日後。オンラインによる配送状況の確認もできる。送料は購入金額1万円未満の場合に限り有料で、一律500円。また代金の支払いには、コンビニ払い、郵便振替(以上、後払い)、銀行振込(前払い)、代金引換、クレジットカード(初回のみカード情報をFAX送信)に加え、オンライン・ショッピングならではのSMASH、アコシス、IPPON、Hi-Ho CHECK、iREGiなどが利用できる。
「ナチュラム インターネットショップ」のシステム構成は、図表1の通り。ウェブ・サーバは国内プロバイダーのレンタル・サーバ、回線はNTTコミュニケーションズ(株)のOCNを利用しており、運用コストは前者が1万9,000円/月、後者が3万2,800円/月。運用人員は、ウェブ・マスターのもと、受注や更新を担う専任スタッフが2名。在庫から梱包・出荷に至るまでの業務は、店舗のスタッフが兼務することにより、固定費を押さえている。
顧客サービスについては、「受注確認メール」など定型的な部分のみ自動化しており、それ以外のメールによる問い合わせなどについては、専任担当者と店舗スタッフが連動して24時間以内に返信。返信の必要なメールでの問い合わせは、1日に約20件といったところ。なお、電話での問い合わせには店舗スタッフが対応している。
「ナチュラム インターネットショップ」のトップページ(URL:http://www.naturum.co.jp)
顧客の声に応えてサービスを拡充
4年目に入った「ナチュラム インターネットショップ」だが、今日に至るまでの道のりは、まさに手探りの連続だった。
1996年5月の開店時には、中島氏が個人で契約していたプロバイダーのサービスを利用していたが、同年11月にはオリジナル・トップ・ドメインを取得すると同時に、現在のレンタル・サーバに移行。さらに、検索機能をもった商品データベースと連動させることで、現在の「ナチュラム インターネットショップ」の原型を完成させた。その後、1998年3月には、「在庫の有無を確認したい」という顧客の要望に応えてPOSとの連動を図り、ウェブ上への在庫数の表示を実現。さらに1999年3月には、それまでの「待ち」のビジネスから、より戦略的な「攻め」のビジネスへとウェブの運営方針を変更。まずはメール・マガジン「週刊ナチュラム通信」を創刊し、メール・マガジン配信サービス「まぐまぐ」を通じての配信を開始。ここに戦略商品を掲載して、ウェブのトップ・ページと連動させることで、オンライン・ショップへの集客が大幅にアップした。ちなみに、現在の購読者数は約7,500名。
「週刊ナチュラム通信」の創刊と前後して、同社では受注商品の出荷を担う店舗の定休日を廃止、ウェブ同様に年中無休とすることで、受注から配送までのリードタイムのばらつき(最長4日)をなくし、曜日に関わらず即日出荷できる体制を整えた。
現在では、前出の「まぐまぐ」に加えて、検索エンジンへの登録、オンライン・モールへの出店、相互リンク、雑誌広告、アフィリエイト・プログラム「ナチュラム・バディシステム」など、さまざまな手法でURLを告知、ウェブ上への集客を図っている。
雑誌広告はフィッシング&アウトドアの専門誌に掲載。単にURLを告知するだけでなく、誌上での通信販売も実施している。これは、そもそもは店舗の集客のために月1回の頻度で実施していた新聞折り込みチラシの効果が落ちてきたため、その分の予算約100万円をつぎ込んだもの。またアフィリエイト・プログラムとは、あらかじめ登録した会員番号を埋め込んだリンク・ボタンを会員のウェブ・サイトに張り付けてもらう仕組み。これを経由して受注すると、会員には5%のマージンが支払われる。登録会員数は140サイト。
店舗 VS インターネットの実績比較
2000年3月期におけるグループの小売部門の売上高(見込み)は約3億2,000万円。このうち店舗による売上高が2億円強で、「ナチュラム インターネットショップ」による売上高は1億円前後。店舗の売上高が減少傾向にある中で、オンラインによる売上高は大きく伸びており、このところ前年同月比400%程度で推移している。なお、店舗による売上高が減少しているのは、不景気の影響のみならず、新聞折り込みチラシを辞めたことにもよる。
