コンタクトセンター最前線(第119回):コミュニケータの共感性を高め説得型から納得型の応対を実現

貝印(株)

貝印(株)をはじめとするKAIグループは、キッチン用品、製菓用品、ビューティーケア用品といった生活雑貨のほか、医療用品や業務用刃物など多くの商品を製造している日本の刃物メーカーの老舗である。貝印(株)お客様相談室では、全国のエンドユーザーから寄せられる問い合わせに迅速かつ的確に対応することに加えて、「共感」をキーワードに業務を推進し、納得型の応対を実現している。また、顧客の声の活用にも注力。商品の改良に役立てている。

エンドユーザーとのコミュニケーションを担うCRCの3本柱のひとつとしてスタート

 1908年(明治41年)6月に、800年の歴史を持つ日本最大の刃物の都、岐阜県関市でポケットナイフ製造所としてスタートした貝印(株)。「より多くの人に、より良い商品を」という企業理念は、創業以来、100年を経ても変わらず受け継がれている。取り扱い商品も拡大しており、現在ではキッチン用品、製菓用品、ビューティーケア用品といった生活雑貨を中心に1万2,000アイテムを開発・製造。これらを国内の仲卸や小売店をはじめ、海外のネットワークを生かして世界各国に幅広く提供している。同社が取り扱う多岐にわたる商品に関してエンドユーザーから寄せられる問い合わせに対応しているのが同社お客様相談室(以下、相談室)である。
 同社が相談室を開設して専任スタッフによる対応を開始したのは、2000年代前半のこと。メーカーである同社では、仲卸や小売店を通してエンドユーザーに商品を提供するというビジネスモデル上、エンドユーザーと直接のコミュニケーションを図る接点や機会が限られていたことから、お客様相談室、広報、ショールームのカイハウスからなるカスタマーリレーションシップセンター(以下、CRC)を発足。相談室では非対面によるコミュニケーションを、広報ではWebサイトを充実させ、カイハウスでは対面によるコミュニケーションを推進するというように、3本柱でお客さまとの関係づくりへの取り組みを始めたのである。
 相談室の開設以前は、商品や売り場を熟知している商品企画の社員がエンドユーザーからの問い合わせに対応していた。しかし、たとえ商品企画の社員であっても、担当外の商品に関しては即答できないことがままあったことから、顧客満足度を高めるにはワンストップ対応が必要であると感じていたことも、専任スタッフによる受付体制を構築するきっかけになったという。
 その後、CRCは発展的に解消。いくつかの組織変更を経た後、お客さま相談室は2011年4月より管理本部に移管され、現在に至る。
 なお、管理本部では、カイハウスの運営・管理も担っている。

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Webサイトではフリーダイヤル番号を告知している

CMSで相談室の稼働状況を可視化 応対品質の改善につなげる

 相談室は東京都千代田区の本社内に設置しており、インハウスで運営されている。現在、運営・管理を担うのは管理本部で、スタッフ数はコミュニケータ5名、スーパーバイザー1名、FAQ作成担当3名、室長1名の計10名。コミュニケータは派遣スタッフで、スーパーバイザー、FAQ作成担当、室長は社員という構成だ。
 受付時間帯は、12時から13時までの1時間を除く平日の9時から17時まで。常時4名のコミュニケータが対応に当たっている。
 受付チャネルには、電話とeメールを使用している。電話回線には、一般加入回線とNTTコミュニケーションズ(株)のフリーダイヤルを利用。前者は商品パッケージに記載、後者は雑誌やWebサイトに問い合わせ先として記載するというように、媒体によって電話番号を使い分けている。
 コールセンター・システムには、(株)コラボスのクラウド型インバウンドコールセンター向けシステムのエニプレイスと、クラウド型通話録音システムのトークフォルダーを使用している。相談室では、エニプレイスのCMS(Call Management System)機能を利用して相談室の稼働状況や入電数、平均通話時間などを可視化することで、現状の把握と応対品質の改善に注力。加えて、トークフォルダーの再生機能を利用したモニタリングにより、コミュニケータの育成に当たっている。
 モニタリングの頻度は4カ月に1度。相談室には、商品知識と豊富な応対経験を備えたベテランのコミュニケータが多いことから、相談室開設当初の目標である“迅速かつ的確な対応”はおおむね実現できている。しかし、たとえ短時間で正確な情報を得ることができても、事務的な対応であっては顧客の満足度は高まらない。そこで現在、相談室では「共感」をキーワードに業務を推進しており、モニタリングにおいては声の表情を重点的にチェック。“ハリのある声”“明るい声”での対応を指導し、顧客に「電話して良かった」と思ってもらえるよう努めている。
 相談室では、2010年4月に「ありがとうキャンペーン」をスタートした。これは、顧客に「ありがとう」と言われたら、相談室の壁に貼り出された用紙に1枚ずつシールを貼っていくという企画。現在も継続しており、コミュニケータのモチベーション向上に役立っているそうだ。

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お客さま相談室には問い合わせが多く寄せられる商品が展示してある。お互いの顔が見えたほうがいいというコミュニケータの意見を採用し、オペレーションブースにパーティションは設置していない

