コンタクトセンター最前線(第128回):ES向上施策と充実した教育でお客さまの期待を超える対応を実践

(株)ノーリツ

設立60周年を迎え、給湯器市場において4割のシェアを持つ(株)ノーリツ。製品に関する問い合わせや修理を受け付けるノーリツコンタクトセンターでは、CS向上の一環としてお客さまの期待を上回る対応の実践に取り組んでいる。その実現に向けて不可欠なのが、コミュニケータの育成とES向上施策である。そこで同センターでは、教育グループを構えて応対に必要な実務面からメンタル面に至るまで充実した研修を実施。また、多彩なモチベーション・アップ施策を採用している。

問い合わせや修理の受け付けを一手に担う

 1951年に「お風呂は人を幸せにする」という理念のもとに創業し、日本にお風呂文化を広めてきた(株)ノーリツ。現在では、「お湯」をキーワードに、ガス・石油温水器機、温水暖房システム、システムバス、システムキッチン、洗面化粧台、そして厨房機器などの商品を通じて、お湯による快適生活を提案している。このほか、グループを挙げて地球環境との共生にも力を注いでおり、太陽光発電、太陽温水器・燃料電池など、新エネルギーの分野にも参入。創業の原点はそのままに、「お湯を超えていくノーリツグループ」として、環境、安全、快適、健康、美容をテーマに進化を続けている。
 同社には日々、全国の工務店や設備会社などの施行会社とエンドユーザーから商品に関する問い合わせ、および修理、点検の申し込みが寄せられる。これを受け付けているのが、ノーリツコンタクトセンターだ。同センターは、商品に関する問い合わせを受け付ける「お客さま相談センター」、点検を受け付ける「あんしん点検センター」、そして修理を受け付ける「修理受付センター」などを有し、兵庫と東京の2拠点体制で運営。兵庫では「お客さま相談センター」「あんしん点検センター」と「西日本修理受付センター」「お客さまパーツセンター」、グループ会社の「ハーマンコンタクトセンター」、東京では「東日本修理受付センター」を開設している。

全国共通のワンナンバーで問い合わせ、修理、点検を受け付ける

 スタッフ数は、全窓口を合わせて270名。そのうち3分の1が派遣スタッフである。主な内訳は、「お客さま相談センター」が80名、「あんしん点検センター」が10名、「修理受付センター」は西日本が60名、東日本が70名となっている。
 センターごとに若干の違いはあるが、受付チャネルには電話、eメール、ファクスを採用。電話の受付時間帯は、「お客さま相談センター」が月曜から金曜日の9時から18時までと土日・祝日の9時から17時まで、「あんしん点検センター」が平日の9時から17時35分まで、「修理受付センター」は24時間365日・年中無休となっている。電話回線には、NTTコミュニケーションズ(株)のフリーダイヤル・サービスを利用。全国共通のワンナンバーで受け付け、IVRを利用して用件に応じた窓口に振り分けている。
 なお、携帯電話からの着信には、ナビダイヤルを利用している。
 コールセンター・システムは、IVRのほかにボイスロギングシステム、コミュニケータの対応をサポートするFAQ、問い合わせ履歴データベースなどで構成されており、全件録音、全件入力を実施。またCTIを利用して、コミュニケータからスーパーバイザーをはじめとする管理者へのエスカレーションの際の画面転送をスムーズに行える環境を整えている。

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Webサイトには問い合わせ窓口がわかりやすく紹介されている

受け付けのピークは秋冬

 2011年の受付状況を見ると、「お客さま相談センター」では約26万件のコールと、約5,000件のeメールに対応。「修理受付センター」では、東西合わせて約110万件のコールと約6,000件のeメール、約20万件のファクスに対応している。
 受付件数の傾向を季節および曜日で見ると、まず季節では、給湯器という商品の特性により10月から増え続け、1月から2月にかけてピークを迎える。そのため、修理受付については短期の派遣スタッフを投入するという方法で人員を補充している。次に曜日では、月曜日が最も多く、土日に向かうにつれて減少しており、他業種のコールセンターと同様の傾向が見られる。
 問い合わせ内容を見ると、「製品仕様」「故障相談」「商品選定」「案内・依頼・その他」「施工・法規」「資料関連」「使用方法」「アフターサービス・消耗部品」「価格・商品コード」などさまざま。問い合わせ者によってその内容は異なり、エンドユーザーであれば「製品仕様」「故障相談」「商品選定」「使用方法」「アフターサービス・消耗部品」、販売店であれば「製品仕様」「商品選定」「施行・法規」「資料関連」に関する問い合わせが多く寄せられる。

