コンタクトセンター最前線(第146回):お客さまへの“真心の対応”で販売を支援し、モノづくりのヒントをつかむ

ユニ・チャーム(株)

生理用品や紙おむつなどの分野で、ヒット商品を次々と世に送り出してきたユニ・チャーム(株)では、1986年からお客様相談センターを運営。“真心の対応”を通じて、問い合わせやクレームを寄せたお客さまをロイヤル・カスタマーへと引き上げる一方、お客さまとのやり取りからモノづくりのヒントをキャッチすることで、商品開発にも寄与している。

それまでになかった商品で新たな市場を開拓

 ユニ・チャーム(株)は、1961年に前身である大成化工(株)として設立された。建材メーカーとして出発したが、1963年には、当時はまだ普及していなかった生理用ナプキンに進出。1974年にユニ・チャームに社名を改め、以降、生理用品で培った「不織布・吸収体」の加工技術を生かし、高級化粧パフ、ベビー用の紙おむつなど、次々とヒット商品を世に送り出してきた。
 現在は、紙おむつなどの「ベビーケア」をはじめ、生理用品などの「フェミニンケア」、ウェットティッシュなどの「クリーン&フレッシュ」、大人用紙おむつなどの「ヘルスケア」、ペットフードなどの「ペットケア」という大きく5つの事業を展開。商品ラインナップは、業務用も加えると、アイテム別で400種にも上り、暮らしを便利に快適にする「ライフサポートインダストリー」としての独自の地位を築いている。
 「第一級の商品とサービスの創造」という理念に象徴されるように、それまでになかった独創的な商品を開発し、新たな市場を開拓してきた同社において、市場の拡大には常に、商品の使用方法や価値をお客さまに伝えるコミュニケーションが必要とされてきた。そのため、広告宣伝やプロモーションによる商品認知の拡大や価値訴求と同時に、お客さまから寄せられる使用方法などに関する問い合わせへの対応を重視。紙おむつの需要が急激に伸びつつあった1986年から、お客様相談センターを運営してきた。
 また近年では、1984年の台湾における現地法人の設立を皮切りに、海外展開を加速。アジア、中東などに約20社の現地法人を展開するに至っている。現在、同社の紙おむつや生理用品は世界80以上の国と地域で販売されているが、こうした進出先の国々におけるコールセンターの運営にも注力。すでに中国など5カ国に日本で長年をかけて培ってきた運営ノウハウを移転することで、スムーズなセンター立ち上げと高いクオリティのお客さま対応を実現している。

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お客様相談センターでは、約30人のアドバイザーがお客さまからの電話に対応している

2つのチームを編成アドバイザーは全員が女性

 同社のお客様相談センターは、1986年の開設以来、インハウスの運営形態を採っており、現在は、東京都港区の本社内に設置。ベビーケア、フェミニンケア、クリーン&フレッシュ、ヘルスケアの4事業に関する電話、eメール、手紙・はがきに対応している。スタッフ数は、センター長をトップに約40人。このうち30人程度が電話の一次対応などを担うアドバイザーとなっている。
 アドバイザーはベビーケア、フェミニンケア、クリーン&フレッシュの3事業にかかわる電話やeメールに対応する相談ダイヤルと、大人用紙おむつなど介護用品のヘルスケアに対応する「ライフリーいきいきダイヤル」という2つのチームに分かれている。両チームには、ほぼ同数のアドバイザーを配置。女性のお客さまからの問い合わせが、生理や軽失禁といった女性に特有なデリケートな内容に及ぶことがあることに配慮し、全員が女性となっている。
 このほか、センター長を補佐するマネージャー兼SVが1人。また、ベビーケア、フェミニン、クリーン&フレッシュ、ヘルスケアという4つの商品カテゴリーごとに、より専門的な商品知識を有し、二次対応などを行う商品担当を配置している。
 受付電話番号は、これら4つの商品カテゴリーごとに分かれており、万一、不測の事態でコールが集中しても人員増で対応できるように、回線数にはキャパシティーに余裕を持たせている。いずれの番号も「1人でも多くのお客さまのご意見をお聞きしたい」との経営判断から、NTTコミュニケーションズ(株)のフリーダイヤルを採用。1988年から順次、導入を進め、例えば、ベビー用品の番号は、商品名の「ムーニー」にちなみ、下6桁を「192862」、すなわち「育児(いくじ)はムーニー」の語呂合わせとするなどお客さまが親しみやすいように配慮している。
 なお、相談ダイヤルのアドバイザーは、軽失禁・介護用品を除く3つの商品カテゴリーすべてのコールに対応しているわけだが、商品カテゴリーごとに電話番号が異なるため、各アドバイザーは電話に出る前にいずれの商品カテゴリーに関するコールかを認識し、スムーズに対応することができる。
 お客さまの個人情報や応対履歴は、「スマイルシステム」と呼ばれる独自のCRMシステムによって一元管理している。それぞれのコールを、内容に応じて分類した上で、データベース化。お客さまの声やアドバイザーの応答内容はテキストベースで登録している。
 電話の受付時間は、4番号とも平日の午前9時30分から午後5時まで。公式Webサイトのほか、各商品のパッケージに受付番号を明記するなどして周知を図っている。

