お客様に満足していただく商品・サービスの提供を目指して

(株)ヤクルト本社

 ヤクルト本社が「お客さま相談センター」を全支店に設置したのは 1990年6 月。それ以前は、生活者からの相談には本社広報室の消費者担当者が対応していたが、より多くの“生きた情報”を収集し、マーケテイング活動に反映させるために、生活者対応部門の独立、フリーダイヤルの導入に踏み切ったのである。ヤクルト・グループは古くから、乳製品、化粧品などを訪問販売方式で販売してきた。従って「お客さま相談センター」には、商品に関する相談だけでなく、訪問販売員の対応についての意見も数多く寄せられる。
 ヤクルト・グループは、本社(国内 9 支店)を中心にして、ヤクルト商品を販売する販売会社 146社などで構成されている。各販売会社には、ヤクルトレディ(乳製品)、ヤクルトビューティ(化粧品)と呼ばれる女性販売員(合わせて約10 万人)が組織され、訪問販売の要になっている 。スーパーなどの小売店への卸しや、自動販売機による販売は、別途各販売会社の直販ルートを通じて行われている。
 現在、「お客さま相談センター」は本社の本・支店、工場および販売会社に設置されているが、スタッフ数は総計で、担当責任者 161 名、テレコミュニケーター 316 名の総勢477名に上る。全国共通のフリーダイヤル番号に寄せられる電話は、自動的に発信者の最寄りの支店の相談センターへ接続される。
 相談件数は、全体で 1 日およそ 500件。 1995 年度には年間で 12万 5,000件の相談があった。しかし現在のところ、各販売会社の通常ダイヤルへの問い合わせが全体の約80%を占め、フリーダイヤルによる相談は約20%にとどまっている。このほか手紙による相談が月におよそ 20通程度ある。
 現在、同杜では商品のパッケージにはフリーダイヤルを明記していない。フリーダイヤル番号告知は新聞、雑誌などの広告やテレビCMで行っている。しかしながら「将来的には、すべての商品にフリーダイヤルを表示したい。そのための受付体制の拡充に取り組みたい」(広報室・お客さま相談センター・課長・東郷桂治郎氏)としている。

 フリーダイヤルの受付時間は平日の午前9時から午後5時半まで。 休日は営業時間を知らせるテープを流している。生活者の便宜を図り、今後は夜間の受付体制を整備することも検討しているそうだ。
 一方、販売会社で受け付けた相談内容は、その都度一定の書式に記入される。このシートは各支店に集約、内容別に集計され、データベースに入力される。データは月ごとに管轄の支店に報告され、管理、販売活動に活かされるとともに、半期に1度まとめられる報告書によって、本社の担当事業部へフィードバックされる。
 相談内容は、商品購入後の相談が70%以上を占め、購入前の相談は 30%弱、内容別では「問い合わせ」が約 30%、「クレーム」が約30%、「申し込み」 が約20%となっている。この「申し込み」とは、訪問販売で売られる商品の新規契約申込 ・契約内容の変更などを指す。「問い合わせ」の内容は、①商品の販売価格、②販売会社の電話番号、 ③商品の成分内容 ・特性(商品間の相違について ・菌の効果について)などである。「クレーム」のうち約 30%は商品の受け渡しの行き違いといった訪問販売の現場に関すること、約 30% が自動販売機に関すること、残りが商品や集金に関することとなっている。フリーダイヤル導入後は、導入前と比べると、「問い合わせ」が多くなったという。
 相談者は、 主婦層が圧倒的に多い。だが、自動販売機に関する問い合わせは男性に多く、広告についての問い合わせは若年層に多い。また、商品の成分内容・特性についての問い合わせは、都市部の若年層に集中しているという。

はっ酵乳「ジョア 」のストローは引っ張ると伸びるタイプで、片手で簡単に取り出せる。これも生活者から寄せられた情報をもとにした改善例

はっ酵乳「ジョア 」のストローは引っ張ると伸びるタイプで、片手で簡単に取り出せる。これも生活者から寄せられた情報をもとにした改善例

 生活者からの相談は、 商品改善に大いに役立てられている。はっ酵乳「ジョア」のストローをパッケージに取り付け、引っ張ると伸びるタイプにしたのも、生活者から寄せられた情報がもとになっている。また 「野菜ジュース」の塩分を控えめにした例もある。
 同社では“クレーム処理”という言葉は使わない。「お客さまを大切に。まごころをこめてしっかりと」をモットーに、どんな意見も貴重な情報であるという認識に基づいて、誠意をもって1件ずつ対応することを基本姿勢にスタッフの教育に当たっている。また、年3 回ほどのペースで各支店で勉強会を聞き、相談のケーススタディを研究したり、対応のレベルアップを図っている。
 今後の課題として同社では、 情報分析のスピードアップ、情報活用促進のための社員の教育を挙げている。「相談件数の多い分野は、私たちの企業活動が活発な部分であることは間違いありません。しかし、必ずしも相談件数と情報の重要性は比例しません。重要な情報を的確にピックアップすることによって、皆様に満足していただく商品・サービスを提供することが、相談センターの究極の目標です」と広報室・お客さま相談センター・課長 ・東郷桂治郎氏は語る 。


月刊『アイ・エム・プレス』1996年6月号の記事