ニーズに応じた情報提供でカスタマー・ディライトを創造

 ノーリツコンタクトセンターの運営・管理を一手に担うのは、同社お客さま部。全社のCSを推進する役割も担っている同部では、2012年の“ありたい姿”として、お客さま満足度を高め、お客さまの声を商品、販売促進、アフターサービス、点検に生かすことを掲げた。これを実現することにより、ノーリツグループの信頼性・信用性を高め、お客さまに期待される企業になろうとしているのだ。
 その目標の達成に向けて、ノーリツコンタクトセンターでは日々の業務の中でカスタマー・ディライトの創造にチャレンジしているという。ディライトといっても、奇をてらったことをするわけではない。例えば、修理受付の際に電話口の向こうで赤ちゃんの鳴き声が聞こえたとする。その場合、赤ちゃんのいる家庭であるという情報をサービススタッフに伝え、訪問時には何度もチャイムを鳴らさない、作業はなるべく静かに行うなどの配慮をするといった具合だ。単に修理に必要な情報をヒアリングするだけでなく、お客さまの周辺情報も察知してサービススタッフと共有し、電話応対から修理までの一連のサービス品質を高めることで、お客さまの期待を超えるサービスの提供に努めているのである。
 「お客さま相談センター」におけるお客さまのニーズに応じた情報提供も、カスタマー・ディライトの創造に向けた取り組みのひとつだ。同センターには、給湯器の取り替え相談が多く寄せられる。同社では取り替えの際に、お客さまのニーズや設置状況をヒアリングした上で、お客さま一人ひとりに応じた取り替え機種を提案することを強化している。そのため同センターでは、電話口でお客さまの話を掘り下げてヒアリングし、ニーズに合った機種の絞り込みまで行っている。そもそも給湯器は、家を購入した際に取り付けられていることが多いので、商品の価格や機能の違いを知っているお客さまは少ない。膨大な種類の中からカタログ情報だけを頼りにお客さま自身が機種を選定することは難しいため、同センターが多くの情報を提供することで意思決定をサポートしようというのだ。
 また、お客さまの話を詳しく聞いた結果、お客さまの故障した給湯器は他社製品であることが判明することもある。その際には、当該メーカーのお客さま窓口の電話番号をお知らせしているという。たとえすぐには売り上げに結び付かないとしても、お客さまのニーズを満たした上でプラスαのサービスを提供し、カスタマー・ディライトを創造し続けることが、お客さまとの距離を縮める近道だと考えているのである。

ワンストップ対応の推進でさらなるCS向上を目指す

 ノーリツコンタクトセンターがお客さま対応の評価指標として用いているのは、満足度アンケートの結果と「ありがとう」の数である。前者では、販売会社とエンドユーザーを対象に、年2回、「お客さま相談センター」の対応への満足度を尋ねている。電話でコンタクトのあったお客さまに対して、終話時にアンケートへの協力を依頼。了承くださったお客さまにアンケート用紙を郵送するという方法だ。アンケートは5段階評価で回答する形式で、電話応対への満足度に関する設問の結果を見ると、「大変満足」と「満足」の合計が85%となっている。目標の90%には、あと一息といったところだ。もうひとつ、修理サービスを提供したお客さまを対象に、修理受付から修理完了までの各プロセスを評価してもらうアンケートも実施。こちらは毎月、アンケート用紙を発送している。
 後者は、「お客さま相談センター」の対応における評価指標として活用。お客さまの「ありがとう」で終話できたコールをカウントしているが、現在、2コールに1コールの割合で「ありがとう」の言葉をいただいているという。

