コンタクトセンター最前線(第147回):新商品は年間7,000アイテム お客さまの声を開発に生かすダイナミックな好循環を創出

(株)バンダイ

キャラクターグッズやゲーム、模型などを手掛け、子どもから大人まで幅広い世代に支持される玩具メーカーの(株)バンダイは、問い合わせなどに対応するコールセンター「相談センター」を運営。年間に発売する新商品だけでも7,000アイテムに上るため、コールの内容はさまざま。お客さまの声をモノづくりにフィードバックするという重要なミッションも担っている。

コールセンター業務のスタートは1968年

 玩具メーカーの(株)バンダイは1950年に設立され、1980年代には、アニメ作品「機動戦士ガンダム」に登場する創作のロボットをプラスチックモデルにした“ガンプラ”が空前のヒット。1990年代には、人気アニメ作品「美少女戦士セーラームーン」の関連グッズや、“デジタル携帯ペット”というユニークなコンセプトを打ち出した携帯型ゲーム「たまごっち」が、大ブームを巻き起こした。現在は、(株)バンダイナムコホールディングスを持株会社とするバンダイナムコグループの傘下にある。
 同グループの「戦略ビジネスユニット(SBU)」と呼ばれる事業領域には、① 玩具や模型などの製造・販売を行う「トイホビー」、②ゲームソフトや業務用ゲーム機などの企画・製造・販売および映像・音楽作品の制作などを行う「コンテンツ」、③アミューズメント施設などの企画・運営を行う「アミューズメント施設」の3つがあるが、バンダイは、専ら①の事業展開を担う主幹企業と位置付けられている。
 同社が受け持つ「トイホビー」の事業領域は、男児向けの「ボーイズトイ」、女児向けの「ガールズトイ」、大人向けの「コレクターズ」、ガンプラなどの「ホビー」というように、さらに10の事業カテゴリーに細分化されている。アニメ番組のキャラクターグッズなどの需要は、放送期間に大きく左右されることもあり、商品のライフサイクルは数カ月から1年程度と概して短く、年間7,000アイテムもの新商品を発売している。
 同社においてコールセンター業務がスタートしたのは1968年のことであり、当時は販売店や卸問屋からの問い合わせ対応が主な役割だった。その後、国内では、ユーザーの声を商品開発に取り入れる狙いから、多くのメーカーがコールセンターを運営するようになり、同社も、インハウスの「相談センター」を開設するなど、1980年代にお客さまの電話を受け付けるコールセンター業務を本格化させている。
 現在の「相談センター」は、新商品の評価や安定的な品質の維持といった役割を担うプロダクト保証部の管轄下にある。玩具メーカーである同社にとっては極めて貴重なお客さまとの接点であり、お客さまの声を全社にフィードバックするVOC活動にとどまらず、新商品の開発段階で、お客さまの視点からデザインをチェックする「デザインレビュー」の工程に参画するなど、同社のモノづくりにも深くかかわっている。

国内4カ所のセンター施設 スタッフは総勢120人

 同センターのスタッフは、総勢約120人。電話応対などオペレーション業務には、①「東日本相談センター」(千葉)、②「東京相談センター」(東京)、③「静岡相談センター」(静岡)、④「西日本相談センター」(大阪)の国内4カ所で対応。本社のプロダクト保証部には、全体的な管理機能を担う相談センターチームが置かれ、約10人の社員を配置している。各センターの人員規模を見ると、①が約50人と最も多く、②③④はいずれも約20人。センターの運営業務は、③を除き、グループ会社に委託している。施設は、①②はグループ会社側が、③④は同社側が、それぞれ確保している。
 各センターの組織体制を見ると、マネージャークラスのセンター長を責任者に、高位から順に、リーダー、サブリーダー、リーダーアシスタントという役職者が置かれ、一般コミュニケータのマネジメントなどを担っている。一般的なコールセンターのスーパーバイザー(SV)に相当する役職がサブリーダーであり、1人のサブリーダーが、一般コミュニケータ8 ~ 10人のマネジメントを担っている。コミュニケータの雇用形態は契約社員で、30代後半から40代の女性が中心という。
 同社の事業拡大とともに順次、受付番号を増設してきた経緯があり、現在の受付番号は図表に示した5番号。番号ごとに特定のセンターが担当する仕組みになっており、各種玩具をはじめとする事業領域全般にかかわる問い合わせなどに①④のセンターが対応しているほか、カードゲームの問い合わせには①が、PCやモバイルをデバイスに利用する玩具の問い合わせには②が、プラスチックモデルなどの問い合わせには③が、菓子・食品事業のうち、ケーキの問い合わせには①④が、それぞれ対応している。