また店舗とウェブの顧客数を比較すると、前者の来店客数が150〜200人/日であるのに対して、後者のトップページ・ビューは1,500〜2,000/日。一方で受注数は、前者の80件/日に対して後者は30件/日といったところ。ちなみに、2000年1月末時点での「ナチュラム インターネットショップ」の実績客数は約7,000名を数えている。
さらに、店舗とウェブの顧客層を比較すると、年齢や性別では大きな違いはないものの、立地商圏の店舗と、情報商圏のウェブでは居住地域に大きな開きがある。また、前者が初心者や中級者などボリューム・ゾーンを主体としているのに対し、後者はマニアックな層が主体。結果として、前者では4,000〜5,000円の客単価が、後者では1万〜1万5,000円に達する。
また店舗とウェブでは、当然のことながら、売れ筋の傾向にも開きがある。マニアックな層が多いウェブ上では、店舗に比べて高額な商品の売り上げが好調。また、フィッシングの世界では、同じ魚でも地域により釣り方が異なる。従って、地域商圏の店頭では関西の釣り方に応じた釣り具が売れるが、全国商圏のウェブ上では、全国的に通用する商品が売れ筋となる。そこで今後は、こういった商品へと品揃えをシフトしていく意向だ。
店舗の位置づけはどうなるのか
同社では今後、関東地区への出店を検討してはいるものの、東西各1店舗体制が整えば、それ以上の出店は行わない方針。しかし、ウェブによる売り上げが店舗のそれを上回ってきた今日、これらの店舗の位置づけはどうなっていくのだろうか。
ウェブ側から見ると、店舗には3つの意味合いがあると中島氏は言う。まずひとつは、オンライン・ショップのためのストック・ポイントである。それも単なるストック・ポイントでは売上機会のロスに繋がることから、資源の有効活用に向けて売場を共有させようというわけだ。2つ目は、顧客への安心感の提供。バーチャルな世界のみならず、店舗という実態をもつことで、購入に当たっての顧客の心理的な不安を払拭すると同時に、現物を手にとって確かめたいといった要望にも対応できる。そして3つ目は、親会社であるナカジマが釣具店を開店した当初からの、メーカーのモニター店としての位置づけ。加えて、顧客との接点がウェブやメールでのやりとりに限られるため、微妙なニュアンスが伝わりにくいというインターネット・ビジネスの限界を補う意味もある。
一方で店舗の側から見ると、単なる物販の拠点としてのみならず、これをフィールドとのネットワーク拠点として機能させていく構え。たとえばイベント展開などを通じて、フィッシング&アウトドアのシーンを具体的に提供していくということだ。
フィッシング&アウトドア用品小売業「ナチュラム」
さらなる革新に向けて
「ナチュラム インターネットショップ」は、今日では同社の戦略の根幹を成すまでに成長している。アウトドア&フィッシングはシーズン性の強い分野だが、ウェブ上ではその業界常識も覆した。さらに、商圏が広がったことも大きなポイントだ。
同社では、ウェブを立ち上げて以来、次々と新しい取り組みに挑戦してきたが、今後もそのスタンスに変わりはない。まずはこの4月に、これまでのレンタル・サーバから自社サーバによる運用に移行。これを在庫情報を蓄積したデータベース・サーバと直結することで、現在、デイリーで行われている在庫情報の更新をリアルタイム化する。自社サーバに移行するもうひとつの狙いは、セキュリティの向上。これに伴い、現在ではリスクを考慮して控えている、ウェブ上での決済情報のやりとりを実現する。さらに今後は、顧客データベースと連携することで、顧客サービスを拡充すると同時に、One to Oneマーケティングにも取り組んでいく意向だ。
中島氏は、インターネット・ビジネスにおいては、「1カテゴリー1企業の法則」があるという。つまり、地域的には全国商圏でありながら、カテゴリーにおいては単一商圏というわけだ。従って今後は、カタログの商品情報の拡充、これを支える商品調達力の強化を推進する一方で、個人売買掲示板はオークション専門サイトに移管するなど、ウェブ上のスクラップ&ビルドにも積極的に取り組んでいく。
刻一刻と進化する「ナチュラム インターネットショップ」。当分はその動向から目を離せそうもない。