日本で初めてマッサージチェアの量産を手掛けた、老舗の健康機器メーカー(株)フジ医療器。大阪市内に設けられている同社お客様相談室は、2009年に顧客ロイヤルティの向上を目指して受付体制を拡充。お客様相談窓口グループ、サービス受付センター、アウトバウンドグループの3つの窓口を有し、商品力、サポート力、提案力からなる同社の総合力を下支えする存在となっている。
マッサージチェアの国内シェアNo.1を支えるお客様相談室
1954年に創業した(株)フジ医療器は、美と健康に関する商品の製造、販売、輸出入を手掛ける老舗の健康機器メーカーである。マッサージチェアを日本で最初に量産したのが同社だ。創業以来、事業の原点として大切に育んできたマッサージチェアは、国内市場においてシェアNo.1を獲得。中でも高機能・高品質なハイグレード商品では圧倒的な優位性を持ち、多くのお客さまに選ばれ続けている(図表)。現在同社では、マッサージチェアのほかに、小型マッサージャー、健康布団、アルカリイオン整水器、治療機器、補聴器、フィットネス機器の製造・販売も手掛けており、2011年8月期の売上高は170億2,600万円に達している。
大手メーカーを抑えてマッサージチェアの国内市場シェアNo.1を獲得している背景には、優れた技術に裏付けられた商品、購入相談やアフターサービスといったサポート力、お客さまのニーズに合った商品提案力の存在がある。この総合力をより強固なものにするために、研究開発、製造、営業など、各部門のプロフェッショナルが日々、研究を重ね、情報を集め、新たな商品開発へと結び付けている。こうした取り組みを下支えしているのが、同社お客様相談室である。
マッサージチェアとして使用しない時はデザイン性の高いソファとして使用できるゼロフロートマッサージチェア AS-650ZG(上)、フルスペックのマッサージ機能を兼ね備えた脚部収納タイプの最上位モデルサイバーリラックス コンフォピット マッサージチェア AS-750(右上)、59種類の多彩なもみ技を搭載した高い人気を誇るフル装備のハイスペックマッサージチェアサイバーリラックス マッサージチェア AS-840(右下)など、エンドユーザーのニーズや住環境に合わせた商品を多数ラインナップ
顧客ロイヤルティの向上を目的に受付体制を拡充
お客様相談室の開設は1995年。PL法の施行を機に開設された。当時は数名のスタッフで、エンドユーザーからの問い合わせや修理依頼に対応していたが、2009年に購入前の買い物相談およびアフターフォローを強化することで顧客ロイヤルティを高めることを目的に、オペレータの増員やコンタクトセンターシステムの導入を行い、受付体制の拡充を図った。
現在のお客様相談室は、お客様相談窓口グループ、サービス受付センター、アウトバウンドグループの3つの窓口を有している。各窓口の業務内容および受け付け体制は次の通り。
お客様相談窓口グループは、エンドユーザーを対象とした窓口である。業務内容は、同社が取り扱うすべての商品に関する問い合わせ受付、およびアルカリイオン整水器のカートリッジなど消耗部品の受注と多岐にわたる。受付チャネルには、電話、ファクス、郵便、eメールを使用。月曜から金曜日の9時から17時30分まで対応に当たる。電話窓口にはNTTコミュニケーションズ(株)のフリーダイヤル・サービスを導入しており、携帯電話からの着信も可能としている。
サービス受付センターは、家電量販店を中心とする販売店を対象とした窓口。すべての商品に関する修理受付から、最寄りのサービス拠点への引き継ぎ、修理状況の進捗管理までを担っている。受付チャネルには、一般加入回線の電話とファクスを使用。受付時間帯は月曜から金曜日の9時から17時30分までとなっている。
また、本社を含めて全国にある25の拠点にもIVRを導入し、①商品に関する問い合わせ、②サポート、③拠点の3チャンネルに分け、①と②のチャンネルはお客様相談室に転送して対応を行っている。
最後に、アウトバウンドグループは、古い機種を利用中のエンドユーザーに対するアフターフォローや新商品のお知らせをするアウトバウンドコールを展開するチームである。基本的にはエンドユーザーを対象にアフターフォローを兼ねて新商品の提案をしているが、時には営業部隊から依頼を受けて販売店を対象に新商品の案内を行うこともある。実施時間帯は月曜から金曜日の9時から17時30分までとなっている。
ワイヤレスヘッドセットでオペレータの応対をサポート
受付体制の拡充に着手した当初のスタッフの雇用体系は、社員よりも派遣スタッフの比率が高かったが、問い合わせの際にオペレータを指名するエンドユーザーが多かったことから、顧客満足度の向上施策の一貫としてこの3年の間に社員への登用を進めた。その結果、現在では、社員の比率が8割にまで高まっており、いつも同じオペレータに対応してもらえるという安心感につながっているという。
オペレータの年齢層は20〜60代と幅広い。折り返し連絡が必要になった際には、お客さまの年代に近い年齢のオペレータから発信することで、満足度が高まるよう工夫しているという。
