コンタクトセンター最前線(第133回):全社を挙げたVOC活動によりサービス改善を推進

カーシェアリング・ジャパン(株)

地域に配置しているクルマを買い物やレジャーに気軽に利用してもらう、会員制のカーシェアリング事業を展開するカーシェアリング・ジャパン(株)。同社では、入会案内や会員サポートの機能を担う2つのコールセンターを運営。国内ではまだなじみの薄いカーシェアリングのメリットを訴求すると同時に、お客さまの声をサービスの改善につなげることで、サービスの浸透や利用拡大に大きな役割を果たしている。

都市部の市場が急拡大 会員は2カ月間で1割増

 首都圏を中心に会員制のカーシェアリング事業を展開するカーシェアリング・ジャパン(株)。三井物産の100%子会社として2008年8月に設立され、2009年1月から「カレコ・カーシェアリングクラブ」のブランドでサービスを提供している。
 国内では近年、20代から30代の若い世代を中心に、マイカーの「所有」にこだわらない層の増加が指摘されている。一方、クルマを利用すること自体には一定のニーズがある。こうした中、カーシェアリング市場は、特に都市部を中心に成長が著しく、これらの層を着実に取り込みつつある。レンタカーに比べて利用方法が簡単で、かつ短時間でも気軽に利用できるカーシェアリングのメリットを、参入各社がそれぞれにアピールしているのが現状だ。
 同社では、カーシェアリングを次世代の「交通インフラ」として位置付けており、首都圏の1都3県を中心に約490カ所の「ステーション」を設置、約570台の車両を配している。ステーションとは、会員同士がシェアするクルマの駐車スペースのこと。同社では、会員の自宅から半径300~400メートルの範囲内に複数のステーションがある環境を目指している。今後も継続的にステーションを増やしていき、地域密着型の事業として一層の浸透を図る考えだ。
 車両の予約や利用の手続きは、会員が普段使っている自分のモバイル端末やパソコンで簡単にできる仕組みとなっている。また、ステーションに配備している車両は、コンパクトカーやハイブリッドカーを中心に豊富な車種を取りそろえており、環境配慮型の電気自動車も一部導入。同業他社とのサービスの差別化を図っている。
 会員数は9月末現在で約2万人。会員増加の勢いは目覚ましく、直近の2カ月だけを見ても、1割ほども増えている。
 会員は、クルマを利用する際、PCやモバイル端末から、車種や時間などを指定して予約する。予約時刻にステーションに出向き、モバイル端末の画面から「利用開始」の手続きを行うと、予約しておいたクルマのドアのロックが自動的に解錠される仕組み。利用後は、ステーションにクルマを戻し、再びモバイル端末を使って、画面から「利用終了」の手続きを行う。ガソリン代は利用料金に含まれ、4分の1程度の残量になったら車内にある給油専用クレジットカードを利用して会員が最寄りのガソリンスタンドでの給油に協力する。また、車内のごみは各自が持ち帰るなど、クルマをシェアする上でのルールが設けられている。
 このようにクルマの利用は、基本的には“セルフサービス”で完結でき、各地のステーションも無人で運営されている。

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1都3県を中心に約490カ所に設置された「ステーション」は、自社のPRメディアとしても機能している

入会案内と会員サポート 機能別に2つのセンターを運営

 しかし、カーシェアリングというサービス形態は、国内ではまだ珍しく、入会後に初めてクルマを利用する会員のサポートや万一の事故対応など、担当者と会員との直接のコミュニケーションが不可欠。また、入会を検討するお客さまへのサービスの理解促進や利便性訴求といったプロセスも重要である。そこで同社では、2009年のサービス開始時からコールセンターを開設。当初は、限られた人数のスタッフで運営していたが、会員拡大のペースに合わせて、体制を拡充してきた。
 現在のスタッフ数は、総勢約30人。入会時のサービス案内や手続きを担当する「入会問い合わせダイヤル」と、入会後の会員サポートを担当する「カレコサポートセンター」の2つのセンターがあり、東京都渋谷区の同社本社内を含む2拠点で運営している。
 2つのセンターを管理しているのは、カスタマーサービス室。組織体制としては、カスタマーサービス室の室長をトップに、それぞれのセンターにマネージャーを配置し、SVとコミュニケータを束ねている。いずれのセンターでも、夏休みや年末年始といった長期休暇シーズン、春の引っ越しシーズンにコール数が増加するといった傾向があるが、柔軟なシフトを組むことで、こうした変動幅を吸収している。

