相談内容を1カ所に集約
ライオン(株)の前身であるライオン歯磨とライオン油脂は、ともに70年代はじめから消費者部門でお客様相談の受け付けを開始した。80年に2社が合併した後は広報部の中に消費者センターを設置して外部からの問い合わせに対応してきたが、1995年からは、よりお客様側の立場に立った対応と、同社が提供する商品と情報の一元管理を目指し、品質保証部に所属を移して対応に当たっている。
お客様相談窓口の名称は「お客様相談室」。ここで、全国に流通しているすべての商品の相談を一手に引き受けている。お客様相談室が対応する分野は、家庭用品、食品、薬品、ペット用品と幅広いが、相談が多いのは、やはり家庭用品と薬品だ。
現在、お客様相談室のスタッフは14名。商品分野別に担当者が決められているが、基本的には14名全員が商品分野にかかわらずすべての相談に対応。相談受付経路には電話と手紙、Eメールのほか、卸、販売店など流通拠点を介して届けられるものがあり、9割が電話による受け付け。1割弱が手紙だ。1996年4月から開始したEメールでの相談は、全体的に見ると件数はまだわずかだが、家庭へのパソコンの普及にともなって、1998年には大幅に件数が増加した。
お客様相談室の電話による通常の受付時間は、平日の午前8時30分から午後5時15分まで。営業時間外や土・日曜日などの休日には、受付時間外である旨を案内するテープを流し、緊急の場合には本社の警備室から管理職に電話連絡をする体制が採られている。電話が最も多いのは月曜日で、時間帯としては午前10時から11時、午後3時から4時の間がピーク。
同社ではフリーダイヤルを導入していない。フリーダイヤルを導入すると大幅に相談件数が増えるが、その分経費がかかり、またスタッフの増員を図る必要があるため、そのバランスをどのようにとるべきかを現在模索中である。電話はひとつの専用電話番号を8回線に振り分けて受け付けており、現状ではオーバーフローはほとんどないという。通話時間が長引くと思われる専門的な質問や遠距離通話の場合には原則として折り返し電話をかける。
内容は、問い合わせ4分の3、苦情4分の1の割合。問い合わせの中には意見や提案も含まれている。8割はその場で解決する内容だが、残りの2割は原因究明のために現場に出向いたり、現物を取り寄せて調査を行う必要があるため、お客様に満足していただける説明、処理にたどり着くまでには時間を要する。
最近の傾向としては、新製品の使い方に関する相談が多く、特に新しいカテゴリーの製品の場合、どういう時にどのように使用するとどういった効果が上がるのかなど、生活視点からの詳細な情報を求めるものが増えている。また近年は商品のライフサイクルが短くなっているため、廃止品への問い合わせも少なくない。このほか懸賞などのキャンペーン期間中は、応募方法や当落の確認に関する問い合わせが増える。
新製品の発売に当たっては必ずモニター調査を実施するが、事前調査の規模は限られているため、発売後に思わぬ反応が寄せられることもある。事前につかめなかった情報をいちはやく入手する窓口としても、お客様相談室は重要な役割を担っているのだ。
お客様相談室の利用者は、同社のターゲットである30代から40代の主婦が中心。また最近では、時代を反映して年配男性からの問い合わせがわずかではあるが増えているという。
1997年は合計で3万9,000件の問い合わせを受け付けた。1998年には4万9,000件近くになると予想されている。年々件数が増加していのは、生活者側の商品知識が豊富になり、より詳細な情報を要求するようになってきたためと同社では考えている。また前述の通り、懸賞を実施すると応募方法に関する問い合わせが急増することなどから、以前と比べて生活者が企業に対して気軽に電話をかけるようになっているのも受付件数増加の一因と見ている。
「新ピンポンシステム」で社内に情報を発信
お客様相談室では、顧客の相談内容をデータベース化し、企業活動に反映させている。1996年1月から「新ピンポンシステム」と称する独自のシステムに、お客様からの相談情報を1件ずつデータ登録して蓄積。1997年8月からはこれに「ピンポンプラス」という検索用のシステムを加え、閲覧のための登録を行えば社員は誰でも「新ピンポンシステム」に蓄積された情報に翌日からアクセスすることを可能にした。現状では、研究部門や生産部門のスタッフからのアクセスが多いという。「ピンポンプラス」の導入により、お客様相談室で一元管理された情報を社内関連部所で素早く共有できるようになったほか、それぞれの部所での月別や製品ごとにまたがったデータの解析が容易になった。
顧客からの相談情報は「新ピンポンシステム」に入力
このほか定期的に情報をまとめて解析し、新製品に関しては週報を、それ以外の製品も含めて月報を関係部所に提供。この社内への情報発信に際しては、「お客様相談室に寄せられた情報が確実に生かされるよう、『問題指摘』としてではなく、『提案情報』として関連部所に情報を発信している」と「お客様相談室」の室長である渡辺勉氏は語る。
そして、顧客対応に関しては、「ありきたりだが『迅速』『丁寧』『親切』が基本。相談への返答は常にケース・バイ・ケース。その人が必要としている情報を返すことが重要」とも。つまりお客様への回答にはあらかじめ用意された正解はなく、それを探り出すことがお客様相談室の役割と考えているのだ。「現状では95%以上のお客様に納得していただいているはず」と渡辺氏はお客様相談室の業務を評価している。
一方、社会貢献活動として5年前から視覚障害者への対応を行っているのも同社のお客様相談室の特徴のひとつ。半年に1度、点字や大活字、またテープやフロッピーによる製品の取り扱いに関するカタログを作成し、登録している個人顧客や施設、図書館に無料で配布している。現在登録者は1,700人ほど。1996年からは、視覚障害者を対象とした相談講習会を全国で実施してきた。
お客様相談室のスタッフは、勤務時間のすべてを使って、受け付けに当たっているのが現状。このためスタッフのミーティングの時間を十分に確保できないのが、課題となっている。この解決のために現在、お客様への対応に差し支えない範囲での受付時間の見直しを図っているところだ。また、現在の新ピンポンシステムでは入力基準があいまいでデータにばらつきが見られることから、入力ルールの適正化と効率的な対応のできる環境整備のために、1999年1月からシステムの改良をさらに進めていく予定だ。このほか同社では、お客様相談室以外に家庭科学研究所で掃除のしかたや製品の正しい使い方などの詳細情報をFAXボックスで案内しているが、こうした部所との連携を強めて、お客様相談室の利用者に対してこれらの情報をその場で提供できるシステム作りにも取り組んでいきたいとしている。