コールセンターシステムには、(株)タカコムのIVRとボイスロギングシステムを導入している。エンドユーザー用のフリーダイヤルの電話も、販売店用の一般加入回線の電話も、いったんIVRに着信。フリーダイヤルの場合は、問い合わせであればお客様相談窓口グループに、修理であればサービス受付センターに、一方、一般加入回線は問い合わせであれば全国の営業拠点に、修理であればサービス受付センターに振り分けている。ボイスロギングシステムでは、全通話を録音。オペレータの教育に役立てるとともに、お客さまとの会話の確認に使用しているという。
このほか、GNジャパン(株)のワイヤレスヘッドセットJabra GN 9120を導入。特に、お客様相談窓口グループでは、実際のマッサージチェアに触れながら対応することがある。そのため、ワイヤレスタイプを導入することで、通話中の移動を容易にし、オペレータの応対をサポートしている。
画面右上の「お問い合わせ」をクリックすると、問い合わせ先やよくある質問が表示される
初めて知った情報はイントラネットで共有し応対スキルを底上げ
前述の通り、同社の取扱商品は、マッサージチェアをはじめ健康布団、アルカリイオン整水器、補聴器など7カテゴリーに及ぶ。特に、マッサージチェアのような使用者にしかわからない感覚で評価される商品の販売においては、実際に商品に触れてもらい、使い勝手や心地良さをお客さまに体感していただくことが重要となる。そのため、取扱店舗の照会があった時に確実に案内できるよう、販売店ごとに展示している機種を把握。商品知識やよくある問い合わせと併せてデータベース化している。
システムでオペレータをサポートする一方、教育にも注力。商品本部、品質保証部、カスタマーサービス(技術)の社員が講師となり、研修を実施している。このほか、自己学習ツールとしてイントラネットを活用。お客さまからの問い合わせをきっかけに初めて知ったことがあれば、その内容、回答のありか、回答内容をイントラネット上に登録。ほかのオペレータと共有し、応対スキルの底上げを図っている。
VOCは総合力をより強固なものとするための源泉
問い合わせの受付状況を見ると、1カ月の問い合わせ件数の合計は約1万3,000件で、このうちの約80%がエンドユーザーから、約20%が販売店から寄せられている。同社の取扱商品は、健康や美容に関する商品であることから、プレゼント需要が高まる5月の母の日、6月の父の日、9月の敬老の日、そして夏冬のボーナス時期に問い合わせ件数が増える傾向にあるという。
受付状況を商品カテゴリー別に見ると、マッサージチェアに関する問い合わせが60%と最も多く、以下、アルカリイオン整水器が18%、補聴器が6%、治療器が5%、フィットネスが2%と続く。問い合わせ内容の内訳は、使用方法が20%と最も多く、以下、部品・消耗品の注文と商品仕様に関する問い合わせがそれぞれ7%、取扱店舗の照会が6%と続く。
お客様相談室に寄せられた問い合わせ内容(以下、VOC)は、すべて応対履歴システムに蓄積されており、これを全社で共有できる仕組みを構築。次期新商品の開発・改良に生かしている。VOCの活用例としては、マッサージチェアの頭が触れる部分の汚れを防止するための専用シートの販売が挙げられる。「マッサージチェアを使用する際、頭が触れる部分が汚れるのを防ぐためにタオルを使用している」というVOCを発見した同社では、洗濯可能な取り替え式の専用シートを企画・販売したという。
大阪市内に設けられているお客様相談室。エンドユーザーからマッサージチェアに関する問い合わせが寄せられた際には、実際に該当機種に座って問題の箇所や使用感を確かめながら応対に当たることがしばしばある
顧客ロイヤルティの指標は国内シェアと売上高
顧客ロイヤルティの向上を目指しているお客様相談室では、これを測定するための評価指標として国内市場シェアと売上高を用いている。冒頭で記述した通り、マッサージチェアの国内市場においてビッグネームを抑えてシェアNo.1を獲得していることから、現状では目的を達成できていると見ている。
しかし、現状に甘んじることなく、継続的な発展を遂げるためには、お客さまを集合体として見るのではなく、一人ひとりの声に耳を傾け、不満があればその要因を一つ一つ解決していかなければならないというのが同社の考え。今後もVOCを活用することにより、同社の総合力をより強固なものとしていきたいとしている。
また、お客様相談室の運営面における課題の解決も必須だ。同室では、現在の課題として人材の確保と育成を挙げている。現在のように、すべてのオペレータがすべての商品に関する問い合わせに対応するという方法では、多くの商品知識や業務知識が必要となる。そのため、現状では約3週間の導入研修が必須となっており、その後も1 〜2カ月後にスキルアップ研修を実施するなど、オペレータが大半の問い合わせに対応できるようになるまでに長い時間を要することが課題となっているのだ。
こうした課題を解決しつつ、今後はより良いサービスを提供し、世代を超えたブランドへと進化を遂げていく意向。そのためにも、商品力、サポート力、提案力からなる総合力を下支えするお客様相談室の取り組みが期待されるところだ。