制御機器トップメーカーが、通信販売で即納のニーズに対応

オムロンツーフォーサービス(株)

 制御機器市場で40%のトップシェアを誇るオムロン(株)は、早くからダイレクトマーケティング手法を営業活動に効果的に取り入れてきた企業である。このオムロンが、94年8月にオムロンツーフォーサービス(株)を設立し、制御機器商品の通信販売を開始した。
 従来オムロンの制御機器販売は、特約店を通じて行われてきた 。しかしメーカー→特約店→ユーザーという経路をたどると、商品の納入までにどうしても時聞がかかる。「明日届けてほしい」といったユーザーのニーズには、なかなか対応できない。オムロンでは特約店に呼びかけて、この対応策を依頼したが、体制や意識にもばらつきがあるため、特約店経由の流通で全ユーザーの即納ニーズに対応することは難しいと判断した。そのため94年4月に、 CS向上のためのプロジェクトを発足し、メーカー自らが専門の別会社を設立して、このニーズに応える体制を整えるに至った。別会社にした理由のひとつは、受注対応時間が、オムロンの労務規定による勤務時間体系に合わなかったためである。
 事業開始に当たっては、オムロン東京支社管轄内のユーザー4万5,000社、 8万人のデータベースから 6万5,000人を抽出。オムロンが年4回発信している新製品情報などを掲載した情報誌『ふれっしゅぼっくす』に、サービス開始の案内を同封した。またこれと同時に FAX情報検索誌や日経産業新聞などに広告を出稿し、サーピスの詳細を FAXで提供することを告知した。
 結果として、オムロン東京支社のデータベースを活用した6万5,000通のDMでは、約5,000件を会員として獲得、一方、広告に基づくFAXへのアクセス件数は300件で、このうち 120件が1年のうちに会員登録を行った。ちなみに会員システムとは、データ登録をすれば、通常は夕方5時までの受付時聞が6時30分まで延長されるほか、専用フリーダイヤルで注文ができるといった特典が提供されるもの。登録料は無料だ。
 ここでサービスの概要を説明しよう。同社が取り扱う商品は、リレー、スイッチなど制御機器商品の標準品、準標準品。その仕様は標準品だけでも 3,000 をはるかに超えている。このうち売り上げの80% をカバーする 9,000アイテムの在庫を常備し、即納に対応する体制を整えている。注文は1個から、電話かFAXで受け付けている。注文の約90% は電話によるもの。これは緊急を要するというユーザーの事情から見て、即時に納期を確認できる電話の方が、利便性が高いためと言えるだろう。受注データは即コンピュータに入力し、 30分ごとに配送伝票として出力。宅配便を利用して、通常、平日の午前中の受注分は翌日ユーザーに届けられる。 5,000円以上の注文であれば送料は無料だ。さらに急を要するユーザーには、午後3時までの注文分を翌日の午前 10時までに届ける「24サービス」、注文後90分以内に出荷し、即日納品する「Q24サービス」のメニューを用意している (地区限定・有料)。
 クイック・デリバリーを実現できるのは、全国に張り巡らされた宅配便のネットワークを利用していること、さらに同社が、宅配便の拠点が集まる大田区平和島に立地していることによるところが大きい。
 カタログは、ユーザーの手元にあるオムロン発行の製品カタログが活用されている。 1,500ページにもおよぶ総合カタログは2年に1回、製品グループ別のカタログは年1回の発行。オムロンから特約店を通じて送付するケースと、直接ユーザーへ送付するケースがあるが、後者については、オムロン東京支店のデータベース管理を請け負うこととなったオムロンツーフォーサービスに、業務をシフトしていく計画だ。
 このデータベースには、会社マスターと個人マスターがあり、個人情報としては氏名、会員コードなどの基本データに加え、カタログ送付の記録、購買履歴、展示会来場実績、商談の状況の他、年4回送付している情報誌に同封しているハガキの返信記録などが盛り込まれている。東京支店のデータベースは、非常に細かく整備されており、これが通販事業を始めるに当たって大きな威力を発揮した。
 1年間で、全体の30%が異動などにより変わってしまうという個人データベースのメンテナンスは、返信ハガキによって行われているが、非常に高い確率で宛先変更の連絡があるという。また、カタログと同送するアンケートには5 ~10% 、その他送付物に同封しているコミュニケーション用のハガキには、 15 ~20% の返信がある。こうした双方向のコミュニケーションにより築いた信頼関係が、精度の高いデータベースに反映されているわけだ。

オムロン東京支社管轄のユーザーに、DMで「即納サービス開始」を告知

オムロン東京支社管轄のユーザーに、DMで「即納サービス開始」を告知

 現在、通信販売の平均客単価は2万~3万円。事業開始当初は、特約店がカバーしきれない小口ユーザーの利用が多いだろうと見込んでいたが、実際は大口ユーザーが即納の必要に応じて利用するケースが多い。また、特約店からの利用も少なくないという。
 メーカーが、ユーザー対象に通信販売を行う場合、代理店や特約店など既存の流通チャネルからの反発が危倶されるところだが、オムロンのケースを見る限り、その心配はないようだ。通信販売は、これまで特約店が対応しようにもできなかった即納というサービスを実現するものであり、結果的にユーザーの満足を得ることにつながっている。同社としても、大口の需要には原則として特約店が対応するものと考えており、互いの住みわけ、共存が成立しているのである。
 今後の課題としては、事業を採算ベースに乗せることはもちろん、在庫アイテム数の拡大、サービスエリアの拡大などが挙げられる。しかしサービスエリアの拡大は、オムロン各支店のデータベース管理が一元化、統合化されていないため、東京支店と同様に整備していくことに大変な手間と時聞が必要であり、一朝一夕にはいかないと見ている 。当面は、東京支店管内での会員数を増やすと共に会員のランク付けを行い、これに応じたオファーやコミュニケーションを提供することで足元を固めていくことを目指している。


月刊『アイ・エム・プレス』1996年2月号の記事