多彩な施策でコミュニケータのモチベーションを刺激

 CS向上を目指す上で不可欠なのが、コミュニケータの育成とES向上のための施策である。
 コミュニケータの育成については、東日本と西日本に教育グループを構え、それぞれに4名のスタッフを配置。電話応対研修、クレーム対応研修、ストレスマネジメント研修を実施している。このほか、製品に関する研修は、4名のスタッフとは別の製品に精通した社員が担当。応対に必要な実務面からメンタル面に至るまで、日々の業務でコミュニケータが必要とする内容をカバーしている。
 電話応対の教育に関しては、コミュニケータの経過年数に応じて始動期、成長期、第2成長期、向上期の4ステージに分け、各レベルに設定した目標を達成するためのカリキュラムを用意している。
 ES向上については、意欲的に多彩なモチベーション・アップ施策を取り入れている。代表的なもののひとつに、表彰制度の導入がある。同制度では年に2回、半期ごとの振り返り・方針発表時に、お客さまから「ありがとう」の感謝の言葉を多くいただいたコミュニケータや、パフォーマンスの高いコミュニケータなどを表彰している。
 もうひとつは、(財)日本電信電話ユーザ協会が主催する電話応対コンクールへの参加だ。2011年には、東西で1名ずつ全国大会に出場し、そのうちの1人は優良賞を受賞した。
 「サンクス&ハッピーカード」は、「お風呂は人を幸せにする」という同社の原点に通じる取り組みと言える。これは、日々の業務の中で助けられたときに、お礼の気持ちを伝えたい人にメッセージを書いて渡すことで、“幸せをわかす(沸かす)”という活動。コミュニケータ同士の場合もあれば、サービススタッフにファクスで送信する場合もある。カードを直接、手渡すことが恥ずかしい場合は、掲示コーナーに掲示するだけでもいい。
 このほか、最近力を入れているのが、カスタマーサービスウイーク(CSW)の開催と「小さなCS改善サークル」での活動である。
 初めてのCSWを開催したのは2008年。コミュニケータたちはシフト制で勤務しているため、全員揃ってイベントを開催することは難しい環境にあるが、それでも楽しみながら仕事をすることでCSを高めていこうとスタートした。期間中は、センター内や廊下をバルーンや万国旗、イラストでデコレーションしたり、皆で思い思いのキャラクターや人物に扮装したり、その様子はまるでお祭りのようだ。
 開催後に行ったコミュニケータを対象としたアンケートの結果を見ると、90%のコミュニケータがCSWの開催に満足と回答しており、好評を得ている。加えて、CSWの開催以降、従業員満足度(ES)にも変化が現れた。2010年と2011年のES調査の結果を比較すると、2011年には前年比で10%ほど満足度が高まっているという結果が出たのだ。
 「 小さなCS改善サークル」は2011年にスタートした活動だ。製造部門における業務課題の解決に向けた品質管理手法と同様のもので、7 〜10名を1グループとして、グループごとに改善活動に取り組んでいる。例えば、修理後に実施しているCSアンケートにおいて、受け付けの評価を高める取り組みを実践するなど、テーマは各チームが自由に決められる。センター長からの指示ではなく、自主的に課題を見つけ、それを改善するための施策を考えて実践するというボトムアップ型の活動だ。こうした取り組みは初めてだが、同センターでは、応対品質の改善やコミュニケータのモチベーション・アップにつながる手応えを感じているという。

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CSウイークを通じて、スタッフ間のコミュニケーションも 活性化される。スタッフの楽しそうな表情が印象的

コミュニケータのマルチスキル化を目指す

 ノーリツコンタクトセンターでは今後、さらなるカスタマー・ディライトの創造、CSの向上を目指して、ワンストップ対応を推進していく意向。現在、「お客さま相談センター」では、本来の担当外の修理依頼が寄せられた際にも修理受付画面を立ち上げて対応しているが、さらに業務範囲の拡大を図る意向。これを実現するべく、マルチスキルコミュニケータの育成を強化しているところだ。
 具体的には別部門で受け付けているハーマン製品(グループ会社のガスコンロ)の知識研修を実施するなどして、スキルの積み上げを図っているという。「お客さま相談センター」と「修理受付センター」とで、グループ会社の製品を含めた全ブランドの問い合わせに対応できるようになることが一番の目標だ。
 また、業務に誇りを持ち、楽しく取り組めるよう、引き続きモチベーションの向上にも取り組んでいく方針。中でも、ボトムアップ型の活動である「小さなCS改善サークル」に、より一層、力を入れていきたいとしている。


月刊『アイ・エム・プレス』2012年7月号の記事