日本国内での知名度は90%
米・ノースウエスト航空は、世界80カ国、400都市以上を結ぶ大手航空会社。1947年には、米国の航空会社としてははじめて日本に参入。日米間の運航数の多さでは海外の航空会社のトップを誇り、東京、名古屋、大阪を拠点に、アメリカはもちろん、アジアやミクロネシアにも就航している。また、約10年前からは、KLMオランダ航空など、同業他社とのパートナーシップを強化している。
同社ではこのたび、アジア・パシフィックの広告会社をブランド戦略で知られるオグルヴィ&メイザーに変更。広告、プロモーション、One to Oneなど、あらゆるマーケティング・コミュニケーションを統合しつつ、ブランド・イメージの強化に乗り出している。
同社が日本に参入したのは、今を去る52年前のことであり、国内における知名度は、既に約90%にも達している。これにともない、日本国内におけるブランド戦略の重点は、認知度のアップというよりも、イメージの向上にシフトしている。
同社のブランド・コンセプトは、“Smart Choice”。どこでも行きたい場所に行ける路線の多さ、高い信頼性、手頃な価格、フリークエント・フライヤーズ・プログラム「ワールドパークス」などにより、顧客にとって好ましい価値の提供を推進している。客室の贅沢さでは他社に劣るとの見方もあるが、顧客が航空会社を選択する上で重要なのは、先に述べたようなベーシックなサービスであるというのがその見解だ。
顧客は若年層やビジネスマンが主体。これらの顧客のニーズに応えるべく、ウェブを活用したチケット販売などにも、同業他社に先駆けて力を入れてきた。
ノースウエスト航空のホームページ URL:http://www.nwa.co.jp
時代はマスからダイレクトへ
かつては、航空会社のマーケティング・コミュニケーションと言えば、新聞などによるマスマーケティングが主体。当時の旅行者は、旅行代理店の店頭に足を運び、店頭のポスターを見ながら旅先を決め、航空券を予約するというのが一般的なスタイルだった。しかし、1980年代の後半に入り、米国においてフリークエント・フライヤーズ・プログラム(以下、FFP)の導入が活発化し、これを機に航空会社におけるダイレクトマーケティングの展開がはじまった。ちなみに、同社が米国でFFPを開始したのは1986年のことである。
さらに、1990年代の半ばには、特に太平洋線をめぐる競合が激化してきたことから、マスマーケティングからダイレクトマーケティングへといった傾向はますます顕著になってきた。つまり、それまでの広く、あまねくメッセージを伝える一般の広告から、ターゲットを特化したスペシャル・オファーにより行動を起こさせるといった、プロモーション的な手法が中心になってきたのだ。
同時に、FFPの展開にも変化の兆しが現れた。それまでは、単なるリピート狙いだったFFPが、新規顧客の獲得や、上得意客の囲い込みなど、より戦略的、かつ多目的になってきたのだ。さらに2年ほど前からは、顧客情報に基づくデータベース・マーケティングや、新客獲得のためのアクイジション・プログラムも活発化している。
このほか同社では、コンサートやスポーツ、アートなどのイベントへの協賛にも力を入れており、これらのイベントを通じてブランドの構築を図っている。また前述の通り、ウェブの活用にも力を入れているが、これもブランド構築に欠かせないメディアに違いない。
ダイレクトマーケティングはFFPを主体に
同社のダイレクトマーケティングはFFPを主体に展開されており、FFPを顧客のロイヤルティを高め、収益をアップさせるための戦略として位置付けている。日本においては、まだまだ旅行代理店による「プッシュ型」の戦略が中心だが、ダイレクトマーケティングを駆使することで、これを顧客側が同社を指定する「プル型」にもっていきたいとのこと。
同社のFFP、「ワールドパークス」は、KLMや日本エアシステム、コンチネンタル航空などとの提携により、世界100カ国、500都市以上をネットワークしている。マイルの有効期限が無期限、チケットの種類を問わずマイルを100%カウント、日本エアシステムとの提携により1万マイルからフリートラベルが楽しめるなど、同社ならではの差別化ポイントも豊富。一般会員に加えて、飛行実績に応じた「シルバーエリート」「ゴールドエリート」「プラチナエリート」の3ランクの上級会員が設けられている。「ワールドパークス」の総会員数は世界で約2,000万人。日本国内では1988年に募集を開始。すでに100万会員以上を獲得している。
このFFP、米国では古くから加盟店の開拓が活発。そもそもは旅先での利用が想定されるホテルやクレジットカード会社、レンタカーなどからスタートしたものの、今日ではその加盟店は、雑貨・食料品店や中古車ディーラーなど、旅行とは直接関係のない分野にまで拡がっている。
前述の通り、最近ではFFPにより蓄積した顧客情報に基づくデータベース・マーケティングも強化している。具体的には、利用の途絶えている顧客の再利用を促進したり、飛行実績の高い優良顧客に何らかの報償を提供するといった具合。また、アクイジション・プログラムとしては、ディスカウント・オファーを提供することで同社を指定していただくといったかたちが一般的。荷物の宅配サービスやホテルでの特別サービスなど、プラスαのサービスを提供する場合も少なくない。米国では、このようなアクイジション・プログラムの展開に向けて、FFP加盟店のホテル、クレジットカード会社、インターネット・プロバイダなどとのリスト・スワッピングも活発に展開されているという。
広告とマーケティングを統合
同社では1995年、従来からの広告部門をマーケティング部門の一部と合体させ、これを統括するセクションとして広告・販売促進本部を発足させた。日本地区の同本部長を務めるペリーA・カンタルーティ氏のもとでは、計6名のスタッフが一体となって、広告、FFP、さらにはデータベース・マーケティングに取り組んでいる。ちなみに、航空券の予約や各種問い合わせを受けるコールセンターは、予約課に位置付けられており、同本部の管理下にはないが、連動して業務を推進しているとのこと。
このような体制のもと、最近ではマス広告の出稿に当たっても、FAX BOXなどを駆使したレスポンス広告を志向すると同時に、顧客情報がトラッキングできるようなキャンペーン展開を図るケースが増加している。キャンペーンごとの結果は、何枚の航空券が売れたか、あるいはいくらの売り上げを達成したかに至るまで分析されており、キャンペーンごとの投資対効果を把握、次回のキャンペーンに反映している。
カンタルーティ氏は、ダイレクトマーケティングによるブランド構築のメリットとして、顧客と企業がパーソナルに対話ができること、さらに、特に日本においては、米国に比較してダイレクトマーケティングが立ち後れていることから、ダイレクト・レスポンス・メディアやそのメッセージへの注目度が高いことを挙げている。しかし、航空会社間の競合が激化する中で、各社ともがダイレクトマーケティグへの投資を強化してくるのは間違いない。このような中で大切なのは、「いくら使うか」ではなく「何に使うか」。つまり、クリエイティビティが問題なのだと言う。
また今後は、インターネットの活用も重要な課題だ。ウェブでは定評のある同社だが、国内におけるEメールの活用はまだこれから。
現在、同社では、2000年に向けて新たなデータベースを稼働するべく、準備を進めている。このデータベースが完成した暁には、ターゲットをこれまで以上に差別化した、マイクロ・マーケティングの展開が実現。同時に、フロント・ラインにおけるサービスを、カスタマー・バリュー(顧客の価値)と連動したかたちで提供できるようになる。これまで、顧客データベースの活用は、あくまでも旅行終了後に限られていただけに、新データベースは同社のデータベース・マーケティングを大きく一歩前進させることになるだろう。