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お客様相談センターの電話暗号はWebサイトはもちろん、個々の商品パッケージにも記されている(写真左)/商品パッケージにはフリーダイヤルの番号が語呂合わせとともに表示されている(写真右)

受付件数全体の5%が感謝や賞賛の声

 電話やeメールの受付状況を見ると、2012年度における4番号を合わせた受付件数は、約5万件。ここ数年は全体の件数に大きな変動はないが、近年のトレンドとしては、ベビーケアの受付件数が減少する反面、高齢者の介護などに関係するヘルスケアが増加しており、国内における少子高齢化の進展を反映している。
 受付件数の季節的な推移を見ると、冬場には、マスクに関する問い合わせが相次ぐことから、受付件数全体が、通常より増える傾向にある。また、1日を通じた受電件数の推移を見ると、午前の受付開始直後の時間帯にコールが集中する傾向があり、特に高齢層からの電話が目立つという。
 電話やeメールを寄せるお客さまの男女比は、3対7で女性が多い。ただし近年では、男性が増加傾向にあり、中でも介護用品のヘルスケアに関しては、男性からの問い合わせが増加している。
 内容別に見ると、問い合わせが全体の約80%を占める。クレームが15%でこれに続くが、実際に商品に不具合が認められるものはごくわずかで、ほとんどが使用方法などに起因するもの。残る5%は、感謝や賞賛の声など、ライフサポートインダストリーである同社ならではの内容となっている。
 アドバイザーの電話応対では、適切でわかりやすい応答を心がけており、①アドバイザーによる通話冒頭の名乗り、②お客さまの主訴の確認と復唱、③理解してもらえたかの確認、④通話を切る前の名乗り、といった基本を励行している。なお、アドバイザーは全員が消費生活アドバイザーの有資格者であり、特にヘルスケアを担当するアドバイザーは、介護職員初任者研修(旧ホームヘルパー2級)の有資格者でもある。専門性の高い知識をベースとしつつ、お客さまのコールに対応する際には、商品を実際に手に取りながら使用方法を説明するなど、お客さまと同じ目線に立った“真心の応対”を目指している。
 ヘルスケアに対応するチームであるライフリーいきいきダイヤルでは、商品に関する内容に限定せず、介護に関する相談を広く受け付けており、チームが対応するコールの約3割に上る相談のコールには、応答時間が30分に及ぶようなケースも少なくないという。
 このほか、受付チャネルの内訳を見ると、電話が約93%と大半を占め、公式Webサイトの問い合わせフォーム経由のeメールが約5%、残る約2%が手紙・はがき。なお、eメールについては、アドバイザーが作成した文面を各商品担当がチェックした上で返信するフローとしている。

センター業務を標準化ISO10002規格に準拠

 同センターでは、業務の標準化を進めてきた経緯があり、2002年からJISZ9920規格に準拠した苦情対応マネジメント・システムを運用。2006年からは、ISO10002規格に準拠するマネジメント・システムに改訂し、今日に至っている。こうした業務の標準化には、応答品質の属人的なばらつきを抑え、全体のレベルを底上げすることに加え、他部門との役割分担や責任体制を明確化する狙いもある。
 またセンター運営のKPIでは、応答率は85%に設定しているが、2013年度上期はこれを大きく上回る約93%を達成。お客さまの声を生かした商品の改善提案や新商品のアイデア創出を促すため、商品カテゴリーごとに同センター側の提案件数や、提案が実現した件数もKPIとして採用、2013年上期には前年を10%上回る成果を上げている。
 ただし、同センターの電話受付時間は平日の昼間に限られていることから、同センターの問い合わせ対応業務を補完する機能として、公式WebサイトにFAQを掲載するなどインターネットを通じた情報発信にも注力。応答履歴をベースに、マーケティング部門が新たなFAQのコンテンツを継続的にアップすることで、利便性の向上を図っている。

