新サービスの軸は「顧客との関係作り」
富士銀行では、1998年3月2日、新サービス「富士ファーストクラブ」をスタートさせた。これは同行が金融ビッグバンに向けて、他行との競争に勝ち抜くために、「顧客との関係作り」を軸に進めている戦略の一環。同行利用の個人顧客に「利用すればするほど満足していただける価値」を提供し、信頼関係を一層強化していくことを目的とした、“他行にないサービス”を実現するメンバーズクラブである。「富士ファーストクラブ」は、顧客との長期的な取り引きを維持・成長させ、重層的な取り引きの促進を推進する原動力になると同行は期待している。
同行では、3月からテレビCMをオンエアしたのをはじめ、5大新聞に広告を掲載、ほかにラジオなども利用し、「富士ファーストクラブ」の積極的な広告展開を推し進め、会員拡大を図っている。従来、この時期には、他行同様に新入社員獲得キャンペーンを行ってきたが、景品の考え方を従来と変えたことで、今春は単独の新入社員獲得キャンペーンは行わず、「富士ファーストクラブ」の告知一本に絞って契約者拡大を図っている。
「富士ファーストクラブ」には「スタンダードコース」と「プレミアムコース」の2つがある。入会資格は、富士銀行に総合口座を持ち、入会登録時点での普通預金と貯蓄預金の合計残高が、「スタンダードコース」では5万円以上、「プレミアムコース」では10万円以上あること。契約は1年ごとに更新され、更新時にも入会時と同じ条件が適用される。
入会登録には、「ファーストクラブ・テレホンバンキング」の利用手数料として「スタンダードコース」で月額262円、「プレミアムコース」で月額525円が必要。図表1の通り、「プレミアムコース」ではすべての特典を受けることができる。「スタンダードコース」は金融サービス以外のショッピングサービスを中心にした「ショッピングコース」と、旅行サービスを中心とした「トラベルサービス」の2コースに分かれ、それぞれのコースに見合ったサービスが受けられるようになっている。
サービス特典は、大きく4つ。①買い物、旅行、ホテル宿泊料がディスカウント価格で利用できる「ライフスタイル・アドバンテージ」、②自宅や会社にいながら、残高照会や振込・振替ができる「ファーストクラブ・テレホンバンキング」、③給与や年金の受け取り、公共料金やクレジットカードの口座振替等の取り引きをポイントに換算して、毎年、ポイントに応じたギフトカード(最高5万円)が贈呈される「ファーストクラブ・ポイント」、④ローンの金利や各種手数料を優遇する「金利・手数料優遇サービス」である。
この中で一番の目玉は、「ライフスタイル・アドバンテージ」。これは、同行がアメリカですでに5,000行以上の銀行が提携しているセンダントコーポレーションの日本法人、センダントジャパンとの提携により実現した非金融サービスだ。10万点を越える世界の一流ブランド商品がディスカウント価格で求められる「ショッパーズ・アドバンテージ」、海外パッケージツアーが5%割引で利用できる「トラベラーズ・アドバンテージ」、有名ホテルが50%割引料金で利用できる「ホテル・アドバンテージ」からなる。このほか、カード紛失・盗難時の通知を代行する「カード・プロテクション」、持ち主を特定できる登録番号と連絡先(「富士ファーストクラブ」事務局)の入ったキーリングを会員に進呈、キーリングの付いた鍵を会員が紛失した場合、事務局が回収して会員に戻す「キーリング・プロテクション」、万一の時に保険金を支払う「交通事故障害保険」などが付いている。従来の銀行サービスの枠を越えたサービスを提供することで、他行との差別化を図ろうという戦略だ。
「ファーストクラブ・テレホンバンキング」は、電話1本で残高照会や振込ができるサービス。住宅・自動車などの各種ローンの借入可能額や返済額のシミュレーション、有利な運用方法などについて専門スタッフが相談に応じるサービスも行っている。平日は午前8時〜午後9時、土・日曜日と祝日は午前9時〜午後5時、フリーダイヤルで対応している。「ライフスタイル・アドバンテージ」でのショッピングや旅行代金の振込手数料もテレホンバンキングを利用すれば無料になるといった振込・振替手数料優遇サービスも付いている。
