お客様のニーズに的確に対応し、経営理念の「お客様第一」を実践

安田火災海上保険(株)

 外務員が営業・サービス活動の要を握り 、契約希望者と本社が直接契約関係を結ぶ生保会社と異なり、損保では契約のほとんどが代理店扱いである。安田火災海上保険(株)の場合も同様で、全契約の約 94% が全国約7 万7,000軒の代理店を通じたもの。残りの約6%のうちほとんどは、将来代理店を開業するために3年間の研修を受けつつ、営業活動をしている研修生によって獲得される契約だ。
 しかし契約者は、必ずしも代理店と定期的にコンタクトをとっているとは限らない。地方では代理店と契約者が“ご近所付き合い”をしているケースも少なくないのだが、東京や大阪などの大都市圏では「契約までに 1 ~2度顔を合わせただけ」というケースがむしろ圧倒的に多いのが現状だ。そこで、保険に関する疑問点、不明点、また、保険金の請求などの緊急の用件が生じると、直接最寄りの店舗や本社に連絡をする契約者が多い。
 保険は物販と異なり、文字通り“信用”がなければビジネスが成り立たない。「証券が届かない」「代理店から詳しい説明がない」などの、いわゆる“苦情”を速やかに解決し、経営理念である「お客様第一」を実践するための手段として、同社では 1979年に顧客サービス管理室を設け、「苦情処理制度」をスタートさせた。
 “苦情”と“問い合わせ”の境目は微妙。個々のテレコミュニケーターにその判断をまかせている企業が多い中で、同社では“苦情”の定義を「契約者・代理店あるいはその他の第三者から強い不信・不満をもって提起される申し出で、適切な対応を怠った場合、問題が大きく発展するおそれのあるものを言う」と明確に定めた。また、その対応方法、処理方法についてもマニュアル化し、正当・公平な対応を実現したのである。
 さらに1987年には顧客サービス管理室の機能を拡大する形で、東京・新宿の本社ビル1 階にお客様サービス室を開設し、対面と電話による本格的な相談業務を開始した。代理店を経由した契約関係にあっても、 100 を超える商品についてのあらゆる質問に、迅速、正確に応えるのが本社の役割であると考えてのことだ。「わざわざ4階の営業店にまで足を運んでいただくのも申し訳ない。1階で用件が済むようにしよう」(お客様サービス室・室長・角谷孝敏氏)と考えてのことだ。1980年には大阪に保険相談室を開設。お客様サービス室、保険相談室とも、平日の午前8時45 分から午後 5 時 30 分まで営業している。また、これとは別に事故の連絡を 24時間365 日受け付けるフリーダイヤル窓口を1986年に開設、その機能を強化・拡充する形で「安田火災24時間ホットライン」を 1989年にスタートさせている。
 1994年度に受け付けた相談件数は、お客様サービス室が2万4,511件、近畿相談室が6,324件、ホットラインが18万5,023件。商品別で見ると、 2~3月の卒業旅行シーズンに集中する海外旅行傷害保険に関するものが1位、 「車を譲り受けたので名義変更したい」「車を廃車にしたので解約したい」など自賠責保険に関するものが2位、積立型の保険で可能な貸し付けサービスに関するものが3位となっている。阪神大震災後、同社をはじめ、損保業界では地震保険の改定を行い、その広告を全国紙で展開したが、この保険に関する問い合わせが4位に上がっている。今年1月、新聞広告を打った当日から 3 日間は、問い合わせの電話は 1 日60件以上に上り、スタッフはその対応に追われたという。
 対応に当たる専任スタッフは、東京6名、大阪が2名である。営業店勤務を経験し、実務・知識に精通したスタッフばかりであるが、均質な応対を実現するために、定型的な質問とその応対方法を A4 判 1枚にまとめたものを各スタッフの手元に配布している。「安田火災24時間ホットライン」は子会社に運営を委託、常時30名がセンターに待機している。
 これらに寄せられた問い合わせ・要望は、フロッピーディスクに集計・保存。これを 1 カ月単位でお客様サービス室が集約、レポートにまとめる。 この情報は、部横断の組織である「CS 向上委員会」の月例ミーティングに提出され、即座に解決策が講じられている。窓口に寄せられる契約者の声は、パンフレットの記載方法の変更などに生かされてきた。
 この秋には、生保・損保の相互乗り入れが開始される。同社では他社と提携関係を結び、生保業界に参入する計画を進めているが、同時に生保に関する知識を蓄積、相談に対応できる体制づくりを急いでいる。これまでに培った顧客との信頼関係は、この大きな変動期を事もなく乗り切る原動力となるはずである。

対面と電話でお客様の問い合わせに対応

対面と電話でお客様の問い合わせに対応


月刊『アイ・エム・プレス』1996年6月号の記事