共感性を高めて納得型の対応を実現

 コミュニケータの共感性を高めるには、顧客の視点を持つことが重要であると考える相談室では、カイハウスと連携を図り、コミュニケータがいつでも商品を試せる環境を用意している。カイハウスでは、商品の展示だけではなく、フードコーディネーターや料理研究家によるデモンストレーション、圧力鍋やマルチブレンダーなどの体験教室、おもてなし料理教室といったイベントの企画・開催も手掛けている。そのカイハウスで、コミュニケータが実際に商品を使って調理したり、疑問があれば確認したりすることを推奨しているのだ。
 実際に商品を使用するということは、顧客と同じ視点で商品を見ることにもつながる。座学研修やFAQのように頭にインプットした情報のみに依存して対応を行っていると、どうしても説得型になってしまいがちだが、カイハウスでの実地経験が加わることで次第に共感性が高まり、納得型の対応ができるようになってきたという。前述のように現在、相談室とカイハウスは同じ管理本部に属していることから、以前にも増して連携が容易になったことが、コミュニケータ教育に大いに役立っているのである。

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開始から2年目を迎えた「ありがとうキャンペーン」。「ありがとう」の声がたくさん集まると、ハートや桃が完成する

FAQの鮮度を保ちコミュニケータをサポート

 相談室の受付状況は、以下の通り。
 1カ月当たりの平均受付件数は電話が約2,700件、eメールが約300件で、合計約3,000件に及ぶ。応答率は約90%。
 商品カテゴリー別の内訳を見ると、問い合わせが一番多いのはキッチン関係で65%。以下、ビューティー関係が20%、カミソリ関係が15%となっている。
 問い合わせ内容別の内訳は、最も多いのが使い方で50%。以下、取扱店舗の照会が25%、クレームが20%、そのほかが5%と続いており、購入者からの問い合わせが多い傾向にある。
 取扱アイテム数は多いものの、「切れない」「さびた」といった商品カテゴリー横断型の問い合わせが主なことから、どの商品に関する問い合わせであっても、大半がワンストップで解決できており、平均通話時間は約3分と比較的短時間に留まっている。
 顧客から相談室に寄せられた問い合わせや苦情などは、すべて応対履歴データベースに蓄積しており、この活用も相談室が担う重要な役割である。まず、前述したFAQ担当者がこの中から日々、注目すべきVOCを収集。多く寄せられている問い合わせや、問い合わせ件数の多い商品といった視点で分析し、FAQを作りに役立てている。日々、FAQ作りに取り組むことで、社会情勢やマスコミの情報などによる問い合わせ内容の変化をスピーディーに反映させることが可能だ。また、鮮度が保たれることで、コミュニケータの応対支援にも大きく寄与している。

クレームや問い合わせ傾向から品質を見直し改良につなげる

 VOCを商品改良に生かす取り組みも実施している。これには主に、クレームを改良につなげるものと、問い合わせ傾向から将来、起こり得る問題を予測して先手を打つものの2つがある。
 前者では、相談室に寄せられたクレームに基づき、品質保証部が実験を行う。その結果、顧客の申し出通りになった事柄については、商品に問題があるのか、パッケージに問題があるのかを明らかにした上で、品質保証部、お客様相談室、マーケティング&マーチャンダイジング本部(商品の企画開発/以下、MM本部)、設計、デザインの管理者による品質向上会議で対応方法を検討、当該部門が改良を行う。例えば、使用方法に関するクレームで、パッケージの表現に不備があると判断した際には、MM本部で説明文の内容、文字の大きさ・色を改善したり、イラストを入れたりしている。
 後者では、月1回開催される役員会で、品質保証部が相談室に寄せられた問い合わせの傾向から洗い出した、将来起こり得ると考えられる問題点を報告。これに基づいて改善の必要性を判断し、改善が決定した案件については当該部門が対応に当たる。
 このほか、商品を問わず月に3件、類似の問い合わせが寄せられた場合には、その時点で品質保証部に品質チェックを依頼している。
 VOCを活用した事例としてはピーラー(皮むき)のパッケージ改良が挙げられる。ピーラーには、刃の部分が固定式のものと可動式のものがあり、固定式はかぼちゃなど力が必要な野菜、可動式はじゃがいものように丸みのある野菜に向いている。現在、市場に流通しているピーラーの多くは可動式だが、気付かずに固定式を買ってしまった顧客からクレームが寄せられたことから、固定式か可動式かが一目でわかるようにパッケージを改良したという。

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今後は買い物相談にも注力

 相談室では、課題として応答率の向上と共感性の向上を挙げている。まず、前者については、費用対効果を考慮しながら対策を講じて100%に近づけていく考え。後者については、前述のように再びカイハウスと同じ部門になったメリットを生かしてさらなる連携を図り、継続的にコミュニケータの実地経験を積んでいきたいとしている。
 また、相談室ではこれらの課題解決に励む一方、買い物相談にも力を入れていく意向。商品の購入をサポートすることで商品の付加価値を高め、顧客満足度をより一層、向上させることを目指している。


月刊『アイ・エム・プレス』2011年10月号の記事