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 なお、プラスチックモデルなどの問い合わせへの対応を担っている③の静岡相談センターについては、前述のように、運営業務をグループ会社に委託しておらず、4センターのうちで唯一、インハウスの形態を採っている。これは、プラスチックモデルの愛好者に“ガンプラ”などのパーツを1点単位で販売する通信販売の受注窓口の機能を担うなど、業務の性格がほかの3センターと大きく異なるためで、センターは工場に併設された施設で運営され、プロダクト保証部ではなく、事業部門が直接、管理を担っている。

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同社の相談センターはお客さまとの貴重な接点であり、VOC活動はもちろん、モノづくりにも深くかかわっている

CRMシステム「Voice」と連携した2つの閲覧用サイト

 電話受付時間は、営業日はいずれも午前10時から午後5時まで。ただし、プラスチックモデルにかかわる問い合わせの受付番号については、午前10時から午後4時まで。休みは、事業領域全般の問い合わせ受付番号については、祝日と同社の夏期・冬季休業日で、残る4番号は、これに加えて土日も休みとしている。
 なお、事業領域全般の問い合わせ受付番号など2番号には、NTTコミュニケーションズ(株)のナビダイヤルを採用。これは、①④の2センター間で、コミュニケータの稼働人数などに応じて、着信数をコントロールできることなどから採用したもので、運営の効率化につながっている。
 4カ所のセンター運営を支えるITインフラでは、コールセンターシステムに沖電気工業(株)のCTstageを採用する一方、CRMシステムについては、同社が「Voice(ボイス)」と呼ぶ、独自開発のシステムを運用している。「Voice」は、SAP社のERP向けパッケージソフトのR/3(アールスリー)と連動したシステムで、2007年に運用を開始したが、保守運用の省力化などを図るため、2012年の改修で全面クラウド化。同センターが受け付ける問い合わせなどの履歴をデータ化し、内容に応じて150を超える小分類に仕分けするかたちでマネジメントを行っている。
 こうした履歴データは、「Voice」とシステム連携している「VOICE お客様の声ポータル」と「Web照会」という2つのWebシステムを介して利用されている。前者は、イントラネット経由で全社員が利用できるもので、履歴データを検索できるほか、商品カテゴリー別や問い合わせ内容別のランキング形式などで閲覧できる一種のBIツールと言える。また後者は、イントラネットを利用できないグループ企業のスタッフでも、履歴データをインターネット経由で閲覧できるようにしたもの。(株)プラスアルファ・コンサルティングの「見える化エンジン」を活用しており、日次のバッジ処理により、Voiceのデータベースに蓄積されたデータを翌日には閲覧できるようにしている。