「ファーストクラブ・ポイント」は、同行との取り引きを1年ごとにポイントとして加算し、入会から1年後の契約更新の翌月に1ポイント当たり5円で換算した金額に相当するギフトカードを進呈するサービス。住宅ローン、積立・定期預金、公共料金の口座振替など、取り引きが増えるほどポイントが増える。このサービスは「富士ファーストクラブ」開始以前は、一定のポイントをクリアした人の中から抽選で提供されていたが、「ファーストクラブ・ポイント」では100ポイントを越えるメンバーすべてに提供される。
「金利・手数料優遇サービス」は、各種ローンの金利、および手数料を優遇するサービス。たとえば「富士パーソナルローン」を利用した場合には金利を0.5%優遇、ほかの取引内容と合わせて最大1.5%まで優遇される。
4つのサービスともに、使えば使うほどおトクになっており、取引拡大を促進する仕組みが織り込まれている。
同サービスは各マスコミに取り上げられた効果もあり、開始から約1カ月ですでに申込件数が2万件に上っており、まずは上々の滑り出しといったところ。現段階では正確な数字はまだ出ていないが、同行では新規顧客獲得の効果も期待通り上がっていると評価している。申込件数は、「プレミアムコース」、「ショッピングコース」、「トラベルコース」の順に多い。ターゲット層は特定されていないので、年齢層は幅広い。申し込みから詳しい利用案内が手元に届くまで若干の時間がかかるので、実際の利用状況が把握されるのはこれからだ。
同行では「入会の手引き」送付時にアンケートを同封。回答者には100ポイントを加算することで回収を促進し、個別の顧客のニーズを収集している。今後、これらのニーズに基づいた効果的な情報提供を行っていきたいとしている。
【テレホンバンキング】
電話によるコミュニケーションの強化
また同行では「富士ファーストクラブ」のメニューのひとつでもあるテレホンバンキングを中心として、電話を使った顧客とのコミュニケーションの強化に積極的に取り組んでいる。
「富士テレホンバンキング」が他行と大きく異なる点は、同行のキャッシュカード保有者なら、残高・入出金の明細照会、預金・ローン・外国為替・各種届出等の問い合わせが申込不要ですぐに利用可能なことにある。1度に数百件の受け付けができるよう、大容量の回線を使用しているので、電話がつながりやすいのも特徴だ。3月以降に発行したキャッシュカードの裏面に専用フリーダイヤル番号を記載しているほか、窓口での案内やATMコーナーで配布するチラシなどで利用を促進しており、現在、1日約7,000件の利用がある。3月からは、別途契約手続きが必要になるが、資金移動や定期預金取引、「富士ファーストクラブ」のポイント照会もテレホンバンキングで取り扱いを開始したことにより、より一層の利用増加が見込まれている。テレホンバンキング業務は、大阪、横浜、千葉、武蔵境の4カ所にある同行のコールセンターのうち、横浜で一括して受け付けている。オペレータ数は4カ所のコールセンターの合計で約600名。このうち横浜は200名程度だが、テレホンバンキングの利用増加にともない、徐々に人員を拡充している。同行のテレホンバンキングは他行と比較して自動応答の割合が高いのが特徴で、これによって支店・営業所の残高照会等の電話受付対応の業務負担が軽減されている。
テレホンバンキング以外の「富士ファーストクラブ」会員専用のフリーダイヤルは、金融以外の部分に関してはセンダントジャパンが担当、そのほかは千葉のコールセンターのインバウンド業務を担当するグループで受け付けられている。
幅広い特典が付いた「富士ファーストクラブ」のパンフレット
“富士銀行とお客様”の関係をより強固なものに
「富士ファーストクラブ」ははじまったばかりのサービスだが、同行ではこれを顧客との末永いワン・トゥ・ワン・リレーションシップのスタートと位置付けており、今後、顧客からの意見を十分に取りこみながらサービスを育てていきたいとしている。
今まで顧客との関係は1支店、あるいは1担当者が一手に引き受けるという色合いが強かった。しかし今後は、ある支店で新規口座を開いた顧客が翌日別の支店に来店したとしても、「昨日はありがとうございます」とパーソナルな一言を言い添えることが可能になる。あるいは、一度電話相談窓口にアクセスした顧客には、どこの支店でも適切な対応をすることができるようになることを目指している。
同行ではこのサービスを核に“富士銀行とお客様”のより強固な関係を構築していく構えである。