コンタクトセンター最前線(第99回):漢方の理解と普及を促進するとともにVOC活動の活発化を目指す

(株)ツムラ

医療用漢方製剤のトップメーカーである(株)ツムラ。同社では、2007年より医療関係者や生活者のニーズに的確にこたえていくことを目的に、お客様相談窓口へのフリーダイヤル導入やCS会議の発足などを通じて、より多くの声に耳を傾け、社内へフィードバックしていくための体制づくりに着手。相談窓口の稼動が安定期に入った今、次のステップである教育や評価指標の確立に向けて邁進している。

より多くの声に耳を傾けフィードバックする体制を強化

 1893年(明治26年)に創業し、漢方製剤、生薬製剤の製造販売を営む(株)ツムラ。「自然と健康を科学する」という経営理念の下、日本の伝統に培われた漢方薬を通して、人々の健康と医療に貢献することを目指しており、医療用漢方製剤においては国内シェア8割を超えるトップメーカーとして他を圧倒している。葛根湯など薬局で販売される一般用医薬品も取り扱っているが、売り上げの9割以上を医療用漢方製剤ほか医療用医薬品が占める。
 同社では、医科大学・大学医学部への漢方教育の支援、医師や一般の生活者を対象にした漢方セミナーなど、漢方の理解と普及に向けた活動を長年にわたり実施してきた。その結果、2005年以降、国内すべての医科大学・大学医学部において漢方教育が実施されるようになったほか、現代医療が直面する課題に漢方を活用する新しい発想と効果が多くの医師に認められ、治療に漢方を取り入れる医師が増えてきた。加えて、生活者の漢方に対する知識も広がり、次第に漢方のニーズが高まっている。
 こうした状況の中、医療関係者や生活者のニーズに的確にこたえていくためには、より多くの声に耳を傾けるとともに、社内へのフィードバック体制を強化する必要がある。このように考えた同社は、まず、2007年1月に策定した新中長期計画の中で「開かれた会社の創造」をうたい、CS会議を発足。同年4月に、情報の統括部門としてコーポレート・コミュニケーション室を発足させ、同室お客様相談グループがお客様相談窓口を運用することとした(図表1)。

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 続いて、翌5月には電話窓口に医療関係者専用のフリーダイヤルを、10月には相談対応専用のデータベースシステムを導入。2008年8月には生活者向けの電話相談窓口に専用フリーダイヤルを導入し、相談窓口の強化を図った。医療関係者専用のフリーダイヤル番号は医療用医薬品の添付文書に、生活者専用のフリーダイヤル番号は一般医薬品のパッケージおよびWeb サイト上で告知している。

段階的な取り組みによりフリーダイヤル導入時の留意点に対処

 現在、お客様相談窓口は本社チームと大阪チームの2拠点体制で、平日の午前9時から午後5時30分まで対応に当たっている。受付チャネルには、フリーダイヤル電話とeメールを使用。eメールは、2004年10月に導入した。フリーダイヤルは、NTTコミュニケーションズ(株)のサービスを利用しており、前述の通り医療関係者向けと生活者向けで番号を分けている。また、本社の代表電話(一般加入回線)もお客様相談窓口に着信させている。
 同社では、これまで一般加入回線ですべての問い合わせに対応していたが、フリーダイヤルを希望する声が寄せられたことから、顧客の利便性向上、地域にかかわらずアクセスできる公平性の確保、より多くの声の収集、開かれた企業イメージの醸成、信頼感・安心感の向上などを狙いに、フリーダイヤルの導入に踏み切った。
 フリーダイヤル導入時の留意点としては、問い合わせ件数やクレームの増加が挙げられるが、同社では①フリーダイヤルの段階的な導入と告知、②漢方相談に乗るのではなく受診を促すというルールの徹底による通話時間の短縮とクレームの低減、③クレーム対応フローを作成して迅速かつ的確な対応ができる体制を整えることで対処した。

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ツムラお客様相談窓口 本社チーム

営業経験を持つ社員が対応し一次回答率90%を実現

 受け付けの流れは次の通り。電話による問い合わせの場合、2つのフリーダイヤル番号の第一着信先を大阪チームに設定し、大阪チームの回線がすべて話中であれば、本社チームに自動的に振り分けられる仕組みを構築している。
 後ほど受付状況について詳述するが、現状のコールボリュームから考えると、フリーダイヤル番号別にチーム分けをしても効率を追求しづらいことから、全員がすべての問い合わせに対応する方法を採用している。そのため、対応に当たっては、言葉の使い分けが不可欠。相談窓口では、生活者には専門用語を使わずに平易な言葉でわかりやすく説明するよう心掛けている。
 受付内容は、テクマトリックス(株)が提供している製薬業界向けのSaaS型CRMシステム「FastHelp Pe」にすべて入力。医療関係者からの問い合わせで、自社MRとの連携が必要な用件については、FastHelp Pe のeメール送信機能を使って迅速にMRへ情報を伝達している。また、本社代表電話とeメールの場合は、本社チームで直接受け付け、対応に当たる。
 問い合わせ対応を担っているのは、10名の社員たち。全員が営業経験者であることからその十分な製品知識を生かし、一次回答率は90%と高いレベルを実現している。
 同社のようにコミュニケータに社員を起用する場合、配属から短期間で着台でき、離職率が低いというメリットがある反面、数年で異動してしまうことからスキルが定着しないといった課題もある。そこで同社では、本人から異動希望がなければお客様相談グループに所属し続け、習得したスキルの維持・向上を図ることで、応対品質を高められるよう配慮している。

