介護保険スタートの2000年を睨みプレ顧客のネットワーク化を推進

(株)ヘルシーライフサービス

エンドユーザーに“選ばれる”企業に

 2000年の介護保険導入に向けて、厚生省は今、最終調整を進めている最中だ。これが導入されると、今までは注文を待ってさえいれば良かった各自治体の指定介護サービス事業者は、大きな体質変換を迫られることになる。将来は発注者が自治体ではなく、エンドユーザーになる。つまり、一般企業同様の競争原理に基づいた、ひとりひとりのエンドユーザーに“選ばれる”ための企業努力が求められることになるのだ。
 (株)ヘルシーライフサービスは、1984年に介護サービスの専業としてスタートしたシルバー産業のパイオニア。現在、3,300の自治体と手を組んだ福祉事業をはじめ、幅広い事業を展開しており、たとえば在宅介護では業界の11%、在宅入浴では7%、在宅配食では51%のシェアを持つ。同社は早くも介護保険導入後を睨んだ事業戦略を確立し、助走体制に入っている。
 “待ち”のビジネスから“攻め”のビジネスに転じるためには、まずエンドユーザーに目を向けることが重要。顧客ニーズに基づいたリレーションシップ・マーケティングを推進することによって、顧客はリピーターに、リピーターはファンに、さらには口コミで新規顧客を獲得してくれるサポーターに育っていく。このような視点からひとりひとりのニーズにきめ細かく応える利用者本意のサービスが提供されるようになることが、民間企業がサービス提供主体となる最大のメリットだと同社では考えている。

キーワードは「トータル化」「ネットワーク化」「情報化」

 エンドユーザーに「選ばれる」条件として、同社取締役本部長 吉田英二氏は「トータル化」「ネットワーク化」「情報化」の3つのキーワードを挙げる。
 1つ目が、トータルなサービスを提供できること。エンドユーザーにとって、入浴はこちら、配食はこちらと別々の企業にサービスを依頼するのは面倒だ。ひとつの窓口であらゆるニーズに応えられる企業が、競争優位性を獲得する。同社では現在は3店舗を展開している福祉機器・介護用品のレンタル・販売店、「ケアショップほっとはあと」を全国各地に開設して、相談および受注窓口として位置付けていきたい考えだ。
 2つ目のネットワークには、さまざまな側面がある。
 ひとつは、全国各地の拠点とのネットワークだ。同社では現在、16の直営拠点と26のフランチャイズ拠点を持っている。このネットワークによって、子どもと同居するなどの理由で引っ越したユーザーにも、引き続き同じサービスを提供できる。また核家族化、少子化が進んでいる現在では、介護者である子どもと対象者である高齢者が離れた場所に暮らしている場合も多い。このような時にも全国に拠点があれば、介護者がサービス内容を自分の目と耳で確かめた上で、安心して現地の拠点に依頼することができる。さらに同社のスタッフが夫の転勤などで引っ越しをしても、移転先の拠点で仕事を続けられるため、同社にとっては、特殊な専門技術を持つスタッフの長期的・安定的確保が可能になるわけだ。
 次に、売り手のネットワークがある。介護サービスには入浴、配食、看護、住宅改造、相談など実にさまざまなニーズがある。これらをトータルで提供するためには、それぞれ専門の技術を持った企業と手を結ぶ必要がある。同社では直営拠点のほかに、フランチャイズやアウトソーシングといったかたちで企業とタイアップしている。
 もうひとつが、買い手のネットワークだ。同社では97年6月、会員制の「ほっとはあと倶楽部」を設立した。現在、法人会員8社、個人会員約1,000人を組織している。
 人が介護に直面する時期は生涯に2回。両親の介護、そして自分自身が老いた時だ。このように介護を必要とする期間は限られているが、「ほっとはあと倶楽部」は、現在は介護の必要はなくとも、その時のためにあらかじめ情報を入手しておきたいと考えるプレ顧客までを含めてネットワーク化している。3,000円の年会費を支払うと、会員証を兼ねたクレジットカードが発行される。

