人材育成が支える“コカ・コーラの対応”

日本コカ・コーラ(株)

顧客対応を消費者情報室に一元化

 日本コカ・コーラ(株)は、1957年にザ コカ・コーラ カンパニーの日本法人として設立された。設立当初より、原材料から容器に至るまでできる限り現地で調達し、ライセンス契約に基づいて、各地域のボトラーから直接販売店に届ける、ルートセールス方式を採用。1999年12月末現在、15社のボトラーを拠点として、日本全国に「コカ・コーラ」をはじめとする30を超えるブランドと、90種類以上の清涼飲料水を、20種近くに上るパッケージで展開。設立以来40年余り、「いつでも、どこでも、誰にでも」をモットーとして消費者に「さわやかさ」を提供し続けている。
 同社のビジネスの基本は「お客様に喜び続けていただく」こと。そのために同社では、リサーチ、広告、イベント、セールス・プロモーションなどを連動させた日本独自のマーケティング戦略により、消費者のニーズに応えている。
 その一環として、コカ・コーラシステムと消費者の直接の、しかも最大の接点として、消費者情報室が重要な役割を果たしていることは見逃せない。米国のザ・コカ・コーラカンパニーでは、1973年にConsumer Information Center(CIC)が設置され、成功を収めている。これにより、世界中にCICを設ける動きが起こり、日本においては1991年8月に消費者情報室が開設された。まずはフリーダイヤルを導入して、関東圏内のみでサービスを開始。1992年8月には全国展開へと業務を拡大した。
 消費者情報室の主な業務内容は、①企業と消費者間の問題を解決、「期待を超える満足」を提供し、生涯の顧客に、②消費者の間にある隠れた傾向を把握し、経営に役立てる、③危機を事前に把握対処し、社会問題化する前に解決する、④消費者教育の4つを目的とした、消費者からの電話・手紙による問い合わせ、苦情等への対応のほかに、コカ・コーラケアーによるマーケット情報の収集、システム内へのフィードバック、外部団体との交流などである。
 問い合わせ内容は、新製品をどこで販売しているのか、ネーミングの由来、キャンペーンについて、CM、製品の品質、味、リサイクルなど多岐にわたる。ただし、キャンペーンに関しての問い合わせ窓口は、原則的にアウトソーシングしている。
 コカ・コーラケアーとは、同社社員や家族のために消費者用とは別のフリーダイヤル番号を設け、たとえば社員、またはその家族が、日常の生活の中で、ある場所のコカ・コーラのネオンサインの一部が点灯していなかったり、ある場所で販売されている製品が賞味期限切れになっているといったことに気づいた場合、専用のフリーダイヤルに連絡を入れるシステム。消費者情報室は、その窓口ともなっているのである。
 消費者との会話内容は対応スタッフがその場で入力し、消費者の名前や住所、電話番号以外の情報については、翌日には各ボトラー、関係部署で見られるようになっている。また情報の共有は日本人社員に限らない。入力画面には日本語画面のほかに英語画面があり、スタッフが消費者からの電話の内容を英語でも入力することで、英語を母国語とする外国人マネジメント、社員も情報を共有できるシステムとなっている。そのため、もちろんスタッフには英語の能力が要求される。
 消費者情報室の電話受付時間は、フリーダイヤルで土日祝日を除く午前9時30分〜午後5時まで。対応には各ボトラーとの連携が必要なことも多いため、時間に制限を設けているのだ。20回線で対応し、月間に3,000〜6,000件の電話を受けている。受信数は1年を通して2月が最も少なく、8月が最も多い。

消費者の疑問に応えるパンフレットなども多数取り揃えている

日本コカ・コーラ(株)の取扱商品。こうした数多くの商品に対する問い合わせにより素早く対応できるよう、消費者対応システムを改善中。消費者の疑問に応えるパンフレットなども多数取り揃えている。