小さな子どもでも話しやすいように細心の注意を払う

 同センターの受付チャネルには、電話をはじめ、公式Webサイトの問い合わせフォーム経由のeメール、郵送や宅配によるはがき・手紙・小包、ファクスがある。小包は、修理依頼などで商品を同梱するケースがあることから一定の件数がある。
 ③の「静岡相談センター」を含む4センターの全チャネル受付件数は、ここ数年は年間約40万件の水準で推移しているが、2011年度には、テレビ番組「仮面ライダーフォーゼ」の関連商品の販売が好調だったことに伴い受付件数が伸び、約50万件となった。年間を通じた受付件数の推移を見ると、クリスマスや正月がある12月と1月に受付件数が増加する傾向があり、両月とも月間約4万5,000件の水準となっている。
 2012年度の年間約40万件の受け付けをチャネル別で見ると、電話が7割と最も多く、次いで小包が2割弱、eメールが1割などとなっている。
 受付内容は「苦情」「問い合わせ」「修理」「通販」の4つに区分しており、苦情、問い合わせがそれぞれ4割強という。苦情と問い合わせの識別については、お客さまからの申し出に不満や非難のニュアンスがあれば苦情に区分する方針を採っていることから、一般的なメーカーのコールセンターよりも「苦情」の割合が高くなっている。
 受付内容については、当該商品の特性などによって、「合体がうまくいかない」「外観の仕上げが気になる」というように、自ずと異なるため、多岐にわたるという。前例がなく、対応に苦慮するようなケースでは、同センターのお客さま対応の指針である「迅速」「正確」「誠心誠意」の原則に立ち返って対応方法を判断するようにしている。
 特に同社の商品は、直接的なユーザーが子どもであることも多いため、幼い子どもに代わって母親もしくは父親がセンターに電話をかけてくるケースも少なくない。
 こうした電話への対応では、まずは当該商品を特定することが、ポイントのひとつ。しかし、「仮面ライダーウィザード」の関連商品だけでも実に約2,300アイテムに上るという中、商品を特定するのは容易なことではない。そこで同社では、商品やパッケージに識別用の7桁の番号を記載し、これにより商品を特定しているという。
 また製造物責任にかかわるような、「子どもが玩具で遊んでいて、けがを負った」などのケースでは、実際にけがを負った瞬間を周囲の大人が見ておらず、原因の特定が困難であることが少なくない。そのため、同社側のスタッフがお客さま宅に急行し、小さな子どもでも抵抗なく話せるように細心の注意を払いながら、直接、状況を聞き取るようにしている。

お客さまの声の重要性について海外パートナー企業に啓発

 同センターの運営状況を管理する重要業績評価指標(KPI)には、平均応答率や、1,500人の利用者を対象に四半期ごとに実施する郵送アンケート調査の満足度・不満足度などがある。2012年度には、平均応答率が約94%で対前年度比22ポイント上昇したほか、郵送アンケート調査で不満を訴えた割合が1%以下と、前年度の半分以下の低い水準にまで減少するなど、大きな改善が見られた。
 コールセンター業界専門誌を発行する(株)リックテレコムのコンピューターテレフォニー編集部主催の「コンタクトセンター・アワード2013」では、同センターの履歴データを活用した公式Webサイトのコンテンツ改善の取り組みが、「審査員特別賞」を受けるなど高く評価されている。
 コミュニケータの人材育成では、新人が対象の座学とOJTで構成される約1カ月間のカリキュラムのほか、一般のコミュニケータの応答スキル向上などを目的に、日ごろの仕事ぶりを評価して優秀者を表彰する「チャレンジアワード表彰制度」にも取り組んでいる。
 また、前述のCRMシステムなどを活用したVOC活動も極めて活発であり、積極的な情報共有の取り組みが目を引く。各事業部の担当者を交えて開催される「VOC連絡会」を月次で開催しているほか、同センターの運営状況を定量的・定性的にまとめた月報を「VOICE お客様の声ポータル」を通じて全社的に共有。さらには、他社のコールセンター事例などを紹介するメールマガジンを全社員に配信している。
 加えて、商品を開発・製造するパートナー企業の関係者を招いた品質管理の勉強会でも、同センターの取り組みを積極的に紹介。近年では、これらの勉強会への中国などからの参加も目立つという。同社ではこうした海外からの参加者にも、コールセンターに蓄積されたお客さまの声の重要性を認識してもらえるよう、啓発に努めているそうだ。

「萬代不易」の創業理念をセンター業務を通じて実践

 同センターでは、Webサイトによるコミュニケーションではなし得ない人と人との直接的なコミュニケーションを担う部門として、センター運営における各種KPIのさらなる向上を目指す一方で、お客さまの声を商品開発やサービス改善に役立て、玩具メーカーである同社の価値を一層高めるダイナミックな好循環を生み出していきたいとしている。
 同社の創業理念であり、社名の由来でもある「萬代不易(ばんだいふえき)」という言葉には、「いつの世でも人びとの心を満たす商品を作り、やむことのない企業の発展を願う」との意味がある。同センターでは今後も、コールセンター業務を通じて、こうした理念を実践していく考えである。


月刊『アイ・エム・プレス』2014年2月号の記事