「ほっとはあと倶楽部」の入会方法や特典などが書かれているパンフレット 「ほっとはあと倶楽部」の入会方法や特典などが書かれているパンフレット

「ほっとはあと倶楽部」の入会方法や特典などが書かれているパンフレット

 そして3つ目の情報化は、「ほっとはあと倶楽部」会員をはじめとする、介護に関心を持つ人々への情報提供である。
 ちなみに「ほっとはあと倶楽部」会員に無料で提供される基本サービスは、①フリーダイヤルでいつでも介護相談が利用できる「24時間電話介護相談」、②同社のサービス案内やすぐに役立つ介護情報を掲載した、年4回発行の会員誌『ほっとはあと通信』の送付、③税務や年金の問題について税理士・社会保険労務士などの専門家が応える「税金・年金電話相談」(それぞれ週1回、午後1?4時)の利用、④同社や全国各自治体が実施している福祉サービス情報などをFAXから引き出せる「FAXによる情報提供」、⑤生活全般にわたる介護用品、約800アイテムを掲載した年1回発行の通信販売カタログ『ケアショップほっとはあと 総合カタログ』と、購入時に利用できる3,000円分の割引券の提供、⑥保険期間1年間の交通事故、傷害保険の自動加入の6種類。①から⑤までが情報提供サービスだ。
 ①の「24時間電話介護相談」は介護福祉士、ソーシャルワーカー、看護婦などの専門スタッフが介護に関するあらゆる相談に応じるもので、平日の午前9時から午後5時までは「ケアショップほっとはあと」新宿店内の相談センターで、それ以外の時間帯は提携先のエージェンシーで受け付けている。ここでは「ほっとはあと倶楽部」会員のほか、同社と契約を結んだ健康保険組合の組合員からの電話も受け付けており、「父親が退院するのですが、家庭ではどのようなことに気をつけたらいいでしょうか」「介護保険制度について教えてください」といったさまざまな相談が、月に平均して約100件、寄せられる。
 ⑤の『ケアショップほっとはあと 総合カタログ』は健康保険組合などを通じても配布されており、発行部数は年間約10万部。売上構成は車椅子やベッドなどの耐久消費財で約70%、紙おむつなどの消耗品が残りの約30%を占める。注文は「ケアショップほっとはあと」で、フリーダイヤルで受け付ける。ほかに、在宅介護や在宅入浴の専門スタッフが注文をうかがい、商品を持参することもある。また、「紙おむつだということが外からわからないようにしてほしい」という要望があれば無地のダンボール箱を使用するというように、利用者の立場に立ったきめ細かいサービスを行っている。

「ほっとはあと倶楽部」の入会方法や特典などが書かれているパンフレット

「ほっとはあと倶楽部」の入会方法や特典などが書かれているパンフレット

アメニティを提供

 かつてブライダル・ブーム、ベビー・ブームを作ってきた団塊の世代が50代を迎え、両親の介護という問題を抱えはじめている。自分の欲求に忠実で、外食やレンタルなど外部のサービスを上手に使って快適な日常生活を手に入れてきたこの世代が介護者の立場に立ったことで、シルバー産業に求められるものも大きく変化するだろうと同社では考えている。「しかたがないからそうする」のではなく、仮に公的保険の適用範囲を超えても納得・満足のいくサービスを受けたいと考える人々の増加によって、シルバー・サービスへの期待は質・量ともに大きく広がるはずだ。また今後、公的保険の範囲内か外かにかかわらず、エンドユーザーが民間企業に直接サービスを依頼する方式が採用されることによって、エンドユーザーの利便性が向上し、サービス普及促進に弾みがつくことも十分予想される。
 エンドユーザーとの接点が増えれば、ビジネス・チャンスも増加する。しかも、「困っている時に助けてくれた」企業への信頼はことさらに深いはずだ。ここに、新たなビジネスが生まれる大きな可能性がある。
 「私どもはたまたま人生の一番後ろからビジネスを拓いてきましたが、最終的にはすべての人に、“健康”と“生き甲斐”を提供するのが目標です」と吉田氏は語る。ひとりひとりのエンドユーザーとのリレーションシップ・マーケティングを推進する中で、これを具現化する商品やサービスのかたちが、はっきりと見えてくるのだろう。

総合カタログにも掲載されている1食当たり320キロカロリーの「健康食320」。6食パックで届けられる。中には単身赴任の男性が利用しているケースもある 総合カタログにも掲載されている1食当たり320キロカロリーの「健康食320」。6食パックで届けられる。中には単身赴任の男性が利用しているケースもある

総合カタログにも掲載されている1食当たり320キロカロリーの「健康食320」。6食パックで届けられる。中には単身赴任の男性が利用しているケースもある


月刊『アイ・エム・プレス』1998年4月号の記事