フリーダイヤルのIVR機能を活用して業務を効率化

 同社のコールセンターは、顧客との対話を通じて、業務改善のきっかけとなる情報を収集する貴重なチャネル。そのため、コールセンター・システムは、基本的に自社開発である。同社のシステム部門が開発に当たり、特に、コールの内容を共有する機能を充実させた。
 入会案内と会員サポートというサービスの特性上、いずれのセンターも、受付電話番号にNTTコミュニケーションズ(株)のフリーダイヤルを採用している。eメールによる問い合わせにも対応しているが、ほとんどは電話によるものだという。
 2つのセンターのうち、入会時のサービス案内や手続きを行う「入会問い合わせダイヤル」については、受付時間が平日の午前9時から午後8時、土日祝日は午前9時から午後6時までの受け付けとなっている。「入会問い合わせダイヤル」の告知手段は、同社公式Webサイトやチラシをはじめ、街頭キャンペーン、ステーションの看板表示など。沿線にステーションが集中する私鉄などの、中づり広告を実施するケースもある。ちなみに、受付電話番号の「0120- 292-105」は、下6ケタが「地球に・いい・エコ」のゴロ合わせ。環境に配慮し、エコマーク認定も受けた同社の企業姿勢をさりげなくアピールすることにも一役買っている。
 同センターに入るインバウントの内容は、「ステーションはどこにあるのか」といった「サービスの概要」に関するものが最も多く、次が「クルマの利用方法」で、以下、「入会の方法」「料金」の順となっている。
 カーシェアリングというサービスに対する一般的な認知がまだ高くはないことから、インバウンドへの対応では、まず、お客さまのサービスへの理解度と興味や関心のあるテーマを把握。その上で、お客さまの生活シーンにおける利用ニーズをヒアリングしながら、最適なプランの提案につなげるようにしている。
 ただし、同センターでは、こうしたインバウンドによるサービス案内のほかにも、入会書類の送付後のフォローコールや、審査に伴う連絡など、手続き完了までの各種アウトバウンド業務も担っている。こちらはより詳しい業務知識と、柔軟な対応が求められる。
 そこで、同センターでは、フリーダイヤルのオプションサービスを活用。「入力指示ルーティング」と呼ばれるI VR機能によって、「申し込みがまだのお客さま」と「申し込み済みのお客さま」の2つにコールを分岐。特に後者については、入会や審査の手続きに詳しいコミュニケータに対応させることで、業務の効率化を図っている。

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Webサイト上の「よくあるご質問」のページ。「入会問い合わせダイヤル」のフリーダイヤル番号は、このページに限らず全ページの右カラムに表示されている

初めてサービスを利用する会員の不安を解消

 一方、入会後の会員を対象とするサポート業務を担当しているのが、「カレコサポートセンター」である。こちらは365日24時間、コールを受け付けている。
 同センターの告知手段としては、会員がPCやモバイル端末で日常的にアクセスするログイン後の会員専用画面などがあり、会員にとって、いつでも相談できる身近な存在となっている。
 インバウンドの内訳を見ると、最も多いのは、入会後に初めて利用するお客さまからの「具体的な利用の手順」に関する問い合わせ。事前にモバイル端末の操作手順などを確認していても、いざ、ステーションで操作を始めると要領がわからず、戸惑ってしまうケースは少なくない。屋外にある無人のステーションでひとり立ち往生している会員にとって、センターは心強い存在だ。センターのコミュニケータが、お客さまに代わってドアの解錠などを行うこともでき、運転を始めるまでのステップを確認しながら進めていく。
 2番目に多いのは「クルマの操作方法」で、車種によって異なるエンジンのかけ方など操作に関する質問。3番目は「車内の忘れ物」に関するもので、忘れ物を見つけた会員や、忘れ物をしてしまった会員からの問い合わせとなっている。
 こちらのセンターのシステムには、あえてIVR機能は採用していない。会員からのコールには、緊急の対応が求められるケースもあることから、コミュニケータによるスピーディーな対応を重視しているためで、会員とセンターの心理的な距離感を近づけるよう配慮している。