患者からの問い合わせが約半数に及ぶ

 相談窓口に寄せられる問い合わせ件数は、2008年実績で3万7,778件。受付件数は売り上げに比例して増加傾向にあるが、特に医療関係者専用のフリーダイヤルを導入した2007年は前年比29.2%増、生活者専用フリーダイヤルを導入した2008年は18.7%増と、顕著な伸びを見せた(図表2)。

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 電話による問い合わせのピークタイムは、10時台と16時台。応答率は、92〜95%と高い数値を実現している。平均通話時間を医療関係者と生活者の別で見ると、前者からの問い合わせが約3分で、後者からの問い合わせが約4分。また、本社と大阪のチーム別に見ると、後から開設した大阪チームのほうが1分ほど長い。今後は、大阪チームの通話時間短縮をひとつの課題としている。
 eメールの受付件数は、2009年11月実績で全体の4%にとどまっており、まだ利用が広がっていない実情がうかがえる。
 問い合わせ内容は、図表3の通り。主に患者や薬局・薬店から寄せられる「薬の名前や効能」「服用上の安全性」「飲み方や保存方法」で65%を占める。

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 また、問い合わせ者の内訳を見ると、最も多いのは「生活者」で約半数を占めている。次に「薬局・薬店」「病院薬局」と続く(図表4)。冒頭で紹介した通り、同社の売上高の9割以上は医師から処方される医療用漢方製剤である。にもかかわらず、最も多い問い合わせ者が生活者であることに若干の疑問を覚える。しかし、ここでいう生活者の大半は患者で、医師から処方された漢方製剤に関して、服用上の安全性や効能、保存方法といった問い合わせが多く寄せられているとのこと。このことから、患者は医師の説明を受けていても、再度メーカーに確認することで安心を得ているという側面があると推察できる。

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社長が議長になりCS会議を開催

 顧客の声(VOC)の集積地であるお客様相談窓口においては、蓄積した情報をアウトプットすることも大切な役割のひとつである。具体的な取り組みは、図表5の通り。

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 お客様相談窓口トピックスでは、イントラネットの掲示板に月次で特徴的なVOC情報を紹介している。例えば、冬期には問い合わせが増える風邪の情報、夏期には湿気に関する問い合わせの増加を受けて湿度の情報をアップするといった具合だ。
 また、不定期で各部門へ関連情報を流している。以前は、抽出するVOCの件数が少なく説得力に欠けていたことから、なかなか聞き入れてもらえずにいた。しかし、当初の狙い通り、フリーダイヤル導入以降、コール数が増加。より多くの声の分析に基づく信頼性の高いフィードバックが可能となったことから、次第に他部門から受け入れてもらえる土壌ができてきた。同グループではこれを受けて、今後はよりVOC活動が活発化するものと見ている。
 VOC活動の活発化には、CS会議も大きな役割を果たしている。CS会議は、同社代表取締役社長の芳井順一氏が議長を務める会議で、安全性情報、品質情報、サービスクレーム(製品以外のものに対するクレーム)などを報告。改善が必要な案件については、改善策などが話し合われる。過去には、製品パッケージの変更などが決定された。また、医薬品や食品の安心・安全の問題にかかわる不祥事が起こった際の対応方法についても、CS会議で検討される。
 CS会議は、当初毎月1回2時間ほど開催していたが、イントラネット上での情報共有やVOC活動の浸透に伴い効率化が進み、現在は数カ月に1回の開催となっている。

教育体制の確立とFAQ構築が最優先課題

 前述の通り、相談窓口では社員を起用していることから、最近になってようやく導入研修を体系化した。しかし、これに続くフォロー研修についてはまだ体系化されておらず、一貫した教育体制が確立しているとは言い難いのが現状だ。また、CRMシステムに蓄積した情報のFAQへの活用も不十分であることから、この2つを最優先課題としている。
 評価指標の確立も早期解決課題のひとつである。現在は、相談窓口内でのモニタリングに基づく話法ミーティングの開催にとどまっていることから、今後は評価指標を明確にするとともに、第三者の客観的な評価を応対品質の向上に生かすことを検討しているという。
 お客様相談グループでは、相談窓口においてこのような将来展望を抱いている。
 ひとつは、在宅勤務の実現である。現在、相談窓口で導入しているCRMシステムはSaaS型であることから、すでにシステム的にはこれを実現するインフラが整っている。教育体制の整備により人材育成ノウハウが蓄積されれば、相談窓口が育児や介護を理由に休職や短時間勤務を余儀なくされる社員を救済することができる。また、相談窓口の開設地を選ばないことから、帰郷を希望する社員のポストにもなり得ると考えている。
 もうひとつは、障がい者雇用の促進である。今以上に問い合わせ件数が増え、問い合わせ内容や問い合わせ者の属性などで担当分けが可能になれば、スキルを特化することができるので、障がい者の雇用も比較的容易になると見ているのだ。
 お客様相談グループでは、相談窓口における課題をひとつひとつ解決しながら、相談窓口が持つさまざまな可能性を追求していきたいとしている。


月刊『アイ・エム・プレス』2010年2月号の記事