経営トップが出席するアドバイザーの慰労会

 人材マネジメントにおいては、新人向けに座学とロールプレイを含めて約3カ月のカリキュラムを組んでいるほか、年2回のペースで外部講師を招いて話法や文章の書き方をテーマにフォローアップの講習会を企画している。このほか、新製品が発売される春季と秋季には、2回に分けての勉強会を開催。これは新商品の発売前に充分な情報を周知・共有するのが目的で、アドバイザーが電話応対で戸惑うことなく、自信を持って対応できるよう配慮している。
 このほか、アドバイザー各自の応対スキルや日ごろの業務を評価する目的で、お客さまを対象にしたアンケート調査を年2回実施。同センターを利用したお客さまに協力を依頼する手紙を送り、応対の評価をはがきで回収、結果をアドバイザー各自にフィードバックしている。また、外部企業に委託しての“ミステリーコール”も実施し、多様な角度からの評価に努めている。
 なお同社では、経営層と各事業部門のコミュニケーションを重視する「共振の経営」を理想に掲げている。これは、経営層が現場の声に真摯に耳を傾ける一方で、現場メンバーも経営者の視座でものを考えることによって、両者があたかも“共振”するように事業に当たるという経営思想。同社ではこれを具現化する施策の一環として、社長自ら出席するアドバイザーの慰労会を毎年、開催、経営者とアドバイザーとの交流や情報交換を促進している。こうした社風は、現場のモチベーションにもプラスに作用しており、アドバイザーには10年以上の永年勤続者も少なくないという。

新製品発売前のチェックにアドバイザーも参加

 同センターでは、前述の通り、自らの提案件数、提案実現件数をKPI化するなど、VOC活動に活発に取り組んでいる。CRMシステムのスマイルシステムには、マーケティングや商品開発など関係部門の担当者や役員が常時アクセスでき、個人情報を除く応対履歴などを閲覧できる環境が整っているほか、日報、週報、月報として運営状況を社内のイントラネットに公開し、全社員が閲覧できるようにしている。さらに商品の改善や開発に当たって、特に重要と見なされるお客さまの声については、関係部門の担当者が集まる月度の報告会で検討される。
 また、新商品の発売前には、商品パッケージなどの表記や記載内容に誤認や誤使用を招く箇所がないかをチェックしているが、当該商品のカテゴリーに関係する同センターのスタッフも原則的に全員が参加。日ごろ、お客さまと接するアドバイザーの視点から入念なチェックを行い、問題点が見つかれば、修正や変更を施すことで、トラブルの未然防止に貢献している。

海外のセンター立ち上げを支援 グローバルな事業展開に貢献

 なお、海外に展開する現地法人との連携も活発で、各国・地域におけるコールセンターの立ち上げに当たっては、同センターのマネージャーが現地を訪れるなど密接に連携し、センター施設の整備や運営体制の構築などを全面的にバックアップ。前述したようにセンター業務の標準化が進んでいることから、ノウハウの移転も比較的に容易といい、こうして立ち上げられたセンターには、中国、台湾、タイ、インドネシア、インドの5カ所がある。海外展開の活発化に伴って、今後も海外における新たなセンター立ち上げが計画されており、こうした計画の支援も一層強化していく方針という。
 また国内においては引き続き、問い合わせのあったお客さまのロイヤル・カスタマー化を目指す一方で、新しいモノづくりのヒントを機敏にキャッチし、商品化につなげていく活動を重視。アドバイザーが業務に専念できる、働きやすい環境の整備をさらに進めるほか、BCM (事業継続マネジメント)の強化に向けて、大規模災害時にセンター業務をバックアップする施設を西日本に整備する計画もある。
 販売活動の一翼を担う同センターは、グローバルな同社の成長に欠かせない存在と言えそうだ。


月刊『アイ・エム・プレス』2014年1月号の記事