医薬品をはじめ、『オロナミンCドリンク』や『SOYJOY』など日々の健康をサポートする製品の製造・販売を手掛ける大塚製薬(株)。同社では、複数の顧客接点に寄せられた声を製品の開発・改良につなげるとともに、リスクマネジメントにも活用している。今回は、顧客接点のひとつであるお客様相談室における取り組みについて話を聞いた。
製品カテゴリー別に問い合わせ窓口を用意
大塚製薬(株)は、1921年に大塚製薬工場として設立した。以降、事業領域の拡大を図り、現在では、医薬品・食品・飲料・化粧品などの開発・製造・販売を手掛けるメーカーとして人々の健康を多角的にサポート。日本国内にとどまらず、世界の人々の健康に貢献することを目指している。
医薬品からコンシューマー向け製品まで、幅広い製品を取り扱う同社では、飲料・食品に関する問い合わせに対応する「お客様相談室」、医薬品に関する問い合わせに対応する「医薬品情報センター」、そして医薬部外品および化粧品の問い合わせに対応する「お客様相談窓口」というように、製品カテゴリー別に問い合わせ窓口を用意。問い合わせに対する的確かつスピーディーな対応に努めてきた。また、近年ではこうした顧客接点を通じて収集したお客様の声を製品の開発や改良、マーケティング、さらにはリスクマネジメントにまで生かす取り組みにも注力している。
専門知識をもつ相談員を起用し問い合わせの難易度を問わず迅速・的確に対応
今回紹介する「お客様相談室」は、東京本部内に設けられている。受け付けに当たる相談員数は8名で、全員が大塚製薬の社員という、インハウスセンターだ。
問い合わせ対象となる製品は、「ポカリスエット」「オロナミンC ドリンク」「ネイチャーメイド」「SOYJOY」といった、人々の日々の健康をサポートするニュートラシューティカルズ(Nutrition とPharmaceuticalsを合わせた造語)製品で、17ブランド・約15アイテムに及ぶ。健康をサポートする製品であるニュートラシューティカルズ製品は、使用場所が一般家庭にとどまらずさまざまであることから、問い合わせ者は一般生活者や医師・薬剤師など幅広く、問い合わせ内容のレベルも一定でない。中には、栄養や健康状態、育児に関する専門知識が必要なケースもあることから、同相談室では相談員の一部に栄養士や薬剤師を起用。問い合わせの難易度にかかわらず、迅速かつ的確な対応ができる体制を整えている。
ニュートラシューティカルズ製品の代表例
アクセスしやすい環境を目指しフリーダイヤルを導入
問い合わせ窓口には、電話のほかにeメール・手紙・FAXを使用。電話窓口には、NTTコミュニケーションズ(株)のフリーダイヤル・サービスを導入している。
同相談室がフリーダイヤルを導入したのは、2007年2月と比較的最近のことだ。導入の背景には、お客さまがアクセスしやすい環境をつくるという目的があった。さらに、携帯電話からの通話も可能とすることで利便性を高めた。
フリーダイヤルによる受付時間帯は、土日・祝日を除く午前9時から午後5時まで。この間にeメールや手紙、FAXで寄せられた問い合わせへの返信業務も併せて行っている。
受付時間外に当たる午後5時から翌朝9時までと土日・祝日は、工場と研究所がある徳島県のテレフォンサービスセンター(TSC)のフリーダイヤル番号を自動音声で案内。緊急の用件にも備えている。
食に関する意識の高まりを受け体制を強化 ITで相談員をサポート
図表1は、問い合わせ受付件数の推移である。年によって若干上下しているものの、長期的に見ると増加傾向にあり、過去2年の増加にはフリーダイヤルの導入も影響していると考えられる。2008年には、電話・eメール・手紙・FAXを合わせて4万947件を受け付けた。このうち、電話は3万7,744件、e メールは2,895件、手紙・FAXは308件であった。
受付件数が増加傾向にあることに加えて、難易度がさまざまな問い合わせに対応するには、豊富な知識と相談者の話を聞き理解する力、さらには相談者が持っている知識に合わせて説明する力が必要である。また、食品メーカーの不祥事が後を絶たない今、食の安全・安心に対するお客さまの意識は以前にも増して高まっており、製造元として果たさなければならない説明責任が大きくなっている。
そこで、同相談室では相談員一人ひとりの資質に頼るだけでなく、ITによるサポートを推進して受付体制の強化を図った。具体的には、システムベンダーに協力を依頼し、独自のナレッジ・データベースを構築するとともに、応対履歴を蓄積・検索・閲覧することができる相談受付システムを開発したのだ。
業務を通じて機能を追加し使いやすさを追求
ナレッジ・データベースには、製品情報のほか、全社員が閲覧可能なQ&A集が蓄積されている。また、相談員の端末からインターネットに接続できるようになっており、研究機関などのWebサイトで公開されているデータベースなども活用。広く情報を収集して、応対に役立てている。
