CRを業務改革の大きな柱に

(株)伊勢丹

 (株)伊勢丹ではバブル崩壊後の厳しい状況の中、経営の建て直し、具体的には「利益を上げる体質作り」(営業本部 マーチャンダイジング統括部 商品政策担当部長 行本公二氏)を図る業務改革の大きな柱として“マーチャンダイジングの抜本的見直し”を掲げ、これを支援するものとして 1992 年から CR のための基盤整備を推進してきた。93 年 4 月には店頭の単品管理のための「新 MD システムⅠ」をスタート、これを 95 年 8 月には仕入れ・販売・在庫の各段階で単品管理ができる「システムⅡ」にバージョンアップし、現在は「システムⅢ」を稼働させている。一様ではない百貨店の仕入れ体系に合わせ、買い取り商品、NB(ナショナルブランド)の消化管理、両者の複合型の 3 タイプに分けて単品管理を行うシステムとした。また、現場でリアルタイムにデータを活用できるよう、分散処理型のクライアント・サーバー方式を採用している。同時に 94 年には組織を店舗別の事業部制からセントラル・コントロールを行う本部制に切り替え、全店で在庫情報を共有化し、発注作業を一元化する体制を整えた。
 「新 MD システム」の導入にともなって、同社では値札を JAN コードに変更。JAN コードを導入していない取引先については、JAN コードと同じ 13 桁、1段のインストアコードを発番、これを取引先と共通で管理する。
 同社の取引先は食品・雑貨を除き、約3,000社。現在、このうち JAN コード、および同社が発番する JAN仕様コードで単品管理、オンライン発注を行っているのは約 40 社で、その売上規模は年間 300 億円強。さらにその中で、POS データを共有して発注作業を自動化しているのは、靴問屋のシンエイ、インナーウェアのワコール、トリンプ・インターナショナルの 3 社である。


 最も早くパートナーシップを組んだのはシンエイ。たとえば本店におけるシンエイの商品の売上高は年間 10 億円を超え、多い時には 1 日に 700 足を売り上げる。1回の発注 が3,000足に上ることも稀ではなく、手作業ではその日のうちに作業が終わらない。この問題を解決するために、同社がシンエイに POS データを提供し、これに基づいてシンエイが商品を補充するという仕組みを採り入れたのである。ワコール、トリンプ・インターナショナルの両社とは、同社が開発したシステムを活用して SCM(Shipping Carton Marking)を実施、検品レスを実現している。今後、取引先と個別に合意を得ながら、徐々に単品管理対象商品を拡大していきたい考えだ。


 同社の粗利益率は 93 年に 0.27 ポイント、94 年に0.62 ポイント、95 年に 0.45 ポイント向上し、96 年には 27.62%となった。これは CR の導入が、単に、仕入れから販売、決済までのさまざまな場面におけるコスト、および人手の削減を実現したからではない。当初の狙いであった“マーチャンダイジングの強化”が達成された結果である。
 アパレルの中で最も CR を導入しやすく、その成果を短期間で発揮しやすいのは、インナーウェアやパンティストッキングなどの年間定番商品である。同社においても比較的このジャンルのシステム化が先行しているが、販売期間が短いファッション商品についても確実に成 は現れはじめている。
 その商品が売れ筋か死に筋かを、売場では並べてから 2 度目の土・日曜日で見定める。「売れ筋商品をその時点で生産しはじめたのでは遅いが、取引先自らが日々、POS データを把握していれば、補充に間に合うタイミングで生産に取りかかることができる」(行本氏)ため、売れ筋の欠品が減少した。また、商品マスターには売り上げ、在庫情報とともにシーズン発注数が登録されているので、バイヤーはこの情報をもとに売れ筋の補充、死に筋の処分を先手先手で行っていくことができる。「ベストセラー、ワーストセラーが明確になることによって、売れ筋を切らさず、死に筋を排除して、顧客にとって魅力的な売場を保つことが可能になった」(行本氏)。さらに蓄積された POS データは、翌年のバイイング・プラン に生かされる。
 業務改革は、今なお続行中。「真の成果が目に見えてくるのは、来年秋」(行本氏)と同社では見ている。


月刊『アイ・エム・プレス』1997年6月号の記事