会員の高い満足度を実現するフィードバックの仕組み

 これら2つのセンターに対する会員の信頼は厚い。会員向けに実施した直近のアンケート調査で、コールセンターへの満足度を4段階で回答してもらったところ、「たいへん満足」あるいは「満足」と回答した会員の割合は、全体の実に約9割に達しており、「やや不満」や「たいへん不満」を圧倒している。この調査を含め、アンケートは過去に6回実施しているが、「満足」の割合は少しずつ増えているという。
 こうした会員からの信頼を高める取り組みのひとつが、お客さまから寄せられたコールの内容や応答について、所管のカスタマーサービス室内にとどまらず、社長以下、全社で共有する業務改善の仕組みである。コールの内容をシステム的に社内共有するにとどまらず、全社を挙げたVOC活動に意欲的に取り組んでいる。
 突発的な重大案件については、まずは経営トップを含む社内の関係者にコールの内容をeメールで即時配信。その後、関係者による緊急ミーティングを開き、内容によっては経営層の判断を仰ぎながら対応方針を決定している。
 これとは別に、週次と月次の取り組みも行っている。週次の取り組みは、センターの運営状況を報告する「朝会」が起点。毎週月曜の朝に開かれる「朝会」には、センターメンバーをはじめ全社員が出席し、席上、1週間に受けたコール数や主な問い合わせ内容などを報告。特に対応が必要な個別の問題やテーマについては、担当部署にエスカレーションして改善を図る。改善の範囲は、FAQの見直しなどお客さまサービスの改善にとどまらず、自社サイトのコンテンツを差し替えたり、車両の装備品を見直したりと、広範囲に及んでいるという。
 一方、月次では、コールセンターの運用状況を、そのほかの経営指標とともにリポートしており、トレンドや中長期での課題を判断する上での基礎データとして活用している。
 なお、運用上のKPIとしては、いずれのセンターも応答率90%以上を目指している。これに加えて、同社では個別のコールに対して適切な対応が実現されているかなど、定性的な評価に力点を置いている。

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利用マナーの向上に向けて情報発信の機能を強化

 今後も拡大が確実視される中、同社ではコミュニケータの人材確保にも注力している。コミュニケータの業務には、クルマの運転や装備品の操作に関する具体的な知識も求められることから、採用に当たっては、クルマに対する関心の高さや、お客さまの課題解決のための情報収集スキルを重視。採用した後は、座学とOJTで構成される1カ月間に及ぶ新人研修プログラムを適用している。
 また、フォローアップの仕組みとしては、定例会を通して新人研修の内容を各スタッフに定着させると同時に、半期ごとに社長との個人面談を行うことで、コミュニケーションの促進やモチベーションの向上を図っている。
 カーシェアリングのサービス開始から3年以上が経過しているが、同社では今後も、センターを中心としたVOC活動を継続する考え。お客さまにわざわざセンターに問い合わせていただかなくても済むよう、利用環境の整備を進めていくことにしている。また一方で、センターの情報発信機能を強化していきたい考え。例えば、会員の利用マナーは、当初期待した以上に高い水準にあるが、今後は情報発信を強化することでマナーの水準をさらに高めていきたいとしている。センターの存在が、ますます重要になりそうだ。


月刊『アイ・エム・プレス』2012年12月号の記事