スタッフのコミュニケーション力を重視

 1991年の設立時には、室長を含め4名で業務をスタートさせた消費者情報室だが、1998年夏の業務の拡張にともない、現在、社員7名、派遣社員12名の合計19名に拡大。男性は社員4名、派遣社員1名。女性は社員3名、派遣社員11名と、特に派遣スタッフが増加している。同社の清涼飲料水はあらゆる年齢のすべての個人が対象であり、派遣スタッフにも年齢の制限は設けていないが、現在は20代後半から30代が中心。1年半〜2年以上継続して勤務しているスタッフが多くを占める。
 通常同社では、新しい派遣スタッフには、2週間ほどの間、パンフレット、製品情報やレポートを見たり、コンピュータの操作をする、あるいは、モニター・システムで実際のやり取りを聞くなど、実際の消費者情報室の業務内容を見学し、自主学習させている。そして、本人の「自分も電話を受けてみたい」という気持ちが盛り上がった時点で、少しずつ業務への参加を開始させている。同社においては、消費者情報室の業務は、自ら消費者と積極的に交流していこうという意欲が湧いてこなければ、こなすことのできないものだからである。
 また、業務拡張にともない派遣スタッフを増員した折には、12名を6名ずつのグループに分けて特別研修を実施。消費者対応の品質向上と、業務上や人間関係等からくるストレスによるバーン・アウトを避けるために、2時間の研修を10回にわたり開催した。同社のマニュアルやビデオ教材、個人別テープ、電話モニターなどをフルに使用して、講義、ロールプレイ、話し合い、ビデオ学習、振り返りなどを行った。同時にトレーニングの目的や消費者行動の変化、企業を取り巻く経済環境、コールセンターの目的についてのオリエンテーションも実施された。
 マニュアルは、米国本社で作成された2冊にわたる「Serving Our Consumers」がもとになっている。同社の消費者に対する基本姿勢は不変であり、改訂されても内容が大きく変わることはない。日本ではこれを和訳した「消費者への奉仕」を使用。これには、経営方針やコールセンターの立ち上げ方からはじまり、怒りを和らげる方法や、危機管理、手紙の書き方などに至るまで、すべてが含まれている。日米の文化の違いを配慮し、和訳の際に変更、あるいは内容的に足りない箇所が補填されているのである。また米国で作成された「It’s Your Call」というビデオを含む教材を、「電話の顔はあなたです」「言葉の選び方」として、日本版に作成し直し、使用している。ただし同社では、ひとつひとつ異なる電話に一律のQ&Aで応えるのは適切ではないという観点から、Q&Aマニュアルなどにとらわれた個々の知識を重視する対応ではなく、自分の気持ちと言葉でいかに相手に沿っていけるかに重点を置いている。
 同社では消費者情報室のスタッフに不可欠な資質は、消費者との“コミュニケーション力”だと考えている。消費者対応業務は、単に問い合わせに応じることではなく、消費者の声を聴くことである。“コミュニケーション力”とは、消費者が本当に聞きたいのは何かを理解する力である。たとえば、カロリーについての質問をしてきた消費者であれば、なぜそれが知りたいのかを相手の立場に立って考える。ダイエットのためなのか、あるいは糖尿病なのかもしれない。それがわかれば、単なる受け答えではなく、その先までを話すことができる。言葉の外にあるものを読み取り、プラスアルファの情報(Exceed Expectation)を提供できる能力が大切というわけだ。
 そこで研修においては、まずは心理学の講義と体験学習を行い、「傾聴」の大切さを認識するところからはじめ、最終的には「暗くなった気持ちを明るくする方法(ストレス・マネジメント)」までの流れを構成している。

顧客対応の成果が満足度調査に反映

 個々のスタッフの評価については、特別な評価制度は設けていない。たとえばコール・マネジメント・システム(CMS)の導入により、どのスタッフが何件の電話を受けたかはわかる。だが大切なのは、電話をかけてきた、または手紙を出してきた消費者を「いかにケアしているか」であり、件数で評価することはできない。
 同社が重視しているのは、年に1回、電話の件数が最も多くなる夏場に、調査会社に依頼して実施している消費者情報室の満足度調査の結果である。この調査項目はかなり細分化されており、なおかつ、結果が追跡できるように毎年同じ項目について調査がなされる。この結果では消費者の満足度は上昇傾向にあり、同社では消費者情報室の業務が消費者のニーズに対応できているものと評価している。
 同社は今後、派遣スタッフの教育をより一層強化する一方で、知識データベースを充実させる方針。同社では当初から相手とのコミュニケーションに専念するために、コンピュータは空気のような存在でなくてはならないと考えてきた。そのため、顧客対応ソフト「View工房」を使い勝手の良いよう、大幅にカスタマイズして使用している。しかし、現在のシステムでは製品情報の検索などに時間がかかるといった多少の難点があることから、CD-ROMに収納されている製品の原材料、容器の写真、TVCFなどの情報をデータベースに移行中であり、より使いやすいシステムを構築している。コカ・コーラ社ではさらに「お客様の期待を超える満足(Exceed Expectation)」を提供できるよう、CRM(コミュニティ〈カスタマー〉・リレーションシップ・マネジメント)システムの向上の努力を続けている。


月刊『アイ・エム・プレス』2000年2月号の記事