相談受付システムは、電話・eメール・手紙・FAX、すべての応対履歴を蓄積し、検索・閲覧することができるというもの。同一ロットに複数の苦情が寄せられた場合、受付履歴一覧の該当部分が太字で表示されるリスクマネジメント機能や、新製品の反応を抽出する機能、短期間に増えている問い合わせ内容を表示する機能なども備えている。
この相談受付システムが構築されたのは4年ほど前だが、その後、同相談室では業務を行う中で気付いた必要な機能を追加してきた。今後も、より良いシステムを目指して、改良に努めていく意向だ。
このほか、近年、多くのコールセンターで導入が進んでいるボイスロギングシステムも活用。電話応対履歴を音声でも残している。
ノートパソコンにモニターを1台追加し、一方でナレッジデータの検索・閲覧、もう一方で応対履歴を入力している
専用の冊子でプラスアルファの情報を提供
電話による問い合わせ受付の流れを見てみよう。まず、同相談室に着信したコールは、ダイレクトに相談員につながる。相談室では、3コール以内に電話に出ることをサービスレベルとして定めている。
電話が相談員につながると、相談員はお客さまから問い合わせ内容を聞き、ナレッジ・データベースで必要な情報を検索し的確な回答を行う。これと並行して、ニュアンスに注意を払いながら応対履歴を入力するか、もしくは電話を切ってから、その日のうちに入力する。
一方、eメールは同社Webサイトのお問い合わせフォームに書き込まれた相談を直接受付システムで受け取り、お客さまに返信している。手紙やFAXでの受け付けでは、書かれた文章を忠実に入力しているが、eメールの場合は別途入力する手間がかからず、応対履歴をそのまま記録しデータベース化できるところが、ほかのチャネルにはないメリットとなっている。
問い合わせ内容によっては、回答だけで終わらないケースもある。例えば、妊娠中のお母さんから葉酸摂取に関する問い合わせが寄せられる場合などがそうであり、同相談室では希望者に専用の冊子を送付して、プラスアルファの情報提供を行っている。お客さまへの気遣いが感じられる応対と言えよう。
個人の特定につながる情報を削除して公開情報を作成
一方、苦情対応については、品質管理担当と連携して行っている。苦情が寄せられると、まず製品を預り調査依頼書を作成し、預った製品と合わせて各工場の品質管理担当へ送付する。その後、品質管理担当が調査結果を苦情報告書にまとめ、工場長の承認を得てから相談室へ送付。相談室で報告書を確認した後、お客さまへ書面で回答するといった流れだ(図表2)。
この苦情対応の流れをサポートするのが、苦情要望対応システムである。同システムの導入により、相談室と工場の品質管理担当との連絡はすべてeメールで行われるようになったことから、苦情対応のスピードアップが図れたという。
応対履歴はお客さまの生の声に近いかたちで残されることから、全社に公開するに当たっては、相談員が個人の特定につながる可能性のある情報を削除している。公開情報は、リスクマネジメント情報、苦情情報、問い合わせ情報に分類。それぞれにアクセス権を設定した上で、閲覧を可能にしている。
急激な問い合わせ増で賞味期限表示を変更
同相談室が担っている大切な役割のひとつに、収集したお客さまの声(VOC)の活用がある。問い合わせや苦情の内容を月例報告、品質管理会議、支店長会議を通じて、経営トップおよび品質保証部、ニュートラシューティカルズ事業部と共有。さらに、イントラネットに問い合わせ状況やQ&Aを公開することで、お客さまの満足につながる活動につなげていくことを目的としている。
同社のロングセラー製品である「ポカリスエット」と「オロナミンC ドリンク」において、この夏に行われたVOC活用を紹介したい。
図表3は、賞味期限の読み方に関する問い合わせ件数の推移を示している。2009年5月から問い合わせ件数が急増していることがわかる。その理由は、この時期以降に出荷した製品の賞味期限が2009年から2010年に変わったことにあった。従来の表示方法では、例えば、賞味期限が2010年1月1日の製品には「100101」と表示されるが、これに対して多くのお客さまから「わかりにくい」「不親切である」というという声が寄せられたのである。
そのため、同相談室では7月の月例報告で改善を提案。この9月の出荷分から、年・月・日をドットで区切るようにした(資料)。今回の改善は提案から2カ月で実行に移されており、過去のケースと比較しても格段に速いスピードで実現したという。今後は、ほかの製品の賞味期限表示もドット入りに切り替えていくことで、同様の問い合わせを削減していきたいとしている。
音声データを活用したセルフ診断をスタート
現在、同相談室がお客さま対応において課題としていることは、応対品質の向上である。相談室では、ごく最近、自己チェックシートを作成。相談員が自分自身で対応した音声データを聞き返し、チェックシートに基づき評価していくセルフ診断をスタートした。今後は、これを研修システムとして体系化することに注力していく構え。よりお客さまに満足していただける応対を行うことにより、相談室に対するお客さまの信頼を醸成していきたいとしている。